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No.23

年の初めの運試し【バタキャ+烈風刀】

年の初めの運試し【バタキャ+烈風刀】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

2/22で猫の日なので手帳に眠っていたバタキャ+烈風刀の話をば。1月頃のおみくじ云々エンドシーンのお話。季節感など知らん。
呼称は例によって公式参考にしつつ捏造。

 烈風刀が特別教室棟に続く渡り廊下を歩いていると、ふと視界の端に鮮やかな三色が映った。そちらに目をやると、初等部の桃、雛、蒼の三人組が吹きさらしの渡り廊下の一角に集まっていた。午前の授業も無事終わり、今は昼休みだ。昼食を終え教室を飛び出している者も少なくはない。元気盛りの彼女達だ、いつもの学内探検だろうかとそちらに足を向ける。
 三人が見つめる先には小さな機械があった。筐体を模したそれは誰が設置したのか、いつ現れたのかは誰も――学内を預かるエスポワールや灯色、こういうことに長けた識苑、魂ですら知らない。冬休み明けに登校してきた時にはもうここに鎮座していた、と皆は口を揃えて言っている。一体誰が何の目的で、と疑問に思う者も多いが、おみくじが引けるだけなのだから害はほぼないだろうということでそのまま放置されている。好奇心旺盛な彼女達は初めて見たのであろうそれに心惹かれているようだ。
「こんにちは」
 彼女らの横に屈みこみ、目線を合わせてから声をかける。同じ高さにある三色の瞳がこちらに向けられた。
「れふとおにいちゃん」
「こんにちは」
「……こんにちは」
 彼を認識した三人は嬉しそうな顔で挨拶を返す。しかし目の前の機械がよほど気になるのか、意識は烈風刀よりもそちらに向かっているようだ。
 『突然現れた謎の機械』ということでこれの知名度は学内でもそれなりのものだ。彼女達も噂を聞きつけてきたのだろうか、と烈風刀は会話を続ける。
「おみくじを引くのですか?」
「おみくじ?」
 彼の言葉にきょとんとした顔で雛が言葉を繰り返す。桃と蒼もよく分からないようで、皆首を傾げて互いに顔を見合わせていた。この筐体を模した機械と、神社や寺で引くおみくじがいまいち結びつかないのだろう。
「これで今年一年の運を占うのですよ」
 機械を指差し説明する烈風刀の言葉に、三人は興味を引かれたようにピンとその大きな猫の耳を立てる。その瞳は好奇心でキラキラと輝いていた。
「おみくじ」
「うらないですか」
「うらない……きになる……」
 やはり女の子だからか『占い』が気になるようだ。やろうやろう、と機械を触る彼女らに手順を教える。烈風刀の説明を聞き終えた三人は、せーの、と意気込んでつまみに手をかけ思い切り回す。ガチャン、と大きな音がして下部に設けられた取り出し口から小さく折りたたまれた紙が三つ出てきた。桃がその内の一つを手に取り、丸まったそれを開き三人で覗き込む。広げられたそれには『大吉』という赤い文字が大きく描かれていた。
「だい……きち、ですか?」
「だいきちっていいの?」
「だいきち……」
「よかったですね。大吉は一番良いものですよ」
 『一番良い』という言葉に三人は顔を綻ばせる。楽しげにきゃいきゃいとはしゃぐ彼女達だが、互いにその紙を得ようと引っ張っていることに気付くと表情を歪めた。皆、自分が貰うものだと思っていたようだ。
「雛がだいきちもらうの!」
「桃もだいきちがほしいです……」
「蒼も……だいきち……ちょうだい」
 三人とも泣きそうな顔でうーうーと唸りながら主張する。譲る気は欠片もないようで、おみくじを手放そうとする様子はない。微笑ましいその光景を眺めていた烈風刀だが、様子がおかしいことに気付き慌てて残っていた二つを広げ顔をつきあわせる三人に見せた。
「大丈夫、三人とも大吉ですよ!」
 ほら、と烈風刀が示したそれを見て不機嫌そうな声がぱたりと止まる。三色三対の瞳がぱちくりと幾度か瞬きして彼が広げたそれを見つめた。それでも誰一人として手にしたおみくじを放そうとしないのだから、よほど『一番良い』それが欲しいのだろう。言い方が悪かったか、と烈風刀は小さく後悔する。
「ほらほら、みんな泣かないで」
 烈風刀は少し困った顔でハンカチを取り出し、透明な雫を湛えた桃の目元を拭った。
 迷惑をかけてしまったと思っているのか、桃は申し訳なさそうにごめんなさい、と呟いて紙から手を放す。はい、と烈風刀は桃の分だと言って手に持ったおみくじを差し出すと、彼女は両手で受け取りそっと胸に抱き柔らかく笑った。同様に蒼にも差し出すと、ありがとうと小さく礼を言い彼女も受け取る。ひっこみがつかないのか、くしゃくしゃになったおみくじを抱え一人唸っている雛の頭を烈風刀は優しく撫で、よかったですねと笑いかける。彼女は少し申し訳なさそうな顔で頷いた。
「そうだ、お年玉をあげましょうね」
 そう言って烈風刀は制服の内ポケットから小さな袋を三つ取り出した。彼女らに渡そうと用意していたものだ。
「おとしだま?」
「おとしだま……なの?」
「いいのですか……?」
 『お年玉』という言葉に子供らしくキラキラと瞳を輝かせる雛と蒼、反して桃はどこか申し訳なさそうにこちらを見上げた。親族でもない、日頃面倒を見てもらっているお兄さんという立ち位置の烈風刀からお年玉、つまりお金をもらうということがあまり受け入れられないようだ。
「いいのですよ。もらってください」
 あまり多くはありませんが、と烈風刀は苦笑する。高校生の経済事情では大人のような大きな金額を渡すのは難しい。精々、いつもより少しだけ多くお菓子が買える程度のものだ。それでも彼女たちが喜んでくれれば、と用意したのだった。
「れふとおにいちゃん、ありがとう!」
「ありがとう……おにいちゃん」
「れふとおにいちゃん、ありがとうございます」
 受け取った三人は嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、先ほどの涙を感じさせないほど弾んだ声で口々に礼を言う。普段通りの明るい彼女達の笑顔にこちらまで嬉しくなる。
 はた、と何か思いついたのか雛が烈風刀を見てその小さな口を開いた。
「れふとおにいちゃんはおみくじひいたの?」
「えぇ、レイシス達と引きました」
「なにがでましたか?」
「だいきち……?」
「吉でした」
 当たり障りのない結果だ、と烈風刀は考えている。兄と同じなのが少し気になるが過度に悪いものでもないし、と気にかけていなかったが、レイシスや雷刀に言われ神社や寺のそれと同じく近くにあった紐に括り付けたのでもう手元にない。
 彼の言葉に三人はじっとその顔を見つめ、今度は手元の紙を見つめる。おみくじと自身の顔交互に見やるその姿に、一体どうしたのだろう、と首を傾げると、桃が手に持ったそれをずいと差し出した。
「桃のだいきちあげます」
「雛のだいきちもあげる!」
「蒼のも……だいきちあげる……」
 皆手に持ったそれをぐいぐいと烈風刀に差し出す。その様子に彼は驚いたようにぱちぱちと瞬きし、すぐに嬉しそうに破顔した。あれだけ自分が自分がと主張していた彼女らがあげる、と言うのだ。その姿は可愛らしく、心遣いが嬉しくてたまらない。
「いいのですよ。それは三人のものです」
「いいの?」
 不思議そうに問う雛にえぇ、と返す。三人の顔を見回し、にこりと笑いかけた。
「三人の笑顔が、私にとっては大吉と同じぐらい嬉しいものなのですよ」
 その言葉に桃は恥ずかしそうに頬を赤らめる。雛はとても嬉しそうに笑い、蒼は小さく笑みを浮かべ照れ臭そうに俯いた。
 三者三様の反応を示す彼女らを眺め、烈風刀はすくりと立ち上がる。彼よりもずっと背の低い彼女らは自然と彼を見上げることとなる。
「さ、授業が始まりますよ。教室に行きましょう」
「うん!」
 三人は元気よく声を揃えて返事をし、烈風刀の周りを囲むように歩き出す。
 昼休みの賑やかしい廊下、その隅に機械は静かに佇んでいた。

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#嬬武器烈風刀 #桃 #雛 #蒼

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