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No.24
慣れないこと【ライレフ】
慣れないこと【ライレフ】
pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
エイプリルフールだしってこととべったべたな話が書きたかっただけ。糖分が足りない。
本文を読む
ギィ、と後ろで扉が開く音がする。音の主は容易に想像がつく。烈風刀は振り返ることなく手元の本に目を落とす。紙がめくられる小さな音が静かな部屋に落ちた。
「何読んでんの?」
すぐ後ろから問いかけられ、直後肩に重みを感じる。雷刀が後ろから覗き込んでいるのだろう。身を乗り出したのか赤い髪がすぐ近くに見えた。
「ミステリですよ」
「犯人分かった?」
「まだ推理の途中です」
彼の方を向かぬままページをめくる。話は容疑者のアリバイが判明し、個々の身辺を洗い直しているところだ。もう少し材料が必要だ、と烈風刀は二段に並ぶ文字を追いかける。雷刀もそれを眺めているようだが読書をあまり好まない彼のことだ、しっかりと読むつもりは更々ないのだろう。
静寂が部屋を満たす。珍しいと烈風刀は内心首を傾げた。いつもなら作業に集中し辛くなるほど騒ぐというのに、今日は不気味なほど静かだ。何かあったのだろうか、と問いかける前に雷刀は口を開く。
「烈風刀」
「なんですか」
「――――嫌い」
心臓を力一杯握られたような心地だった。全身の骨を粉々に砕かれたような衝撃だった。腹を裂かれ臓腑が全て押し潰されたような痛みだった。
雷刀が烈風刀のことを明確に『嫌い』と言ったのはこれが初めてではないだろうか。子供めいた言葉で文句を言うことは普段からあるが、その三文字が自分に向けられたことはなかった、などと烈風刀は思考する。そんな彼がその言葉を口にしたのだ、自分はよほど酷いことをしたのだろう。普段から想いを口に出さないのが悪かったか。構ってくるのを冷たくあしらい続けたのが悪かったか。彼の為などと称して厳しくしすぎたのが悪かったか。心当たりは沢山あった。それほど沢山、彼に不満を抱かせていたのだろう。
身体が冷えていく。もう春は近く暖かいというのに、指先は氷のように冷たくなっていた。
そうですか、と努めて冷静に返そうとするが、渇いた喉はひゅうと細い音をたてるだけだ。惨めだ、と烈風刀は俯く。視界に入った自分の手は震えていた。
「…………ごめん、嘘。エイプリルフールだからって調子乗った」
ぎゅ、と後ろから強く抱きしめられる。首に回された雷刀の腕も小さく震えている。自分で言って自分でダメージを受けたようだ。何故そうなってしまうような嘘をつくのだ。怒りと共に呆れが湧き上がる。
「エイプリルフールだしなんか嘘言おうと思ってさ。こないだ読んだ漫画にそんなのあったからやってみようって」
言い訳する声は泣き出しそうなほどだった。泣きたいのはこちらだ、などと考えながら、烈風刀は震えを抑え口を開く。
「嘘で言うようなことじゃないでしょう」
「ごめん。驚かせようと思っただけなんだ」
交わす声はどちらも小さい。ごめん、と雷刀は再度謝る。
烈風刀はギリと歯を噛みしめた。このようなことで振り回されたのが腹立たしい。そして、嘘だということに心の底から安堵している自分も腹立たしい。複雑な感情が彼の腹の中に渦巻いていた。
「――――雷刀」
「はい」
「好きです」
どこか冷えた声にビクリと雷刀の身体が大きく跳ねる。視界に映る彼の耳がどんどんと赤色に染まる。そして瞬時に血の気を失い真っ白になる。
そのようなことをほとんど口にしない烈風刀がさらりとその言葉を発したのだ、驚きながらも喜んだのだろう。しかし、すぐさま先ほどの自分をなぞらえているのだと気付き青ざめた、というところだろうか。そんなことは欠片も気にかけず烈風刀は言葉を続ける。
「好きです。大好きですよ」
そう言う烈風刀の表情は珍しく意地の悪いものだ。先ほどのこと、ひいては普段世話をかけられている分意趣返しだ。頬が熱い。きっと自分も雷刀に負けず劣らず真っ赤に染まっているのだろう。たとえ『嘘』の言葉でも、その二文字をスラリと言えるほど、烈風刀はこのような行為に慣れていない。
「……それ、嘘?」
「勝手に判断してください」
冷たく言い放ち烈風刀は本に視線を戻す。反応を返してやるつもりはないということを示すためだ。
ほんとごめん、と謝り倒す雷刀を解放するつもりは今のところない。
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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エイプリルフールだしってこととべったべたな話が書きたかっただけ。糖分が足りない。
ギィ、と後ろで扉が開く音がする。音の主は容易に想像がつく。烈風刀は振り返ることなく手元の本に目を落とす。紙がめくられる小さな音が静かな部屋に落ちた。
「何読んでんの?」
すぐ後ろから問いかけられ、直後肩に重みを感じる。雷刀が後ろから覗き込んでいるのだろう。身を乗り出したのか赤い髪がすぐ近くに見えた。
「ミステリですよ」
「犯人分かった?」
「まだ推理の途中です」
彼の方を向かぬままページをめくる。話は容疑者のアリバイが判明し、個々の身辺を洗い直しているところだ。もう少し材料が必要だ、と烈風刀は二段に並ぶ文字を追いかける。雷刀もそれを眺めているようだが読書をあまり好まない彼のことだ、しっかりと読むつもりは更々ないのだろう。
静寂が部屋を満たす。珍しいと烈風刀は内心首を傾げた。いつもなら作業に集中し辛くなるほど騒ぐというのに、今日は不気味なほど静かだ。何かあったのだろうか、と問いかける前に雷刀は口を開く。
「烈風刀」
「なんですか」
「――――嫌い」
心臓を力一杯握られたような心地だった。全身の骨を粉々に砕かれたような衝撃だった。腹を裂かれ臓腑が全て押し潰されたような痛みだった。
雷刀が烈風刀のことを明確に『嫌い』と言ったのはこれが初めてではないだろうか。子供めいた言葉で文句を言うことは普段からあるが、その三文字が自分に向けられたことはなかった、などと烈風刀は思考する。そんな彼がその言葉を口にしたのだ、自分はよほど酷いことをしたのだろう。普段から想いを口に出さないのが悪かったか。構ってくるのを冷たくあしらい続けたのが悪かったか。彼の為などと称して厳しくしすぎたのが悪かったか。心当たりは沢山あった。それほど沢山、彼に不満を抱かせていたのだろう。
身体が冷えていく。もう春は近く暖かいというのに、指先は氷のように冷たくなっていた。
そうですか、と努めて冷静に返そうとするが、渇いた喉はひゅうと細い音をたてるだけだ。惨めだ、と烈風刀は俯く。視界に入った自分の手は震えていた。
「…………ごめん、嘘。エイプリルフールだからって調子乗った」
ぎゅ、と後ろから強く抱きしめられる。首に回された雷刀の腕も小さく震えている。自分で言って自分でダメージを受けたようだ。何故そうなってしまうような嘘をつくのだ。怒りと共に呆れが湧き上がる。
「エイプリルフールだしなんか嘘言おうと思ってさ。こないだ読んだ漫画にそんなのあったからやってみようって」
言い訳する声は泣き出しそうなほどだった。泣きたいのはこちらだ、などと考えながら、烈風刀は震えを抑え口を開く。
「嘘で言うようなことじゃないでしょう」
「ごめん。驚かせようと思っただけなんだ」
交わす声はどちらも小さい。ごめん、と雷刀は再度謝る。
烈風刀はギリと歯を噛みしめた。このようなことで振り回されたのが腹立たしい。そして、嘘だということに心の底から安堵している自分も腹立たしい。複雑な感情が彼の腹の中に渦巻いていた。
「――――雷刀」
「はい」
「好きです」
どこか冷えた声にビクリと雷刀の身体が大きく跳ねる。視界に映る彼の耳がどんどんと赤色に染まる。そして瞬時に血の気を失い真っ白になる。
そのようなことをほとんど口にしない烈風刀がさらりとその言葉を発したのだ、驚きながらも喜んだのだろう。しかし、すぐさま先ほどの自分をなぞらえているのだと気付き青ざめた、というところだろうか。そんなことは欠片も気にかけず烈風刀は言葉を続ける。
「好きです。大好きですよ」
そう言う烈風刀の表情は珍しく意地の悪いものだ。先ほどのこと、ひいては普段世話をかけられている分意趣返しだ。頬が熱い。きっと自分も雷刀に負けず劣らず真っ赤に染まっているのだろう。たとえ『嘘』の言葉でも、その二文字をスラリと言えるほど、烈風刀はこのような行為に慣れていない。
「……それ、嘘?」
「勝手に判断してください」
冷たく言い放ち烈風刀は本に視線を戻す。反応を返してやるつもりはないということを示すためだ。
ほんとごめん、と謝り倒す雷刀を解放するつもりは今のところない。
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