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No.195
年の瀬は豪華に【嬬武器兄弟】
年の瀬は豪華に【嬬武器兄弟】
書き納め。お蕎麦には揚げ物載せたくなるよね。
大晦日にスーパー行く嬬武器兄弟の話。
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商品PRの録音音声、特徴的な店舗オリジナル音楽、カートが動く音、靴が床を打つ音、人の声。様々なものが人でごった返した空間に途切れることなく流れていく。
「豆腐ありました?」
「ほい。……あれ? 絹でよかったよな?」
「合ってます。ありがとうございます」
手にした買い物かごに入れられた白いパックを確認し、烈風刀は歩みを進める。よかったー、と呟く雷刀もその後ろに続いた。
天かす、油揚げ、と事前にリストアップした品を二人で次々とカゴに入れていく。年の瀬のスーパーは普段以上に人口密度が高く、動くのすらやっとだ。灰色のプラスチックの中に色が溢れる頃には、普段の倍近い時間が経っていた。
チープな音楽が流れる惣菜コーナーへと辿り着く。『年越し!』とマジックペンで書き殴られた赤いポップの下には、豊富な揚げ物が並んでいた。エビ天にイカ天に磯辺揚げ、から揚げにアジフライにスコッチエッグなんてものもある。普段は閑散とした棚は、どこも衣の黄色で埋まっている。底の浅い容器に残った細かな揚げカスの量から、元は山盛りになっていたことが察せられた。
やはり大晦日となると、揚げ物需要が高いらしい。事実、己たち兄弟も今日の目当てはエビ天だ。年越し蕎麦にはエビ天が必要不可欠なのだ。
本当ならばこんな大晦日に人が普段の五割増しになるスーパーには行かない方が良いのだろう。しかし、さすがに大掃除をこなした大晦日やその前日に揚げ物をするのは骨が折れるのだ。手軽さを求めて最寄りのスーパーで買うのが恒例行事となっていた。
「烈風刀ー」
トングとフードパックを持って品定めしていると、名を呼ばれた。碧い瞳が聞き逃すことの無い音の方へと動いていく。そこには、にまりと笑みを浮かべた朱の姿があった。手には己と同じように銀のトングと透明なパックが握られている。カチカチと金属がぶつかる音がPRに励む自動音声にまぎれていった。
「大晦日なんだしさ、贅沢してもよくね?」
「大晦日と贅沢に関連性が見えませんが」
えー、と雷刀は口を尖らせる。またカチカチとトングが鳴き声をあげた。行儀が悪い、と諫めると、動かす手が拗ねたように止まった。
「大掃除頑張ったしちょっとぐらい贅沢してもよくね? カロリー消費しまくってんだから補充しねーと」
「まぁ、たしかに頑張ってくれましたが」
兄の言葉に、弟は丸い目を薄くする。整えられた眉は悩ましげに寄せられていた。なー、と兄は繰り返す。まるで撫でろと擦り付いてくる猫のような姿だった。
言葉通り、今日の雷刀の活躍はめざましいものだった。自室はもちろん、トイレに風呂、洗面所といった本格的に手入れすると七面倒臭い場所を綺麗に磨き上げてくれたのだ。特に風呂場の鏡など湯垢の一つも無くピカピカに仕上げていたのだから素晴らしいものである。これを使って汚していいのだろうか、と躊躇うほどには。
それだけの功績を挙げたのだから、天ぷらの一つや二つ弾んでもいいではないだろうか。エビ天といっても、このスーパーのものはサイズに対してリーズナブルだ。少し多く買ったとて財布へのダメージは少ない。功労を讃えるにしては随分と安上がりだ。
「……いいですよ」
「さすが烈風刀!」
頷く弟に、兄は満面の笑みを返す。カチン、とまたトングが鳴く。勢い余ったのか、パックもクシャリと悲鳴をあげた。
鼻歌でも歌いそうな表情で、雷刀はトングを操っていく。衣たっぷりのエビ天、緑鮮やかな磯辺揚げ、一口で収まりそうにないから揚げ、触れただけで音をたてそうなコロッケ。たくさんの揚げ物が手元のパックに詰められていった。
「……もしかして、それ全部お蕎麦に載せるんですか?」
「そうだけど?」
眉をひそめる烈風刀に、雷刀はきょとりとした顔で返す。丸くなった目は、当然だろう、と言いたげなものだった。はぁ、と思わず溜め息が漏れた。
「お蕎麦が油でギトギトになるでしょう。別で食べた方がいいですって」
「だってエビ天蕎麦もちくわ天蕎麦もコロッケ蕎麦もあるじゃん? 全部一緒にしてもだいじょぶだって」
「から揚げ蕎麦は無いでしょう」
首を振る碧に、朱はまたトングで返事をする。おかしいですって。だいじょぶだって。揚げ物売り場で静かな議論が繰り広げられていく。
「あー、でもぐしょぐしょなから揚げはやだな。から揚げだけ別にすっかな」
「コロッケも別の方がいいでしょう。出汁の中で崩れてぐちゃぐちゃになりますよ」
それもそっか、と雷刀は輪ゴムを手に取る。はち切れんばかりに詰められたパックに二度通し、蓋を押さえ込んだ。手にしたカゴに入れられる。ギチギチと音をたてそうなそれに、これだけで二食は食べられるのではないか、なんて考えてしまう。健啖家な兄だから、一食でもまだ足りないなんて言い出しそうだが。
手にしたままの空っぽパックに、烈風刀も揚げ物を詰めていく。エビ天と磯辺揚げを入れると、手早く輪ゴムで閉じた。カゴに入れたそれが滑ってぶつかり音をたてる。
「そんだけでいいの?」
「あんまり多く入れると油だらけになりますからね」
新年に胃もたれしたくないでしょう、と返すと、こんぐらいで胃もたれしねーだろ、と笑い飛ばす声が返ってくる。普段通り米で食べるならそうだが、今回は蕎麦である。汁物である。温かで穏やかな味とはいえ、汁たっぷりの食べ物に揚げ物をたんまり載せるのは食べ合わせが悪いように思えて憚られた。
「あとなんか買うもんあったっけ? うどん?」
「うどんは冷凍のがあと三つはありますね。大丈夫かと」
「じゃあこれでいっか」
カゴの中身を眺める雷刀に、そうですね、と言って烈風刀は歩き出す。道を塞がないためにか、兄も縦に並んで続いた。
大晦日、音と人がごった返す中に二色が消えていった。
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#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
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SDVX
2024/12/31(Tue) 23:23
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「豆腐ありました?」
「ほい。……あれ? 絹でよかったよな?」
「合ってます。ありがとうございます」
手にした買い物かごに入れられた白いパックを確認し、烈風刀は歩みを進める。よかったー、と呟く雷刀もその後ろに続いた。
天かす、油揚げ、と事前にリストアップした品を二人で次々とカゴに入れていく。年の瀬のスーパーは普段以上に人口密度が高く、動くのすらやっとだ。灰色のプラスチックの中に色が溢れる頃には、普段の倍近い時間が経っていた。
チープな音楽が流れる惣菜コーナーへと辿り着く。『年越し!』とマジックペンで書き殴られた赤いポップの下には、豊富な揚げ物が並んでいた。エビ天にイカ天に磯辺揚げ、から揚げにアジフライにスコッチエッグなんてものもある。普段は閑散とした棚は、どこも衣の黄色で埋まっている。底の浅い容器に残った細かな揚げカスの量から、元は山盛りになっていたことが察せられた。
やはり大晦日となると、揚げ物需要が高いらしい。事実、己たち兄弟も今日の目当てはエビ天だ。年越し蕎麦にはエビ天が必要不可欠なのだ。
本当ならばこんな大晦日に人が普段の五割増しになるスーパーには行かない方が良いのだろう。しかし、さすがに大掃除をこなした大晦日やその前日に揚げ物をするのは骨が折れるのだ。手軽さを求めて最寄りのスーパーで買うのが恒例行事となっていた。
「烈風刀ー」
トングとフードパックを持って品定めしていると、名を呼ばれた。碧い瞳が聞き逃すことの無い音の方へと動いていく。そこには、にまりと笑みを浮かべた朱の姿があった。手には己と同じように銀のトングと透明なパックが握られている。カチカチと金属がぶつかる音がPRに励む自動音声にまぎれていった。
「大晦日なんだしさ、贅沢してもよくね?」
「大晦日と贅沢に関連性が見えませんが」
えー、と雷刀は口を尖らせる。またカチカチとトングが鳴き声をあげた。行儀が悪い、と諫めると、動かす手が拗ねたように止まった。
「大掃除頑張ったしちょっとぐらい贅沢してもよくね? カロリー消費しまくってんだから補充しねーと」
「まぁ、たしかに頑張ってくれましたが」
兄の言葉に、弟は丸い目を薄くする。整えられた眉は悩ましげに寄せられていた。なー、と兄は繰り返す。まるで撫でろと擦り付いてくる猫のような姿だった。
言葉通り、今日の雷刀の活躍はめざましいものだった。自室はもちろん、トイレに風呂、洗面所といった本格的に手入れすると七面倒臭い場所を綺麗に磨き上げてくれたのだ。特に風呂場の鏡など湯垢の一つも無くピカピカに仕上げていたのだから素晴らしいものである。これを使って汚していいのだろうか、と躊躇うほどには。
それだけの功績を挙げたのだから、天ぷらの一つや二つ弾んでもいいではないだろうか。エビ天といっても、このスーパーのものはサイズに対してリーズナブルだ。少し多く買ったとて財布へのダメージは少ない。功労を讃えるにしては随分と安上がりだ。
「……いいですよ」
「さすが烈風刀!」
頷く弟に、兄は満面の笑みを返す。カチン、とまたトングが鳴く。勢い余ったのか、パックもクシャリと悲鳴をあげた。
鼻歌でも歌いそうな表情で、雷刀はトングを操っていく。衣たっぷりのエビ天、緑鮮やかな磯辺揚げ、一口で収まりそうにないから揚げ、触れただけで音をたてそうなコロッケ。たくさんの揚げ物が手元のパックに詰められていった。
「……もしかして、それ全部お蕎麦に載せるんですか?」
「そうだけど?」
眉をひそめる烈風刀に、雷刀はきょとりとした顔で返す。丸くなった目は、当然だろう、と言いたげなものだった。はぁ、と思わず溜め息が漏れた。
「お蕎麦が油でギトギトになるでしょう。別で食べた方がいいですって」
「だってエビ天蕎麦もちくわ天蕎麦もコロッケ蕎麦もあるじゃん? 全部一緒にしてもだいじょぶだって」
「から揚げ蕎麦は無いでしょう」
首を振る碧に、朱はまたトングで返事をする。おかしいですって。だいじょぶだって。揚げ物売り場で静かな議論が繰り広げられていく。
「あー、でもぐしょぐしょなから揚げはやだな。から揚げだけ別にすっかな」
「コロッケも別の方がいいでしょう。出汁の中で崩れてぐちゃぐちゃになりますよ」
それもそっか、と雷刀は輪ゴムを手に取る。はち切れんばかりに詰められたパックに二度通し、蓋を押さえ込んだ。手にしたカゴに入れられる。ギチギチと音をたてそうなそれに、これだけで二食は食べられるのではないか、なんて考えてしまう。健啖家な兄だから、一食でもまだ足りないなんて言い出しそうだが。
手にしたままの空っぽパックに、烈風刀も揚げ物を詰めていく。エビ天と磯辺揚げを入れると、手早く輪ゴムで閉じた。カゴに入れたそれが滑ってぶつかり音をたてる。
「そんだけでいいの?」
「あんまり多く入れると油だらけになりますからね」
新年に胃もたれしたくないでしょう、と返すと、こんぐらいで胃もたれしねーだろ、と笑い飛ばす声が返ってくる。普段通り米で食べるならそうだが、今回は蕎麦である。汁物である。温かで穏やかな味とはいえ、汁たっぷりの食べ物に揚げ物をたんまり載せるのは食べ合わせが悪いように思えて憚られた。
「あとなんか買うもんあったっけ? うどん?」
「うどんは冷凍のがあと三つはありますね。大丈夫かと」
「じゃあこれでいっか」
カゴの中身を眺める雷刀に、そうですね、と言って烈風刀は歩き出す。道を塞がないためにか、兄も縦に並んで続いた。
大晦日、音と人がごった返す中に二色が消えていった。
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