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No.31

はんぎゃくの竹林【輝夜+永琳】

はんぎゃくの竹林【輝夜+永琳】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:反逆の父[1h]

 竹林の奥の奥、ひっそりと佇む家屋の庭はいつもより騒がしい。もこもことした桃色の塊が庭を跳ね回っている姿は普段と変わらないが、彼らは自身の体程ある大きさの看板を持っていた。
 そこに書かれたのは『ストライキ』の五文字。兎達の労働放棄を示していた。
「ストライキ……って、前にもあったわね」
 そんな兎達の姿を、輝夜は窓から眺めていた。気まぐれな兎達の遊びだろう。前回もすぐに収まった――というよりもそれどころではなくなった――のだから放っておけばいいだろう。きっとイナバが解決してくれる。
 目の前を跳ねていく兎達に呼びかけてみるが、皆少し悩んでから首を横に振り「はんぎゃくだー」と言ってどこかに跳んで行ってしまった。悩んでいたとはいえ、兎達が逃げていくほどのことは前回はなかったはずだ。今回の騒動は思ったより厄介なのかしら、と輝夜は外を眺めながら呟いた。
「輝夜」
 声のする方へ顔を向けると、いつものように腕を組んだ永琳が立っていた。いつの間に入ったのだろう。襖が開く音は聞こえなかったが、彼女なら音もなく現れることぐらい容易だろう。なにせ、永琳なのだから。
「ストライキ?」
「えぇ」
 輝夜の問いに返答し、永琳は座った。こっち、と自分の隣をポンポンと叩くと、すぐに隣に来てくれた。彼女も外を跳ねる兎を見ている。
「呼んでもイナバ達が逃げていくの。ちょっと寂しいわ」
「今回のはちょっと厄介でね」
「何があったの?」
「ウドンゲまでストライキに参加してるの」
 永琳の言葉に輝夜は目を丸くした。あのイナバが、真面目で永琳の言うことには必ず従っていたあのイナバが、他のイナバ達と同じく仕事を放棄しているなんて。明日は雪でも降るのではないか。
「なんで?」
「分からない。分からないけど『ごめんなさい』って叫んで兎達の中に飛び込んでいったわ」
 はぁ、と永琳は深く溜め息を吐いた。忠実だった彼女の裏切りに参っているのだろうか。どうしたのかしら、と呟いた声は真剣そのものだ。
「でも、楽しそうね。私もストライキしてみようかしら」
「やめてほしいわ」
「はんぎゃくだー」
「もう、どこでそんな言葉を覚えてくるの」
 笑顔でイナバの真似をする輝夜を見て、永琳は苦笑した。その様子を見て輝夜もまた笑う。冗談よ、分かってるわ、なんて言葉を交わし、二人で窓の外を眺める。あんなにたくさんいたイナバ達はいつの間にかいなくなっていた。
「私が永琳に本気で逆らえるわけないじゃない」
 遠い昔、落とされた自分を救ってくれたのは永琳だ。一人反逆し、一人その身で自身を迎えてくれたのは彼女だ。逆らえるわけがない。逆らおうなんて、考えたことなどない。
「反対じゃなくて?」
「どうかしら」
 どこか困った顔で返す永琳の姿に、ふふ、と輝夜は笑う。
 世界にとって反逆同然の身体である自分。世界を自らの意志で反逆した彼女。互いを背くことなどない。永い永い今までも。そして、永い永いこれからも。
「さて、イナバ達をどうしようかしら」
「話し合いで解決?」
「できたらいいのだけれど」
 そう言う永琳の目には疲れが見えた。助手や家事当番がいないのは負担なのだろう。最近は研究などで部屋にこもりきりだったはずだ、疲れているに決まっている。
 よし、と気合を入れて立ち上がる。永琳が不思議そうな顔でこちらを見た。そんな彼女に胸を張って言葉を紡ぐ。
「私が解決するわ」
「……できるの?」
「反逆者同士なら受け入れてくれるわよ」
「反逆者同士って、どういう――」
「反逆者のふりをしてあの子たちの中に入って、そこで反逆するの。反逆者の反逆者よ」
 名案だという風に両手を上げ広げると、永琳は困惑した様子で顎に手を当てていた。頭のいい彼女でも、疲れた頭では繰り返される言葉の意味を上手く理解できないようだ。なにより理論自体がめちゃくちゃだった。
「そうと決まればはんぎゃくだー」
 輝夜、と声を上げる永琳の隣を駆けていく。
 形から入る彼らのことだ、きっと竹林のどこかで会議の真似事をしているだろう。今回はイナバがいるからちょっとは会議らしくなっているかもしれない。その様子も見てみたい、だなんて考えながら庭へ出る。
 私もまずは形から。反逆者の真似事から、本当の反逆者へ。
 そんなことを考え、輝夜は竹林に向かう。青々と茂る竹は彼女をすぐに包み隠した。

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#蓬莱山輝夜 #八意永琳

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