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No.199
お前が目指す場所はどこよりも【マルノミ】
お前が目指す場所はどこよりも【マルノミ】
本誌25年2月号を読んで狂ったオタクの怪文書。該当号以前のネタバレ有。
マルノミくんの執着心をナワバリに昇華させてどうにかしようとしたのがあの子だったらいいなという話。100%捏造。隅から隅まで捏造。捏造じゃないところはマルノミ君の名前とあの子の持ちブキだけ。
執筆及び投稿時点であの子の名前は出てません。出たら加筆修正するやもしれぬ。
一番になりたい子とその子をずっと見ていた子の話。
本文を読む
はぁ、と珍しくひっくり返った間抜けな声を今でも覚えている。
友人であるマルノミは『一番』であることに固執するヒトだ。学業でも、趣味でも、芸事でも、何もかもで『一番』を取ることに固執する。それだけあって、相応に努力を重ねている姿は常々見ていた。他者からは余裕綽々にこなしているように見せながら、裏では自己の時間を犠牲にして何事にも励んで、努めて、心血を注いでいた――その努力が実を結ぶことは無かったが。
優秀である友人は、誰よりも優秀であるはずの友人は、毎回あと一歩及ばない。例えば難問を解ききれず部分点しかもらえなかったり、個を磨くがあまりヒトと足並みを揃えられなかったり、秀でてありながらも審査の観点からは外れる表現をしたり。毎回加点要素をどこか取り逃す。『一番』を取り逃す。何が何でも欲するそれに手が届かずにいる。その苦痛がどれほどのものかなど想像に容易い――周りは彼が演じる飄々としたキャラクターに誤魔化されているが。
彼は『一番』になれない。
ならば、『一番』になれる場を与えてやればいい。
おい、とか、なぁ、とか、名前とか。荒々しい声が背中にぶつけられる。掴んだ腕は逃げたそうに後ろへと引いていく。逃げさせぬようにがっちりと掴んで、街へと続く道を走った。無理矢理にでも掴んで走らねば、もうこいつを捉えることなどできないのだ。酷い強硬手段だという自覚はあるものの、目的のためには仕方が無い。付き合わせるがまでだ。
「おい! どこ行くんや!」
「ブキ屋」
喚く友人に短く返す。はぁ、と素っ頓狂な声が返ってきた。目的地が示された安堵にか、それとも事態が未だに飲み込めない混乱にか、反抗の力が一瞬弱まる。その瞬間を見逃すこと無く、掴む手に再び力を入れ走る。走る。走る。ごちゃごちゃとした街を二人で走って突っ切っていく。
「なんやこれ」
「わかばシューターだ」
「……え? 何? 何でボクにブキ持たすん」
飛び込んだカンブリアームズ、店主に初心者だと説明してわかばシューターを一丁交換してもらい、マルノミに投げて渡す。初めてブキを持った友人は、怪訝そうに小さな精密機械を手の内で回しながら眺めていた。眉根を寄せたその顔目掛けて、これまた新品のインクタンクを投げ渡す。ほんま何なん、と見事にキャッチした手の横から抗議の悲鳴が飛んできた。
「バトルに行くからだ」
はぁ、と今日何度目かの裏返り声がブキ屋に響き渡った。
ロビーに設置された端末の前に並ぶ。手慣れた調子で操作すると、大きな液晶画面にはWINの大きな文字が表示された。枠組みの中に野良の即席チーム、四人のメンバーが並ぶ。一番上には『Player』――今しがた初めてのナワバリバトルデビューを果たした友人の仮名が記されていた。横に並ぶ数字は、一〇〇〇を余裕で越えた、チーム四人どころか対戦相手を含めた八人の中でもずば抜けたものだ。彼が誰よりもステージを塗ったことが――誰よりもバトルに貢献したのかを端的に表していた。
「いきなりヒトんこと無理矢理連れてきよぉたと思ったらそんままバトルさせるとか。なんやねん」
今日一日中眉をひそめ顔をしかめ怪訝そうに見やるマルノミは、手の内のわかばシューターを回す。今日初めて持った者とは思えない動きだ。日々の努力が実を結んだその身体は、何事もヒト並み以上にこなすことができる実力を秘めている。わかばシューターほど小さなものならば取り回すのは朝飯前だろう。
しかめ面の友人に、立てた指を向ける。ヒトんこと指差すなや、という常識的な指摘を無視して、そのまま誘導するように液晶画面へとゆっくり指を動かしていく。眇められた双眸が、大型モニタへと吸い込まれていった。
「一番だ。お前が一番塗って、一番貢献していた」
お前が一番だ。
事実を告げる。変えられない結果を突きつける。彼が掴み取った現実を教え込ませる。
マルノミは学問に励んでいた。趣味に励んでいた。芸事に励んでいた。励むがあまり、彼はナワバリバトルを体験したことが無い。バトルに手を出せるほどの時間は余っていないのだ。周りがバトルを楽しむ中、彼は努力を重ねていた。『一番』になるために。
彼の能力はこれ以上に無いほど秀でている。勉学を詰め込んだ頭は素早く回り良い結果を弾き出すし、鍛えられた身体は俊敏に動く。芸事で研ぎ澄まされた勘は恐ろしさを覚えるほど鋭い。これだけのヒトがナワバリバトルをしていないなど、大きな損失だ。何より、彼にとっての損失だ。『一番』を取れる能力があるのに、その舞台に立たないなど。
ならば、立たせてやればいい。無理にでも引っ張って、舞台に引き上げて、誰よりも輝かせてやればいいのだ。
理解が追いつかないのか、大きな布に包まれた顔はぽかんと口を開けた間抜けなものになっていた。それがだんだんと鮮やかになっていく。半分になっていた目は丸くなり、呆けたように開いた口は口角を上げ、白い肌が健康的な鮮やかさで染まっていく。この表情を言葉で表すならば、おそらく『歓喜』だ――『歓喜』であってほしい、と思ってしまう。身勝手な願いだ。
「……いや、こんなんただ塗っただけやろ」
「その『ただ塗る』ができないやつがどれだけいるか、見れば分かるだろ?」
指差す先、並ぶ数字は彼を除けば三桁だ。カバーすべくキルに重きを置くプレースタイルでいったとはいえ、己など彼の半分も塗っていない。他の塗りブキも、彼には一歩どころか五歩は及ばない数値である。初心者である彼が、初めて『ナワバリバトル』というものを知った彼が、一番仕事をしたことは明らかだ。
沈黙。わかばシューターを握っていない方の手が持ち上がり、厚い布に包まれた頭をガシガシと掻く。あー、と浮かぶような沈むような、何とも言い難い声が漏れたのが聞こえた。
「……まぁ、一番やな」
はっ、とマルノミは鼻を鳴らす。その口元が薄く緩んでいるように見えたのは、気のせいではないはずだ。
白いシャツに包まれた肩に手を置く。がっしりと掴む。逃がすまいと掴む。なんや、とまた訝しげな声と視線がぶつけられる。瞼が少し降りたその吊り目を、真正面から見つめる。絶対に逃がすまいと見つめる。
「お前なら勝てる。初戦でこれだぞ。誰よりも強くなれる」
だから、一番になりにいくぞ。
掴んだ手に自然と力がこもる。はぁ、ともう飽きすら感じるほどの疑問声が耳をくすぐった。瞼が全部上がって、目が丸くなって、口が大きくなって、眉が吊り上がって。目の前の表情がめまぐるしく変わる。それが落ち着くのをじっと待つ。彼が導き出す結論をじっと待つ。祈るように、願うように、乞うように、じっと見つめて言葉を待った。
「……まぁ、ええんとちゃう」
付きおうたるわ。
また鼻を鳴らし、マルノミは言う。共に頂点を目指す言葉を紡ぎ出す。彼が目指すべく場所へと向かうと、己の前で確かに宣言した。
肩を掴んでいた手に力がこもる。痛いわ、といつもと同じ調子の声と大きな手で弾き飛ばされた。すまない、と返した声は、己でも驚くほど浮かれていた。
「まず基礎教えぇや。なに初心者いきなり実戦に放り込んどんねん」
「……すまない」
「お前らしいけどなぁ」
変なとこ突っ走るんやから分からんわぁ、とマルノミは歌うように言う。仕方が無いだろう、と返しそうになったのをグッとこらえた。彼の指摘は真っ当なものである。返す言葉はどれも言い訳にしかならないだろう。実際、全て言い訳だ。己は己の欲望がためにこの身を動かしたのだ。
ロッカーにいくらか基礎の本があったはずだ。こっちだ、とロッカールームを指差し案内する。手遊びのようにわかばシューターをいじくる手が止まり、軽い調子の足音が耳を撫ぜた。
はよしぃ、と急かす声は弾んだものだった。
「『デンタルワイパー』やって」
へぇ、とマルノミの手元にある小さな画面を覗き込む。『新開発!』『待望の新ワイパー!』と大きな文字たちの下に並ぶ写真を見る。写っているブキは、確かにワイパー種の形をしていた。しかし、ドライブワイパーやジムワイパーのように刀身が剥き出しではない。カラフルに彩られた刀身は、ポップな文字が描かれたビニールカバーに包まれていた。これで攻撃ができるのだろうか、と首を傾げる。ジムワイパーもドライブワイパーも刀身を振り抜く遠心力でインクを飛ばすのが主だが、直接ブキを当てることでも攻撃が可能だ。ぷにぷにとした柔らかいビニール素材にその力があるとは思えなかった。
四角い指が器用にボタンを操って、画面内の動画を再生する。デンタルワイパーの実戦動画だ。見るに、溜め斬りの際はあのカバーを取るらしい。しかも、他のワイパー種と違い大きく前進して振り抜いている。素早いその動きは、使いこなすことができれば相手を翻弄し、大胆に攻撃し、試合を有利に持っていけるだろう。
「これええなぁ。使お」
「珍しいな」
「だって絶対おもろいやろ」
愉快そうな声に、小さく頷いて返す。こんな特徴的な動きをするブキはワイパー種はおろか、全ブキで見ても初めてだ。多くの者に面白く映るだろう。興味を持つ者も多いはずだ。新シーズンが幕開ければ、バトルは新しく出たブキたちで埋め尽くされることになるだろう。研究しないとな、と動画を再び見るべく己の端末を取り出した――画面は大きな手によって遮られたが。
「ワイパー教えぇ。先に練習しときたいわ」
「ジムワイパーとは使い心地が違いそうだぞ」
「使い心地違っても立ち回りの基礎は同じやろ。ほら、行くで」
画面を遮っていた手がナマコフォンを取り上げ、空になった手を掴む。そのまま、ロビーの方へと引っ張られていった。掴む手は固く、強く、熱い。彼がどれだけ期待しているかなど、それだけで十二分に分かった。
ジムワイパーを握る手に力を込める。これからは忙しい日々になりそうだ。
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#マルノミ
#マルノミ
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スプラトゥーン
2025/1/19(Sun) 23:38
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お前が目指す場所はどこよりも【マルノミ】
お前が目指す場所はどこよりも【マルノミ】本誌25年2月号を読んで狂ったオタクの怪文書。該当号以前のネタバレ有。
マルノミくんの執着心をナワバリに昇華させてどうにかしようとしたのがあの子だったらいいなという話。100%捏造。隅から隅まで捏造。捏造じゃないところはマルノミ君の名前とあの子の持ちブキだけ。
執筆及び投稿時点であの子の名前は出てません。出たら加筆修正するやもしれぬ。
一番になりたい子とその子をずっと見ていた子の話。
はぁ、と珍しくひっくり返った間抜けな声を今でも覚えている。
友人であるマルノミは『一番』であることに固執するヒトだ。学業でも、趣味でも、芸事でも、何もかもで『一番』を取ることに固執する。それだけあって、相応に努力を重ねている姿は常々見ていた。他者からは余裕綽々にこなしているように見せながら、裏では自己の時間を犠牲にして何事にも励んで、努めて、心血を注いでいた――その努力が実を結ぶことは無かったが。
優秀である友人は、誰よりも優秀であるはずの友人は、毎回あと一歩及ばない。例えば難問を解ききれず部分点しかもらえなかったり、個を磨くがあまりヒトと足並みを揃えられなかったり、秀でてありながらも審査の観点からは外れる表現をしたり。毎回加点要素をどこか取り逃す。『一番』を取り逃す。何が何でも欲するそれに手が届かずにいる。その苦痛がどれほどのものかなど想像に容易い――周りは彼が演じる飄々としたキャラクターに誤魔化されているが。
彼は『一番』になれない。
ならば、『一番』になれる場を与えてやればいい。
おい、とか、なぁ、とか、名前とか。荒々しい声が背中にぶつけられる。掴んだ腕は逃げたそうに後ろへと引いていく。逃げさせぬようにがっちりと掴んで、街へと続く道を走った。無理矢理にでも掴んで走らねば、もうこいつを捉えることなどできないのだ。酷い強硬手段だという自覚はあるものの、目的のためには仕方が無い。付き合わせるがまでだ。
「おい! どこ行くんや!」
「ブキ屋」
喚く友人に短く返す。はぁ、と素っ頓狂な声が返ってきた。目的地が示された安堵にか、それとも事態が未だに飲み込めない混乱にか、反抗の力が一瞬弱まる。その瞬間を見逃すこと無く、掴む手に再び力を入れ走る。走る。走る。ごちゃごちゃとした街を二人で走って突っ切っていく。
「なんやこれ」
「わかばシューターだ」
「……え? 何? 何でボクにブキ持たすん」
飛び込んだカンブリアームズ、店主に初心者だと説明してわかばシューターを一丁交換してもらい、マルノミに投げて渡す。初めてブキを持った友人は、怪訝そうに小さな精密機械を手の内で回しながら眺めていた。眉根を寄せたその顔目掛けて、これまた新品のインクタンクを投げ渡す。ほんま何なん、と見事にキャッチした手の横から抗議の悲鳴が飛んできた。
「バトルに行くからだ」
はぁ、と今日何度目かの裏返り声がブキ屋に響き渡った。
ロビーに設置された端末の前に並ぶ。手慣れた調子で操作すると、大きな液晶画面にはWINの大きな文字が表示された。枠組みの中に野良の即席チーム、四人のメンバーが並ぶ。一番上には『Player』――今しがた初めてのナワバリバトルデビューを果たした友人の仮名が記されていた。横に並ぶ数字は、一〇〇〇を余裕で越えた、チーム四人どころか対戦相手を含めた八人の中でもずば抜けたものだ。彼が誰よりもステージを塗ったことが――誰よりもバトルに貢献したのかを端的に表していた。
「いきなりヒトんこと無理矢理連れてきよぉたと思ったらそんままバトルさせるとか。なんやねん」
今日一日中眉をひそめ顔をしかめ怪訝そうに見やるマルノミは、手の内のわかばシューターを回す。今日初めて持った者とは思えない動きだ。日々の努力が実を結んだその身体は、何事もヒト並み以上にこなすことができる実力を秘めている。わかばシューターほど小さなものならば取り回すのは朝飯前だろう。
しかめ面の友人に、立てた指を向ける。ヒトんこと指差すなや、という常識的な指摘を無視して、そのまま誘導するように液晶画面へとゆっくり指を動かしていく。眇められた双眸が、大型モニタへと吸い込まれていった。
「一番だ。お前が一番塗って、一番貢献していた」
お前が一番だ。
事実を告げる。変えられない結果を突きつける。彼が掴み取った現実を教え込ませる。
マルノミは学問に励んでいた。趣味に励んでいた。芸事に励んでいた。励むがあまり、彼はナワバリバトルを体験したことが無い。バトルに手を出せるほどの時間は余っていないのだ。周りがバトルを楽しむ中、彼は努力を重ねていた。『一番』になるために。
彼の能力はこれ以上に無いほど秀でている。勉学を詰め込んだ頭は素早く回り良い結果を弾き出すし、鍛えられた身体は俊敏に動く。芸事で研ぎ澄まされた勘は恐ろしさを覚えるほど鋭い。これだけのヒトがナワバリバトルをしていないなど、大きな損失だ。何より、彼にとっての損失だ。『一番』を取れる能力があるのに、その舞台に立たないなど。
ならば、立たせてやればいい。無理にでも引っ張って、舞台に引き上げて、誰よりも輝かせてやればいいのだ。
理解が追いつかないのか、大きな布に包まれた顔はぽかんと口を開けた間抜けなものになっていた。それがだんだんと鮮やかになっていく。半分になっていた目は丸くなり、呆けたように開いた口は口角を上げ、白い肌が健康的な鮮やかさで染まっていく。この表情を言葉で表すならば、おそらく『歓喜』だ――『歓喜』であってほしい、と思ってしまう。身勝手な願いだ。
「……いや、こんなんただ塗っただけやろ」
「その『ただ塗る』ができないやつがどれだけいるか、見れば分かるだろ?」
指差す先、並ぶ数字は彼を除けば三桁だ。カバーすべくキルに重きを置くプレースタイルでいったとはいえ、己など彼の半分も塗っていない。他の塗りブキも、彼には一歩どころか五歩は及ばない数値である。初心者である彼が、初めて『ナワバリバトル』というものを知った彼が、一番仕事をしたことは明らかだ。
沈黙。わかばシューターを握っていない方の手が持ち上がり、厚い布に包まれた頭をガシガシと掻く。あー、と浮かぶような沈むような、何とも言い難い声が漏れたのが聞こえた。
「……まぁ、一番やな」
はっ、とマルノミは鼻を鳴らす。その口元が薄く緩んでいるように見えたのは、気のせいではないはずだ。
白いシャツに包まれた肩に手を置く。がっしりと掴む。逃がすまいと掴む。なんや、とまた訝しげな声と視線がぶつけられる。瞼が少し降りたその吊り目を、真正面から見つめる。絶対に逃がすまいと見つめる。
「お前なら勝てる。初戦でこれだぞ。誰よりも強くなれる」
だから、一番になりにいくぞ。
掴んだ手に自然と力がこもる。はぁ、ともう飽きすら感じるほどの疑問声が耳をくすぐった。瞼が全部上がって、目が丸くなって、口が大きくなって、眉が吊り上がって。目の前の表情がめまぐるしく変わる。それが落ち着くのをじっと待つ。彼が導き出す結論をじっと待つ。祈るように、願うように、乞うように、じっと見つめて言葉を待った。
「……まぁ、ええんとちゃう」
付きおうたるわ。
また鼻を鳴らし、マルノミは言う。共に頂点を目指す言葉を紡ぎ出す。彼が目指すべく場所へと向かうと、己の前で確かに宣言した。
肩を掴んでいた手に力がこもる。痛いわ、といつもと同じ調子の声と大きな手で弾き飛ばされた。すまない、と返した声は、己でも驚くほど浮かれていた。
「まず基礎教えぇや。なに初心者いきなり実戦に放り込んどんねん」
「……すまない」
「お前らしいけどなぁ」
変なとこ突っ走るんやから分からんわぁ、とマルノミは歌うように言う。仕方が無いだろう、と返しそうになったのをグッとこらえた。彼の指摘は真っ当なものである。返す言葉はどれも言い訳にしかならないだろう。実際、全て言い訳だ。己は己の欲望がためにこの身を動かしたのだ。
ロッカーにいくらか基礎の本があったはずだ。こっちだ、とロッカールームを指差し案内する。手遊びのようにわかばシューターをいじくる手が止まり、軽い調子の足音が耳を撫ぜた。
はよしぃ、と急かす声は弾んだものだった。
「『デンタルワイパー』やって」
へぇ、とマルノミの手元にある小さな画面を覗き込む。『新開発!』『待望の新ワイパー!』と大きな文字たちの下に並ぶ写真を見る。写っているブキは、確かにワイパー種の形をしていた。しかし、ドライブワイパーやジムワイパーのように刀身が剥き出しではない。カラフルに彩られた刀身は、ポップな文字が描かれたビニールカバーに包まれていた。これで攻撃ができるのだろうか、と首を傾げる。ジムワイパーもドライブワイパーも刀身を振り抜く遠心力でインクを飛ばすのが主だが、直接ブキを当てることでも攻撃が可能だ。ぷにぷにとした柔らかいビニール素材にその力があるとは思えなかった。
四角い指が器用にボタンを操って、画面内の動画を再生する。デンタルワイパーの実戦動画だ。見るに、溜め斬りの際はあのカバーを取るらしい。しかも、他のワイパー種と違い大きく前進して振り抜いている。素早いその動きは、使いこなすことができれば相手を翻弄し、大胆に攻撃し、試合を有利に持っていけるだろう。
「これええなぁ。使お」
「珍しいな」
「だって絶対おもろいやろ」
愉快そうな声に、小さく頷いて返す。こんな特徴的な動きをするブキはワイパー種はおろか、全ブキで見ても初めてだ。多くの者に面白く映るだろう。興味を持つ者も多いはずだ。新シーズンが幕開ければ、バトルは新しく出たブキたちで埋め尽くされることになるだろう。研究しないとな、と動画を再び見るべく己の端末を取り出した――画面は大きな手によって遮られたが。
「ワイパー教えぇ。先に練習しときたいわ」
「ジムワイパーとは使い心地が違いそうだぞ」
「使い心地違っても立ち回りの基礎は同じやろ。ほら、行くで」
画面を遮っていた手がナマコフォンを取り上げ、空になった手を掴む。そのまま、ロビーの方へと引っ張られていった。掴む手は固く、強く、熱い。彼がどれだけ期待しているかなど、それだけで十二分に分かった。
ジムワイパーを握る手に力を込める。これからは忙しい日々になりそうだ。
畳む
#マルノミ