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No.30

人工的な雨の跡【咲夜+美鈴】

人工的な雨の跡【咲夜+美鈴】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:斬新な水たまり[30m]

 赤い赤い廊下を歩く。大きな仕事は済んだので、あとは優先順位が低いものを順に処理していくだけだ。
 庭につながる廊下から外へ目をやると、地面にはいくつもの水たまりができていた。不可解なその状態に眉をひそめる。この場所だ、原因は一つだろう。咲夜はわざとらしく溜め息を吐き庭へと歩みを進めた。
 犯人の追跡は簡単だった。なにせ水たまりは点々と続いているのだ。それを追って歩けばすぐにその姿が目に入った。
「何をしているの」
 しゃがんで地面を見つめている女の背中に冷たい言葉を浴びせる。ナイフのように鋭く冷たい声に女――美鈴はびくりと身体を震わせた。ぎこちなく振り返った彼女は気まずそうな表情をしていた。
「いえ、蛙がいたものですから……」
「子どもじゃあるまいし」
「でも花壇にいられると作業しにくくて困るんですよ。かといって触るわけにもないがしろにするわけにもいきませんし」
 神様は怖いんです、と呟いた。そういえばいつぞや新しくできた神社の神は蛙に関係しているといった話を耳にした覚えがある。しかし彼女がそこまで気にすることなのだろうか。咲夜は首を傾げた。
「で、それがこの水たまりとどう関係があるの?」
「触るわけにもいかないので水をかけて追い払ってたら変な方向に跳んでいっちゃいまして」
「追い掛け回してこうなった、と」
 丸っきり子供の行動ではないか。あまりのくだらなさに咲夜はわざとらしく溜め息を吐いた。仕方ないじゃないですか、と美鈴は恨みがまそうに呟く。何がどう仕方ないのだと問い詰めたいが、そんなことをしても意味はない。呆れた顔で腕を組み、しゃがみこんだままの彼女を見下ろす。
「これ、どうやって片付けるの」
「今日は天気がいいのですぐに乾きますよ。庭を歩くのは私と咲夜さんぐらいですし困らないでしょう?」
「私が困るじゃない」
 確かに雇っている妖精達は飛んで仕事をするし、仕事のほとんどは館内の雑事であり庭に行く者はほとんどいない。ここを通るのは飛ばずに行動する咲夜と庭を一任されている美鈴ぐらいだ。
「咲夜さんなら器用ですし大丈夫でしょう」
「そういう信頼入らないわ」
 はは、と誤魔化すように笑う美鈴を咲夜は睨みつける。彼女はそれから目を逸らすように立ち上がった。彼女よりも少しだけ身長が低い咲夜は、先ほどまでとは逆に自然と見上げる形になる。
「汚れたら私が水場まで運んで洗ってあげますよ」
「いらないわよ」
 それこそ子供じゃあるまいし、と咲夜は呆れたように呟いた。何故汚れた程度で彼女の世話にならなければいけないのか。そもそも彼女がこんな水たまりを作るのがすべて悪いのではないか。考える内に苛立ってきた。
「とにかく、早くどうにかしなさい」
「どうにもなりませんよ」
「なにかあるでしょ。全部汲み上げるとか」
「流石に無理ですよ」
 無茶振りそのものな提案に美鈴は眉をハの字に下げる。それが気に入らないようで、咲夜は目を細め彼女を見つめる。鋭く痛い視線だった。
「まぁまぁ。たまにはいいじゃないですか。ほら、水たまりに映った空が綺麗ですよ」
 美鈴は慌てた様子で近くの水たまりを指さす。確かに庭に点在する水たまりには晴れ渡った空が映し出されていた。
「こういう斬新な空の見方もあるんですよ。そう、そういうことです」
「誤魔化さないで」
 子供だましにもならない言い訳に咲夜の声音がだんだんと怒りで染まっていく。ふざけすぎたのは十分分かっているようで、美鈴はすみません、と消え入りそうな声で謝った。
「とにかく、早く何とかしなさい。できなきゃおかずを一品減らすから」
「そういうのはやめてくださいよ!」
 美鈴は泣き出しそうな声で叫んだ。肉体労働の多い彼女には堪える罰だ。なにより咲夜の料理はどれをとっても美味しい。たった一つとはいえ美味しいものを味わえなくなるのは辛いことなのだ。
 水たまりには困り果てて泣き出しそうな赤色が映っていた。

畳む

#十六夜咲夜 #紅美鈴

東方project


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