401/V0.txt

otaku no genkaku tsumeawase

TOP
|
HOME

No.64

揺れて広がる【ニア+ノア+レフ】

揺れて広がる【ニア+ノア+レフ】
top_SS72.png
ニアノアちゃん誕生日おめでとう!
という感じで書きだしたけどそういう要素薄いニア+ノア+レフ。6月頃のエンドシーンネタ。
今年は無事双子星GRV倒したんで来年こそはフリッキーGRV倒す。

 授業が終わってずいぶん経った夕方の初等部棟。まだ人が残っていることを示すかのように蛍光灯で照らされた教室の片隅に、ひょこりと五対の耳が伸びては動く。いつもならば空へ向かって真っすぐに元気に伸びているそれは、今日は少しばかり勢いを失いへにゃりと下がっていた。
「かみ、うねうねです……」
「もわもわ……」
「ぽわぽわだよぉ」
 桃、雛、蒼の三色の猫たちはもどかしげな声をあげる。普段は野原を飛び回る蝶のように元気のいい彼女らも、今日はどこか元気がない。椅子に座り、宙に浮いたままの足はつまらなそうにぷらぷらと揺れている。尻尾もへたりと垂れさがっていた。
 うぅ、とどこか悔しげに唸り、一同は己の鮮やかな髪を撫でつける。しかし、連日の雨による湿気を吸った髪はなかなかまとまらず、ふわふわぼわぼわと広がるばかり。まるで猫が顔を洗うように小さな手が幾度も髪をなぞるが、一向に解決の兆しは見えない。
「うー、しっけで広がっちゃったよー」
「ノアもー。まとまんない……」
 黄色い兎耳のようなカチューシャをつけたニアとノアも、困ったように声をあげる。どちらも自身の青い髪をヘアブラシで撫でつけるが、普段のさらさらとした指通りの美しいストレートヘアーは戻ってこない。桃たち同様、湿気を吸った髪は広がるばかりだ。時には髪が乱れぬことも厭わず飛んで跳ねて行動する双子だが、それは好奇心が優先された場合である。幼いとはいえ年頃の女の子な彼女らは、身だしなみが気になるようだ。
「ニアおねーちゃんたちいいなー」
「桃も櫛を持ってくればよかったです……」
「もわ……もわ……」
 小さいながらもしっかりとしたヘアブラシで長い髪を整える上級生二人を見て、雛と桃は後悔にも似た声で漏らす。未だ悪戦苦闘する二人の様子を見るにヘアブラシの一つや二つだけで全てが解決するとは思えないが、己の小さな手と指で撫でつけるよりはずっといい結果をもたらしてくれるはずである。三対三色の瞳がじぃ、と深い青色を見上げた。
「貸してあげよっか?」
「ノアたちがやってあげるよ」
 そんな下級生の姿に気づいた双子は、にこりと優しい笑みを浮かべた。おいでおいで、と二人とも余った長い袖を振り、小さな猫たちを膝に呼ぶ。悲しげに下がっていた三角の耳が、ぴこん、と嬉しそうに動いた。
「おねがいします!」
「おねがーい!」
「おねがい……します」
 パタパタと元気良く走り寄ってくる三人を見て、ニアとノアは顔を見合わせて笑った。中等部や高等部に所属するものと行動することの多い彼女らは、いつも『下の子』扱いをされている。こうやって上級生らしいことができて嬉しいようだ。ぱたぱたと袖を振る動きが更に大きくなった。
 椅子をよじ登る小さな体躯を膝に乗せ、二人は目の前のふわふわと広がった髪をそっとヘアブラシで撫でていく。桃の長い髪は下から手を差し入れ長い動きで、雛の蒼の短い髪は頭の形に沿ってそっと下ろしていく。ニアとノアのの甲斐甲斐しい手入れに、桃たちの細く柔らかな髪は少しずつ元の調子を取り戻していった。
「はい、これでだいじょーぶだよ!」
 くるりと指でヘアブラシを一回転させ得意げな顔をするニアに、三人の猫はおぉ、と感嘆の声をあげた。三人揃って己の髪に触る。先程まで湿気の被害を受けていたそれは、すっかりと綺麗に整っていた。手品のみたいです、とその名を冠した色の髪をさらさらと触れながら、桃は感動したようにこぼした。
「最近雨ばっかで嫌だね」
「雨、許すまじー!」
 滅入ったようなノアの言葉に、雛は両手をあげ吠えるように怒りの声をあげる。外で遊べなくなるうえに、お菓子を湿気らせ髪をもたもたにしていく雨は、彼女ら三人にとってとてつもない敵だった。もちろん、身体を動かすことを好むニアたち双子にとっても強大な敵だ。五人揃って、しとしとと窓を打ちつける雨粒に不服そうな視線を向けた。
 不機嫌の原因がようやく解消され、きゃいきゃいとはしゃぐ三人の姿を見て、ノアはほわりと優しい笑みを浮かべた。『双子の妹』であるノアにとって、自分よりも年下の彼女らの面倒を見るのは『姉』の役割をしているようで、なんだか嬉しかった。
「そろそろ下校時刻だし帰ろっか」
 時計を見たニアが残りの四人に声をかける。黒板の上に掛けられた壁時計は、もうすぐ夕方へと差し掛かる時間を記していた。黒い雲に彩られた外はどんどんと明るさを失っていく。暗くなる前に学校を出るべきだろう。
「はい、さようならです」
「ニアおねーちゃん、ノアおねーちゃん、ありがとう!」
「また、明日……」
 上級生の言葉に従い、三人の猫たちは鞄を担ぎ、ぺこりとお辞儀をして別れの挨拶をする。さよなら、と二人が手を振って返すと、掲げられた小さな三つの手のひらが二人の動きに合わせたようにひらひらと揺れた。さよーなら、ともう一度三人分の大きな挨拶の合唱の後、小さな身体は軽やかな足取りで昇降口の方へと駆けていった。
「ノアたちも帰ろう?」
「んー……、ノアちゃん、その前に髪結んでもらってもいい?」
 もわもわするー、とニアは不機嫌そうな声をあげる。青い双子の髪は、三人の猫たちよりもずっと長く量も多い。湿気をより取り入れた髪はぶわりと広がり、小さなヘアブラシ一つでは太刀打ちできなかった。ならば広げたままにせず、ざっくりとでもまとめてしまった方がいいだろう、というのがニアの考えだ。
「いいよー。後でノアのもやってね」
 妹の答えに、姉はおねがいね、とヘアゴムを渡し、再び椅子に座った。その後ろに回り、ノアは改めてヘアブラシを手にする。昼の空のような大きく広がる青い髪に少し差し込んだところで、教室のドアが開く音が聞こえた。
「あれ、二人ともまだ帰ってなかったのですか?」
 開いたドアから顔を出したのは、彼女らとはまた違う碧を有した少年だった。耳慣れた声に、頭につけられた兎のようなカチューシャが、本物のそれの耳のようにぴこんと真っ直ぐに伸びた。
「あっ、れふと!」
「れふと、どうしたの?」
 くるりと振り返った二人は嬉しそうに声をあげる。よく懐いている上級生の登場に、少女らの関心は言うことの聞かない頑固な髪よりから外れ、大好きな碧色の方へと向かった。先程までの滅入った空気はすっかりと吹き飛んでしまったようだ。
「たまたま通りがかったら教室の電気が点いたままだったので覗いてみただけです」
 結局、貴方たちがいたのですけれど、と烈風刀は答える。少し神経質なところがある彼は、誰もいない教室の電気が点けっぱなしになっているのがどうしても気にかかり、わざわざ寄り道して足を延ばしたのだ。
「もう暗くなりますよ。早く帰りましょう」
「待って待ってー」
「今髪結んでるから、もうちょっと待ってー」
 あわあわと慌てて手を動かす彼女らに、少年は急がなくても大丈夫ですよ、と優しく声をかける。はーい、と元気のいい返事が重なった。
 このまま入り口に立っているままではな、と烈風刀は教室へと踏み込む。姉の髪にヘアブラシを通すノアの斜め後ろで立ち止まった。鼻歌を歌う姉に、ニアちゃん動かないでーと妹が困った声をあげる。これはまだ時間がかかりそうだ、と少年は苦笑し、壁に背中を預けた。
 仲睦まじい姿を眺めていると、ちら、と深い海の底のような瞳が烈風刀を見上げる。手を動かしながら何やら言い淀むように視線を泳がすノアを見て、彼は首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「えっと……、あの、ね?」
 同じく首を傾げ、ノアは少年を見上げる。どこか困ったような、恥ずかしがっているような瞳はゆらゆらと揺れ、ついには床へと向かってしまった。姉に比べ内気な彼女にはよくあることだ。碧い瞳は少女が心に思う言葉を形作るのを待つ。うぅ、といくらか呻くような悩ましい声をあげ、ノアはようやく烈風刀の目をしっかりと見た。あのね、と小さな口がはっきりとした言葉を紡ぎ出していく。
「あのね、交代交代でやってると時間かかるから……、れふと、ノアの髪結んでもらえないかな?」
 控えめな声で問うてくる彼女に、少年は驚いたように幾度か瞬きをした。やっぱダメかな、とすぐさま不安げに視線を泳がす少女に、いえ、ときっぱりとした答えが返される。
「僕は構いませんが……いいのですか?」
 髪とはそうやすやすと他人が触るものではないし、触らせるものでもない。まだ幼いとはいえ、相手が女性ならば尚更である。それを、多少交流があるとはいえど他人の自分が触ってもいいのだろうか、と烈風刀は戸惑ったように問い返した。
「うん、れふとに結んでもらいたいの」
 えへ、とノアははにかんだ。分かりました、と再度了承の語を紡ごうとしたところで、えー、と大きな声があがった。青い髪が翻り、ニアは首だけで振り返る。その眉間には小さな皺が刻まれていた。
「ノアちゃんずるい! ニアもれふとに結んでもらいたいよー!」
「でも、ニアちゃんまで結んでもらったら時間かかっちゃうよ?」
 くすくすといたずらげに笑うノアに、ニアは不服そうな声をあげる。妹の言葉はその通りだが、自分だって『大好きな上級生のお兄ちゃん』に髪を結ってもらいたかった。『双子の姉』であり、ずっと『上の子』の立場にいるニアならば尚更だ。自分だってもっと甘えたい、と晴れ渡る夏の空のような瞳は主張していた。
「落ち着いてください。ちゃんと二人とも結いますから」
 仲裁するように烈風刀は屈み、二人と視線を合わせる。それだけで、青い双子の兎ははーい、と統率の取れた元気のよい返事をした。現金なものである。
「まずはノアちゃんからでいいよ! 先に言ったのはノアちゃんだからね!」
 せめても、とニアは姉らしく妹に順番を譲る。ありがとう、と嬉しそうに笑う片割れを見て、彼女は同じく嬉しそうに笑みを返した。
「じゃあれふと、おねがいします」
 どこか緊張した面持ちで、ノアは烈風刀にヘアブラシを渡す。強張ったその様子に少年の胸に一抹の不安がよぎる。本当に引き受けて良かったのだろうか、という問いを、自身で否定する。彼女たちがあんなに頼んできたのに、今更断ることなどできない。ゆっくりやればいいのだ、と自らを落ち着かせた。
「えっと、どういう風に結びますか?」
「えーっと……、じゃあ、二つに結ぶのがいいなぁ」
 そう言って、彼女は両手をこめかみの位置まで持っていく。長い袖が、まるでツインテールのようにぷらんと揺れた。分かりました、と返して、烈風刀は川のようにさらさらと流れる青い髪に触れる。簡単に二つの束に分け、長いそれに下から手を入れて持ち上げる。広がったそれを揃えるようにそっとヘアブラシを入れるが、湿気で少し膨らんだ青色はひっかかることなどない滑らかなヘアブラシ通しをしていた。するりするりと手のひらを流れるそれはまるで高価な布のようなツヤをしていた。
 片方の束を梳き終わり、烈風刀は先程ノアが指し示した場所まで髪を持ち上げた。渡されたヘアゴムを改めて手にしたところで、はたと少年の動きが止まる。この長い髪にどうやってこの小さなヘアゴムを通せばよいのだろうか。静かに焦る少年の気配を察してか、ノアは貸して、と手を差し出した。一つを彼女に手渡すと、器用な手つきで長い髪にゴムを通し手早く結い上げた。こうやるんだよ、と言う少女の声はどこか得意げだ。自分がこうするよりも、彼女らがやった方がずっと早いのではないか、と思ったところで、烈風刀は口をつぐむ。彼女らが『早く済ませたいから』という理由だけで己にその美しい髪を託したのではないということは、少年も承知だった。
 もう片方の束も同様に梳かし終え、先程の彼女の手際を参考に同じ高さに括っていく。それでもやはり慣れていないせいか、二つの尻尾の高さは少しずれてしまった。
「うん。れふと、ありがとう」
 結び直そうと手を伸ばしたところで、ノアは椅子からぴょんと飛び降りる。くるりと振り返ったその顔は、とても嬉しそうだ。
「えっ、でも少しずれていますよ?」
「いいよ。れふとがやってくれたんだもん」
 えへへー、とノアは笑う。本当に良いのだろうか、と首を傾げる少年を尻目に、次はニアちゃんの番だよー、と妹は姉を呼んだ。待ってました、と言わんばかりに、ふわふわとした青が烈風刀の目の前、椅子にぴょんと飛び込む。
「あのねー、ニアは一つ結びがいい!」
 こーゆーのね、とニアは髪をざっくりと束ね、頭の真後ろ、高い位置に持ち上げた。そうやって彼女らが髪を高く結い上げた姿は烈風刀は何度か見たことがある。それに倣えばいいだろう。分かりました、と返事して、烈風刀はふわと広がった髪を一つの束にし、下に手を入れて同様に梳いていく。湿気による癖が弱まったところで、根元からそっと持ち上げ、ノアの時と同じ要領で高い位置で結い上げた。
「これでいいですか?」
「うん! れふと、ありがとう!」
 妹と同じくぴょんと飛び降りたニアは、楽しげに礼を言った。少女は嬉しそうにくるりとその場で一回転する。長い髪がまるで大きなリボンのようにひらりくるりとたなびいた。
「ニアちゃんはやっぱりポニーテールが似合うねー」
「ノアちゃんもツインテールすっごく似合ってるよ!」
 少女らがきゃいきゃいとはしゃぐ度、結い上げた青が楽しげに揺れる。しっかりと梳かし整えた髪は、まとまった美しい動きをしていた。
「れふと!」
「ありがとう!」
 再び声を揃えて礼を言う姿に、烈風刀はどういたしまして、とはにかんだ。彼女らが喜んでくれるならば何よりだ。
「あっ、お礼にれふとも結んであげようか?」
「れふと、ちょっと髪伸びたよね? 今ならノアみたいに二つに結えると思うなー」
 きらり、と双子の瞳がいたずらっぽく光る。ちゃきり、とヘアブラシとヘアゴムを構える姿は、学園では有名な朱い少年を彷彿とさせた。二人のいたずら兎にロックオンされる前に、烈風刀は急いで立ち上がりその手から逃れる。自分たちとは違う鮮やかな碧が自分たちの手の届かないところまで遠のいたのを見て、少女たちは小さく頬を膨らませた。
「もう終わりです。ほら、帰りましょう? 校門まで送っていきますよ」
 はい、と手を差し出すと、分かった、とニアがその手に飛びつく。もう反対側にはニアが手を取り、三人で並ぶ形となった。
「れふと、ほんとにありがとね!」
「あのねあのねっ、またやってもらってもいい?」
「えぇ、構いませんよ」
 やったー、と青色の姉妹はぴょんぴょんと跳ねる。その無邪気な姿に、烈風刀は愛おしげに目を細めた。
 日がかげる教室には、二対の耳と三つの尻尾が揺れる影が伸びていた。

畳む

#ニア #ノア #嬬武器烈風刀

SDVX


expand_less