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No.203

選んで掴んで並べて飾って【マルノミ】

選んで掴んで並べて飾って【マルノミ】
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本誌25年2月号を読んで狂ったオタクの怪文書。該当号以前のネタバレ有。
マルノミ君の缶バッジはゲーム内のバッジと同じ意味を持ってたらいいねって。だから集めてたらいいねって。それを理解されてたらいいねって。捏造しかない。口調も名前も分かりません助けてください。
名前判明次第タグ付けるし本文加筆修正するかもしれない。
バッジを集める子とバッジに振り回される子の話。

 軽い音をたてて目の前に鮮やかな円が並べ立てられていく。シンプルなイラストから金銀に光るものまで、描かれたバッジはどれも特徴的でデザイン的だ。全て手のひらに収まる小さなサイズだというのに、特別な存在感と輝きを放っているように見えた――きっと目の前の存在のせいだろう。
「で、どれにするん?」
「どれも何もないだろ。自分で選べ」
「それが邪魔くさいから選んで言うとるんや」
 ほらほらぁ、とマルノミはまだまだ缶バッジを並べていく。二人とも直に座った床、目の前のフローリングに綺麗に整列していくそれはもう両の手足の指を使っても数えられないほどの量になっていた。どこにこんな数をしまいこんでいたのだ、と疑問が浮かぶほどである。この中から二つも選べなど、しかも自分で選ぶのが面倒臭いからなんて理由で押しつけてくるのだからこの男は面倒だ。彼には見えぬよう、小さく息を吐いた。
 マルノミはバッジを集めている。
 ブキのじゅくれん度、スペシャルウェポンの使用数、バトルの勝利数、果てはギアのレア度。国際ナワバリバトル連盟は様々な条件を設け、バッジの配布を行っている。ブキを使うだけで簡単に手に入るものもあれば、数多の勝利を要求されるものまである。一種の勲章のようなものだ。努力した者へ、強い者へ与えられる、確かな証。
 何でもかんでも『一番』を目指すマルノミが収集に手を出すのはある種の必然であった。何と言ったって、一つの『一番』を讃えるものなのだ。一番ブキを使った者。一番勝った者。一番集めた者。何かしらにおいての『一番』を認めるそれに、彼が目を付けないはずがない。
 そうしてバッジ集めに駆り出されるようになって随分と経つ。初めの頃はじゅくれん度バッジが主だったが、今ではガチルール勝利数バッジやバンカラマッチ勝ち抜け数バッジなどバトルに関するものも多くなっていた。彼がどれだけ強いか――強くなったか。それを端的に証明している。
 問題は、そのバッジをマルノミがゲソに付けるようになったことだ。頭部に位置するゲソには痛覚が無いとはいえ、随分と大胆なことをしたものだ。『一番』の証、実力の誇示、対戦チームへの牽制。理由はこんなものだろう。どうせ本人は『流行のファッションや』なんて誤魔化すだろうが。
 時には日替わりで、時には定番で、時には固定で。ゲソに輝くバッジは変化していく。彼曰く気分で変えているようだが、ウデマエS+到達の証だけは絶対に付けているのだから変なところで分かりやすい。
 同じチームとして活動する以上、コロコロと変わるバッジを隣で見てきた。そして、何故か今に至る。
「ヒトが選んだところで何の意味も無いだろう」
「あるて。ボクには思いつかへん組み合わせが出てくるかもしれんやろ?」
 パチン、と最後のバッジを並べ終え、マルノミは言う。じゅくれん度バッジ、勝利数バッジ、ブランドバッジ、イベントマッチバッジ。様々な絵柄がじっとこちらを見つめてくる。もちろん、持ち主もじっとこちらを見つめてくる。早く選べ、と言いたげなものだった。
 ここで躱し続けるのは不可能に近いだろう。もう適当に選ぶ他無い。ざっと眺めて、一つを手に取る。彼が愛用するギア、アロメスローガンTを販売しているアロメのブランドバッジだ。選ぶのが面倒で、すぐ下にあったグレートバリアのスペシャルウェポンバッジを手に取る。ほら、と二つを持ち主であるマルノミの手に押しつける。カランと音をたてた二つを眺め、彼は小さく首を傾げた。太い眉が少しばかり中心に寄っているのが見えた。
「なんか、イカしてないなぁ」
「は?」
 渡したバッジをカチャカチャと音をたてていじりまわしながらマルノミは言う。あまりにも身勝手な言葉に、思わず低い声が漏れた。
「だってアロメのピンクにバリアの青は合わんやろ? 見た目も丸っこぅて似とるし」
「選べと言ったのはお前だろうが」
「センス良いの期待しとった言うとんのや」
 分からへんやっちゃなぁ、とマルノミは溜め息を吐く。こちらのセリフである。ヒトにセンスだか何だかを要求する前に自分に決断力を求めろという話である。はぁ、とこちらもこれ見よがしに溜め息を吐いてやった。
 目の前、綺麗に整列して待つバッジの海に手を突っ込む。まとめるように二つ引っ掴んで、またマルノミに投げた。丁寧に扱いぃや、と文句が飛んでくるが無視する。扱いに文句を言うくらいならばヒトに触らせるべきではないのだ。
 ふぅん、とマルノミは鼻を鳴らす。しばしして、カチャカチャと金属が擦れる音。パチンパチンと何かが閉じられていく音。下がっていた視線を上げると、そこにはあぐらを掻き、ゲソを指でいじくるマルノミがいた。床にまで垂れる長いゲソにはバッジが三つ取り付けられている。一つはウデマエS+到達バッジ、一つはショクワンダーのスペシャルウェポンバッジ、残りの一つはデンタルワイパースミのじゅくれん度五到達バッジだ。どうやら適当に手渡した物を付けたらしい。先ほどきちんと選んだ苦労は一体何だったのだ、と天を仰ぎたくなる。
「ええやん」
「……お前の趣味が分からん」
「キミの趣味は分かるけどな」
 カラストンビを見せてマルノミは笑う。適当に引っ掴んだ物に趣味も何もない。どうせ皮肉だろう。皮肉を言うぐらいなら自分で選べ、と言いたくなるのをグッと堪える。彼に口で勝つには随分と骨が折れる。何より、相手するのが面倒だ。また選べ、なんて言われたらたまったものではない。
「しばらくはこれにしよかな」
 ゲソに付けた三つの丸を眺めて彼は言う。カチャカチャと缶バッジがぶつかりあって小さな声をあげるのが聞こえた。どうやら余程気に入ったらしい。もしくは考えるのが面倒になったらしい。どうせ後者だ。
「おおきになー」
「今度からは自分で選べよ」
「悩まん限りそうするわ」
 礼を言うマルノミに一言刺す。効いた様子は全く無い。懲りることも全く無いだろう。付き合わされる頻度は低いものの、またこんな事態が起こるのが確定しているだなんて深い深い溜め息を吐きたくなる。
 一つ一つ丁寧に拾って片付けるマルノミを一瞥する。彼の手の中に、収集用の箱の中にしまわれていくバッジたちを――どれも望まれていて、『一番』ではないバッジたちを眺める。艶めく表面を持つ者たちは、室内灯の光を受けて誇らしげに輝いていた。
 彼の求めるバッジは一つしかない。シーズン毎のXランキング結果に応じて手に入るもの――数多の猛者たちの頂点に立つ者が手に入れられる、金色のバッジだ。ランキングという『一番』が分かりやすい証に彼が飛びつかないはずがないのだ。最近は潜ってメキメキとパワーを上げているようだが、まだまだ獲得条件を満たすトップ層には程遠い。彼ほどの実力ならばいつか到達できるだろうが、その『いつか』がいつであるかなど、彼本人も分かっていないだろう。だからこそ、求める。
 瞬きを装って目を瞑る。黒くなった世界の中に、長いゲソに金色のバッジが輝く姿が浮かび上がる。この空想が実像になる日を待ち望むのは、彼だけではないはずだ。無くなってしまったのだ。
 だって、こいつの『一番』を見たいなんてこと、ずっと前から望んでいるのだから。
畳む

#マルノミ

スプラトゥーン


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