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No.206
日曜朝はテレビの前で【嬬武器兄弟】
日曜朝はテレビの前で【嬬武器兄弟】
公募アピカネタだけどオニイチャンタテレンジャー見てるんだよなぁと考えた結果がこちら。
私が最近特撮見てる影響なのは内緒。
テレビの前に集まる嬬武器兄弟の話。
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休日に似つかわない騒がしい足音が遠くで聞こえる。すぐさま乱暴にドアが開け放たれる音がリビングに飛び込んできた。
「寝坊した!」
おそらく寝起きであろう雷刀の叫びが聞こえる。うるさい足音と情けない声がどんどんと近づいてくる。パーカーに包まれた腕が、ローテーブルに置かれたままのリモコンを引ったくった。不必要なほど力強くボタンを押し、テレビの電源を入れるのが横目に見える。暗かった液晶画面に一瞬で光が宿り、静かだったスピーカーから派手な爆発音が鳴り響いた。
忙しない様子に眉をひそめることすらなく、烈風刀はコーヒーを一口飲む。淹れたばかりで熱いぐらいのそれが口内を満たしていく。苦みが舌の上に広がり、香ばしい香りが鼻を抜けた。
相変わらずドタドタと動いていた兄は、ようやくソファに腰を下ろす。勢い余ったそれは、己が座る座面まで跳ね上げた。カップの中の黒い湖面が波立つ。眉間に小さく皺が寄った。
またマグに口を付けながら、弟は密かに隣を見やる。寝起きはいつもぼやけた朱い瞳はぱっちりと開き、いつもの輝かしい光を灯している。視線はまっすぐ真ん前、テレビへ画面と向けられていた。拳を握って眺める様はまさに釘付け、首ったけと言うのが相応しい。
碧い目も液晶画面へと向けられる。二人暮らしには少しばかり不釣り合いな大画面には、今まさに変身ポーズを取るヒーローの姿が映っていた。偉丈夫がまばゆい光に包まれ、真っ赤なスーツ姿へと様変わりする。手を天に突き出しポーズを取った彼は、タテレンジャーレッド、と名乗り上げた。
ツマミ戦隊タテレンジャー。
今まさに放送されているのは、突如この夏から始まった特撮番組だ。きっと同時期に追加された楽曲の影響だろう。この世界はネメシスの影響で何でもかんでも起きる世界なのだ。楽曲の名を冠した特撮番組が始まるぐらい、エイプリルフールに一晩でマンションが生えてきた時よりずっとマシである。
そのヒーロー五人組に、兄である雷刀は虜になっていた。流れるように鮮やかな変身ポーズ、鬼気迫る迫力満点の肉弾戦、生身かCGが区別が付かないほど派手なアクション、そして豪快に怪人と戦う巨大ロボット。所謂『男の子』を魅了する要素ばかりが詰まっているのだ、同年代より幼げたっぷりな兄が虜になってもおかしくはない。
盛大な爆発音が値段以上に高品質なスピーカーから流れる。場面は巨大化した怪人と合体ロボットの対決へと移ったようだ。怪人の、ロボットの一挙手一投足で街が――架空の街を模したミニチュアだろうが――派手に壊されていく。本当にこれが正義のヒーローなのだろうか、と少年は眉をひそめた。隣で見入る子どもめいた高校二年生は、いけー、と拳を突き上げ応援しているが。
またマグの中身を飲む。少しばかりぬるくなったそれは、まだ薫り高い。ちびちびと口を付けながら、烈風刀もまた画面に視線を向ける。必殺技がハーモニーを奏でて叫ばれ、ロボットがエフェクトをまといながら派手なアクションを繰り広げる。怪人の叫び声と爆発音がリビングに響いた。また街が壊れる。
ロボットから降り変身を解いたヒーローたちは、口々に労りの言葉を投げかける。しかし、ブルーとブラックは不自然なほど互いを避けていた。前回の放送で二人の過去の確執が判明したのだ。深い深いその溝は、一話や二話で解決するはずがないだろう。されるとしても次週だ。下手をすれば今クールの最後まで引きずる可能性もある。
「面白かったー!」
エンディング楽曲が流れる中、雷刀が声をあげる。大きく伸びをしているのが視界の端に映った。タテレンジャーの放送はもう終わるが、テレビを消す様子はない。次の三十分も正義のヒーローが戦う特撮番組があるのだから当然だろう。タテレンジャーをきっかけに、兄は特撮番組にすっかりハマっていた。買い物帰り、変身アイテムが売られるおもちゃ売り場に吸い込まれていきそうになる彼を引き留める羽目になっている程度には。
烈風刀はマグを傾ける。ぐっと飲み干し、席を立った。同じく飲み干したのだろう、兄も後ろから付いてくる。湯を沸かしている横で、食パンをトースターに突っ込む彼が見えた。
「食べてから見た方がいいんじゃないんですか」
「今日は寝坊しちまったからしかたねーだろー」
ドリップコーヒーを用意しながら、弟は小さな棘が生えた言葉を投げる。少しむくれた声が返ってきた。オレの分も淹れといて、と都合のいい言葉と共にマグカップが隣に置かれた。自分でやってください、とコーヒーのパックを上に置く。カチン、と湯が沸いたとケトルが知らせてきた。トースターも一緒に高い鳴き声をあげる。
タテレンジャーの放送が開始してから、兄は休日でも午前中に起きるようになった。何年も何年も休日は昼過ぎまで寝ていたあの彼が、である。大きな進歩だ――その進歩に関わっているのが子どもがターゲット層の特撮番組というのが何とも言い難い気分になるが。
もう少し早く起きてくれれば、一緒に朝食を食べられるのだけど。碧い少年はあり得ない風景を夢想する。タテレンジャーの放送は午前が終わる少し前の時間だ。平日通り起きる己の起床時間とは、確実に被ることがない。過去は朝早くの時間に放映していたと聞いた時は、何だか惜しい気持ちになってしまったのは秘密にしておこう。
「烈風刀ー、はじまっぞー」
いつの間にかテレビの前へと移動した兄が呼ぶ。はいはい、とマグカップ二個手にしながら、弟はソファへと向かった。
ビビッドカラーで彩られた画面には、オープニング曲のサビと共に大技のキックを決めるヒーローの姿が映されていた。
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#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
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SDVX
2025/3/19(Wed) 20:25
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「寝坊した!」
おそらく寝起きであろう雷刀の叫びが聞こえる。うるさい足音と情けない声がどんどんと近づいてくる。パーカーに包まれた腕が、ローテーブルに置かれたままのリモコンを引ったくった。不必要なほど力強くボタンを押し、テレビの電源を入れるのが横目に見える。暗かった液晶画面に一瞬で光が宿り、静かだったスピーカーから派手な爆発音が鳴り響いた。
忙しない様子に眉をひそめることすらなく、烈風刀はコーヒーを一口飲む。淹れたばかりで熱いぐらいのそれが口内を満たしていく。苦みが舌の上に広がり、香ばしい香りが鼻を抜けた。
相変わらずドタドタと動いていた兄は、ようやくソファに腰を下ろす。勢い余ったそれは、己が座る座面まで跳ね上げた。カップの中の黒い湖面が波立つ。眉間に小さく皺が寄った。
またマグに口を付けながら、弟は密かに隣を見やる。寝起きはいつもぼやけた朱い瞳はぱっちりと開き、いつもの輝かしい光を灯している。視線はまっすぐ真ん前、テレビへ画面と向けられていた。拳を握って眺める様はまさに釘付け、首ったけと言うのが相応しい。
碧い目も液晶画面へと向けられる。二人暮らしには少しばかり不釣り合いな大画面には、今まさに変身ポーズを取るヒーローの姿が映っていた。偉丈夫がまばゆい光に包まれ、真っ赤なスーツ姿へと様変わりする。手を天に突き出しポーズを取った彼は、タテレンジャーレッド、と名乗り上げた。
ツマミ戦隊タテレンジャー。
今まさに放送されているのは、突如この夏から始まった特撮番組だ。きっと同時期に追加された楽曲の影響だろう。この世界はネメシスの影響で何でもかんでも起きる世界なのだ。楽曲の名を冠した特撮番組が始まるぐらい、エイプリルフールに一晩でマンションが生えてきた時よりずっとマシである。
そのヒーロー五人組に、兄である雷刀は虜になっていた。流れるように鮮やかな変身ポーズ、鬼気迫る迫力満点の肉弾戦、生身かCGが区別が付かないほど派手なアクション、そして豪快に怪人と戦う巨大ロボット。所謂『男の子』を魅了する要素ばかりが詰まっているのだ、同年代より幼げたっぷりな兄が虜になってもおかしくはない。
盛大な爆発音が値段以上に高品質なスピーカーから流れる。場面は巨大化した怪人と合体ロボットの対決へと移ったようだ。怪人の、ロボットの一挙手一投足で街が――架空の街を模したミニチュアだろうが――派手に壊されていく。本当にこれが正義のヒーローなのだろうか、と少年は眉をひそめた。隣で見入る子どもめいた高校二年生は、いけー、と拳を突き上げ応援しているが。
またマグの中身を飲む。少しばかりぬるくなったそれは、まだ薫り高い。ちびちびと口を付けながら、烈風刀もまた画面に視線を向ける。必殺技がハーモニーを奏でて叫ばれ、ロボットがエフェクトをまといながら派手なアクションを繰り広げる。怪人の叫び声と爆発音がリビングに響いた。また街が壊れる。
ロボットから降り変身を解いたヒーローたちは、口々に労りの言葉を投げかける。しかし、ブルーとブラックは不自然なほど互いを避けていた。前回の放送で二人の過去の確執が判明したのだ。深い深いその溝は、一話や二話で解決するはずがないだろう。されるとしても次週だ。下手をすれば今クールの最後まで引きずる可能性もある。
「面白かったー!」
エンディング楽曲が流れる中、雷刀が声をあげる。大きく伸びをしているのが視界の端に映った。タテレンジャーの放送はもう終わるが、テレビを消す様子はない。次の三十分も正義のヒーローが戦う特撮番組があるのだから当然だろう。タテレンジャーをきっかけに、兄は特撮番組にすっかりハマっていた。買い物帰り、変身アイテムが売られるおもちゃ売り場に吸い込まれていきそうになる彼を引き留める羽目になっている程度には。
烈風刀はマグを傾ける。ぐっと飲み干し、席を立った。同じく飲み干したのだろう、兄も後ろから付いてくる。湯を沸かしている横で、食パンをトースターに突っ込む彼が見えた。
「食べてから見た方がいいんじゃないんですか」
「今日は寝坊しちまったからしかたねーだろー」
ドリップコーヒーを用意しながら、弟は小さな棘が生えた言葉を投げる。少しむくれた声が返ってきた。オレの分も淹れといて、と都合のいい言葉と共にマグカップが隣に置かれた。自分でやってください、とコーヒーのパックを上に置く。カチン、と湯が沸いたとケトルが知らせてきた。トースターも一緒に高い鳴き声をあげる。
タテレンジャーの放送が開始してから、兄は休日でも午前中に起きるようになった。何年も何年も休日は昼過ぎまで寝ていたあの彼が、である。大きな進歩だ――その進歩に関わっているのが子どもがターゲット層の特撮番組というのが何とも言い難い気分になるが。
もう少し早く起きてくれれば、一緒に朝食を食べられるのだけど。碧い少年はあり得ない風景を夢想する。タテレンジャーの放送は午前が終わる少し前の時間だ。平日通り起きる己の起床時間とは、確実に被ることがない。過去は朝早くの時間に放映していたと聞いた時は、何だか惜しい気持ちになってしまったのは秘密にしておこう。
「烈風刀ー、はじまっぞー」
いつの間にかテレビの前へと移動した兄が呼ぶ。はいはい、とマグカップ二個手にしながら、弟はソファへと向かった。
ビビッドカラーで彩られた画面には、オープニング曲のサビと共に大技のキックを決めるヒーローの姿が映されていた。
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