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No.60

ひとり、ふたり、【ライレイ】

ひとり、ふたり、【ライレイ】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

「PURオニイチャン引いたらライレイ書くからはよ来い」的なことを言ってたら1時間後に来てくれたので。ジェネ力万歳。でもコンプできてない。
ネメシスクルーについてはふんわりぼんやり捏造。
レイシスちゃんもオニイチャンもいるから弟はよ来い。

 唸るような低い音と共に視界が白に染まる。世界を認識させないほどの光の洪水に飲み込まれ、息をすることすら困難に思えた。自我すら強烈なそれに掻き消されてしまうのではないか、と些末な不安が胸をよぎり、意識を塗り潰すような輝きに消し去られた。
 どれほど経っただろう、暴力的なそれがようやく収束し、雷刀は小さく息を吐いた。ふわふわと宙に浮いたような感覚が消え、重力に従い緩やかに落ち地面へと着地する。カツン、とブーツが床を打つ固い音が呆然とした意識に響いた。
 固く閉じていた目をゆっくりと開く。黒のバイザー越しに映る世界はサイバーなオレンジと光のような白で構成されていた。宙に浮くいくつものパネルを見るにシステム内の一角だろうか、と雷刀は視界を遮るそれを取り、辺りを見回す。ネメシスクルーとして作成された『嬬武器雷刀』にはどこか待機場所があるとインプットされている。しかし、あまりにも広いこの空間からそれを見つけ出すのは難しく思えた。どうしようか、と辺りを見回していると、カツンと硬質な音が鼓膜を震わせた。
「雷刀!」
 果てが見えないほど広い空間に澄み切った美しい声が響いた。慣れ親しんだその声の方へと急いで身体を向ける。少し遠く、オレンジに染まる床にレイシス――ネメシスクルーである『レイシス』が立っていた。どうやら自分に先んじてクルーの任についていたようだ。ぱぁと顔を輝かせる彼女に応えるように小さく手を振る。レイシス、と少女の名を呼ぼうとして、雷刀の動きが止まった。
 パタパタと地面を駆ける軽やかの音と共に、長いツインテールがふわりと揺れる。駆け寄ってきたレイシスは、そのまま雷刀の胸へと勢いよく飛び込んだ。いきなりのことに少しよろめくが、どうにか彼女を抱きとめる。どうしたのだと問おうにも、縋るように己の服を握り小さく震える姿を前にしては呆然とする他なかった。
「やっと……、やっと、来てくれたんデスネ……」
 絞り出すように呟く声はか細く悲痛なものだった。雷刀の胸に額を押し付けるように俯いた状態のためその表情を見ることは叶わないが、桃色の可愛らしい瞳が涙で濡れていることは容易に想像できる。
「寂しかったデス……。ずっと、ずっとワタシ一人きりデ……、誰も来なクテ、怖クテ……」
 うぅ、と嗚咽を漏らす姿はまるで親とはぐれてしまった子どものようだ。どうやら『レイシス』は随分と前にここに訪れたらしい。そして、今まで――つい数分前に『嬬武器雷刀』が加わるまで、彼女以外のネメシスクルーは存在しなかったようだ。こんな広い空間に一人きりで暮らすのはさぞかし辛かっただろう。雷刀は寂しげに声をあげるその頭をあやすようにゆっくりと撫でた。抱きとめた細い身体の震えが落ち着くまで、彼は腕の中の桜を静かに撫で続けた。
「…………すみマセン、取り乱しマシタ」
 すん、とレイシスはバツが悪そうに小さく鼻をすする。まだ少し俯いたままのその頭を雷刀は再度撫でた。先程までの優しい手つきとは反対の、少し乱暴なものだ。ぐしゃぐしゃと髪をかき乱され、彼女は驚いたように小さく声をあげた。
「いーって。寂しかったんだろ?」
「寂しかったデス。何か月も、ずーっと一人ぼっちだったんデスヨ?」
 レイシスはいじけたように雷刀を見上げた。己を励ますためと分かっていても、せっかく整えた髪を乱されたことを少し怒っているようだった。撫子の瞳から悲しみの色が薄れた様子に、雷刀は安堵したように小さく笑う。
「てことは、烈風刀はまだいないのかー」
「ハイ。…………今、手に入れようとしてるみたいデスネ」
 何かを――恐らく多額の電子マネーをチャージしたことだ――感知したのか、レイシスは酷く苦い顔をした。『嬬武器雷刀』が来るまでかなりの期間と金銭がかかったのだ、『嬬武器烈風刀』の場合どうなるかなど考えなくても分かる。無理はしないでほしいデス、と暗い顔で零す彼女の姿に雷刀も気まずそうに視線を逸らした。大切な仲間なのだ、早く行動を共にしたいが入手手段を考えると強く主張することはできない。
 ん、と雷刀は小さく首を傾げた。レイシス曰く『ずっと一人きり』だった。そして、ここには紅刃もニアとノアも、もちろん烈風刀もいない。つまり、現在この空間――ひいてはこの電子の世界には、自分とレイシスの二人きりではないか。そこまで考えて、雷刀は固まった。同時に彼女が自分の腕の中にいる――抱きつかれていることを強く認識し、ぶわと顔が赤く染まった。
「ま、まぁ、もうオレがいるからな! 心配すんなって!」
 雷刀は慌てた様子で両手を離した。好いている女性に抱きつかれたまま過ごすほどの気概は目覚めたばかりの彼――その『元』となった嬬武器雷刀にはなかった。誤魔化すようにそのまま手を広げ、万歳をするように両腕を上げる。そんな彼の様子に気づくことなく、レイシスは嬉しそうに赤を見上げた。
「雷刀が来てくれて本当によかったデス」
 ニコニコと笑うレイシスの姿に、雷刀も思わず笑みをこぼす。先程まで沈んでいた様子は消え去りいつも通りの元気な姿を見せたこともだが、レイシスが自分がいることを心の底から喜んでいるということが嬉しかった。けど、と雷刀はふと目を伏せる。それは彼女が今まで『一人きり』だったからこそ出てきた言葉なのだろう。きっと、来たのが紅刃でも、ニアとノアでも、もちろん烈風刀でも同じことを言ったであろう。そんな暗い考えが小さく胸を苛む。
 けれども、今『レイシス』は『雷刀』だけを見てくれている。『雷刀』の存在を喜んでいる。それは紛れもない事実だ。ぐ、と淀むそれを押し込め、雷刀は再び笑った。陽の光を受け鮮やかに咲く花のような彼女にも負けない、力強い笑みだった。
「あ、雷刀が来たからワタシはしばらくお休みデスネ」
「えー、一緒に出撃できねーの?」
 不満げな雷刀に、レイシスはシステムですから、と苦笑する。ネメシスクルーとしての役割としてそのことはしっかりとインプットされているが、それでも彼女と一緒にいたい。先程の痛ましい姿を見ては尚更だ。
「でもさー」
「ワタシだって、皆と一緒がいいデスヨ」
 そう言う彼女は寂しげだ。それもそうだ、雷刀が出撃している間、彼女はまた一人きりになってしまうのだ。たとえそれが一時的なものであっても、長い間『一人きり』で過ごした彼女には辛く感じてしまうのだろう。その憂い顔を見て、雷刀は小さく顔をしかめた。
 腕を伸ばし、レイシスの手を取る。そのまま手のひらと手のひらを合わせ指を絡めるようにぎゅっと握った。ハワ、と驚きの声を漏らす彼女と視線を合わせ、雷刀は満面の笑みを返した。
「じゃあ、出撃しない時はずっと一緒にいような! そしたら寂しくないだろ?」
 レイシスに寂しい思いをさせてたまるか。雷刀の胸の内はそのことでいっぱいだった。『嬬武器雷刀』を元に作られた存在だとしても、自分が『レイシス』を好きなことに変わりはない。好きな人を悲しませるようなことなど絶対にしたくないのだ。
 レイシスは依然驚いたようにその大きな目を大きく見開き、ぱちぱちと瞬きをした。それでも彼の思いはしっかりと伝わったのか、瞳に浮かぶ寂しげな色は消え、ふわりと幸せそうに破顔した。
「ハイ、一緒デス!」
「一緒、だな!」
 にこやかに笑うその姿に、雷刀も嬉しそうに笑った。あぁ、やはり彼女には笑顔が一番似合う。彼女が心から笑う、それだけで幸せだ。
 オレンジの空間に電子音が響く。なんだ、と辺りを見回すと、宙に大きなウィンドウが現れた。オレンジで構成されたそれには、『出撃』の二文字が画面いっぱいに表示されていた。
「出撃命令デスネ。ゲームが始まったみたいデス」
 物珍しそうな顔でそれを見つめていた雷刀に、レイシスは簡単に説明をした。そうだ、己はゲームをナビゲートしバグらと戦うネメシスクルーとして作られたのだ。その仕事が回ってくるのは至極当然のことだ。
「んじゃ、初仕事といきますか」
 繋いだ手を優しく解き、雷刀は片手を掲げる。静かに宙に現れた銀の筒を握ると、その先端から赤い光が伸びる。さながら剣のようだ。
「おぉ……かっけぇ……!」
「カッコイイデス!」
 わぁ、と二人は感嘆の声を上げる。システムとしてインプットされていることとはいえ、初めて見るそれに驚いてしまうのは仕方のないことだろう。サッと握った手を軽く振り下ろす。初めて握るはずのそれは、幾年も共に戦ったように手に馴染んだ。これならば、皆を――レイシスを守ることができる。雷刀は手にしたそれを力強く握った。
「雷刀、いってらっしゃいデス」
 彼を象徴するような色に輝く剣を手にしたその背に、レイシスは小さく手を振った。彼女の表情に暗い影はもうない。その様子に安堵し、雷刀は振り返りにこりと元気に笑った。見送る彼女を安心させるかのように 、剣を持たぬ手を大きく振り応えた。
「オニイチャンにまかせとけって♪」
 いつもの台詞をその笑顔に投げかけ、雷刀は駆けだした。不敵に口角を上げ、前方を――向かうべき場所をしっかりと見据える。
 さぁ、早く仕事を終わらせよう。
 そして、彼女が待つ『ここ』に帰ってくるのだ。
 オレンジと白で構成された空間を、燃えるような赤が切り裂いていった。

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#ライレイ

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