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No.75

書き出しと終わりまとめ01【SDVX】

書き出しと終わりまとめ01【SDVX】
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あなたに書いて欲しい物語でだらだら書いていたものまとめ。全部ボ。大体BL。診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。
成分表示:ライレフ(塔死神)4/プロ氷1/オル+グレ1/はるグレ1

夢見巡り/ライ←レフ
あおいちさんには「また同じ夢を見た」で始まり、「俗に言う失恋というやつです」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。


 また同じ夢を見た。
 宝石みたいに丸くキラキラと輝く目が大きく見開かれ、澄んだその色が薄く光を失う。震える唇は疑問と否定を意味する音を奏で、己の心の臓を切り裂いていく。痛傷を押し込め必死で言葉を紡ごうとしたところで目が覚めるのだ、と少年は語った。
「ソレハ……、凄い夢、デスネ」
 聞き終えた少女は、しばしの空白の後短い言葉を漏らした。
 最近あまりにも顔色が悪いと半ば泣き落として聞き出した内容は、いつもハキハキと話す彼が何度もつかえるほど重く苦しいものだった。何においても絶対的に経験が少ない彼女には、その悲痛な物語にどう返せばいいのか全く分からない。結果、当たり障りのない――彼を救うことなどできない言葉を口にするのが、少女には精一杯だった。
 そうですね、と全てを吐き終えた少年は、まるで他人事のように相槌を打つ。けれども、苦笑の形に歪んだ翡翠の瞳はどこか濁っているように見えた。
「それが毎晩、デスカ」
「毎晩ではありませんが、頻度は高いですね。途中で目が覚めるのも一緒です」
 何度も何度も、同じ人物に己の言葉を否定され続ける。そんなの、辛いに決まっているではないか。そんなものを見続けていれば、顔色が悪くなるのは当たり前だろう。むしろ、今まで倒れずにいたのが不思議なほどだ。
 こうなるまで気付くことが出来なかった、頼ってくれなかった悔しさに、少女の唇が歪む。大丈夫ですよ、と少年は慌てて言う。その声はどこか白々しく聞こえた。
「睡眠時間は人並みに取れていますから」
「こんなに顔色が悪いノニ、信用できマセンヨ」
 どうやら彼はろくに鏡も見ていないようだ。不満気に頬を膨らます少女を眺め、少年は愛おしげに目を細める。その目元に薄っすらと黒が滲んでいるように見えたのは、気のせいではないはずだ。
 でもコレッテ、と少女は呟く。言葉の内容を具体的には語っていなかったが、彼がここまで疲弊するほどの状況など限られたものだ。
 驚愕、懐疑、否定。同じ反応を、友人に借りた漫画で見たことが何度もある。紙の中で生きるどのキャラクターも、彼のように痛苦に喘いでいた。
 えぇ、と少年は薄く笑みを浮かべる。白い喉が奏でたのは、自嘲と諦観と悔恨とがぐちゃぐちゃに混ざった音だった。

「俗に言う失恋というやつです」



ずっと、ずーっと/プロ氷
葵壱さんには「明日はどこに行こうか」で始まり、「必要なのは勇気でした」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字程度)でお願いします。


「明日はどこ行こうか」
 そう言って、識苑は屈んで隣を歩く少女の顔を覗き込む。その声はまるでプレゼントを前にした子供のように無邪気で弾んだものだ。
「明日……ですか?」
「うん。せっかく二日も休みが出来たんだし、いっぱい遊びたいなーって思ってさ」
 突然の問いに氷雪は首を傾げる。一つ頷いて、青年は楽しげに言葉を続けた。
 激務に追われる識苑と会う機会は決して多くない。せっかくの休日も、氷雪は食事や睡眠を疎かにする彼を休ませることを優先するので、二人で出かけることは少ない。そう思うのは自然だろう。顔に出さないが彼女も同じだ。
「あ、もしかして都合悪かった?」
 笑顔が一転して気まずそうなものに変わる。ごめん、と眉の端を下げる姿に、氷雪は慌てて胸の前で大きく両手を振った。
「いっ、いえ。大丈夫です。……ただ」
 俯き、彼女は口元を袖で隠す。雪のように白く澄んだ頬に淡い桃が広がった。
「明日、のことなんて、考えていなかったので……、驚いてしまって」
 今日一日共に過ごしただけで、幸せで胸がいっぱいなのだ。もうこれ以上のことなんて欠片も考えていなかった。
 それに、と呟くように言って、青年は珍しく少女から目を逸らす。夕日に照らされた横顔は空と同じ色に染まっていた。
「明日も氷雪と一緒にいたいなー……なんて」
 だんだんと萎む声は、はっきりと少女の耳に届いた。丸い翡翠の瞳がぱちりと大きく瞬きする。数瞬後、雪色の肌がぶわりと赤く染まった。
「ごっ、ごめんね! いい歳してこんなこと言って! はしゃぎすぎだね! 恥ずかしいね!」
「……わたしも」
 揺れる川底色の瞳が、夕日色の瞳を見据える。緊張に引き結ばれた小さな口が、ゆっくりと解けた。
「わたしも、識苑さんと――」
 明日も、次のお休みも、その次のお休みも、ずっと、ずっと一緒にいたい。ささやかな願いを、震える唇で音にする。ただひとつ、必要なのは勇気だった。



遠い過去とあの日と今この時間/オル+グレ
あおいちさんには「あの日もこんなふうだった」で始まり、「世界は限りなく優しい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字程度)でお願いします。


 あの日もこんなふうだった。
 混じりけのない青の絵の具をそのまま塗りたくったような空を見上げ、グレイスは目を細める。水が揺れ跳ねる鈍い音が耳をくすぐった。天辺目指して走る太陽からはこれでもかというほど光が降り注ぐ。じりじりと焦がす熱気を忘れたように、少女はぼんやりと目の前に広がる青を眺めた。
 ネメシスに受け入れられ、レイシスたちによって世界に再び戻って数日経ったある日のこと。桃色の髪を揺らして走る少女に手を引かれ訪れた時も、この海は同じ姿をしていた。
 闇とバグしかなかったあの世界が、澄んだ青の海へと変わったのには酷く驚いた。数多のバグに埋め尽くされ、光など一筋も差さなかったあの場所が、こんなにも美しくなるなんて。先など見えない不気味な世界が、こんなにも広大で輝く風景になるなんて。無彩色の世界で生きてきた彼女にとって、広がる景色は未知の世界そのものだった。
 グレイスに見てほしかったんデス、と優しく語る少女の声を覚えている。
 貴方が生きてた世界ハ、実はこんなに素敵だったンデスヨ。
 傾く陽の光を受け、穏やかな笑みを浮かべる少女を見て、鼻の奥が痛んだことも、視界が滲んだことも、胸が苦しくなったことも、覚えている。
 ずっと昔に捨てられた、己がひとり生きてきた世界を肯定される。それはまるで自分のすべてを肯定されたようで、これ以上になく幸福だった。
 ぽす、と軽い音と共に視界が陰る。思考が過去から現実に戻り、視線を上げると、そこにはオルトリンデがいた。
「ずっと日向にいると熱中症になるぞ。被っているといい」
 どうやら帽子をくれたらしい。礼を言おうにも、素直に感情を表すのが苦手な少女はもごもごと口を動かすばかりだ。慣れている戦乙女は、気にすることなく広がる風景に視線を向けた。
「晴れてよかったな。皆楽しんでおる」
 安堵にも似た声を漏らし、オルトリンデは見渡す。反り立つ青を滑る青年、砂浜に寝そべる女性とその背にオイルを塗る着ぐるみ、子供らにかき氷を振る舞う少女、髪を踊らせ剣舞を交わす剣士たち。皆思い思いに海を楽しんでいた。グレイスの何千倍も生きてきた彼女の声も、どこか弾んだものだ。直接は聞いていないが、彼女も世界を楽しめるような生を送っていないということは察している。初めての体験に、無意識にはしゃいでいるのだろう。
 輝いてすら見える柘榴を見上げていると、ふとその色が躑躅に向けられる。気まずさに、グレイスは思わず目を逸らす。反し、オルトリンデは穏やかな瞳で少女の姿を眺めた。
「水着、似合っておるではないか」
「…………あ、りが……と」
 必死に気持ちを音にするも、言い慣れない言葉に幼い声はどこか掠れたものになる。それでもしっかりと届いたようで、白の戦乙女は帽子越しに少女の頭を撫でた。
「子供扱いするんじゃないわよ」
「我にとっては皆子供のようなものよ」
 あやすようにもう一度撫で、日に焼けていない白い手が少女の頭から降りる。海に入る前にちゃんと準備運動をするのだぞ、と残し、オルトリンデは砂浜を悠然と歩いていった。残された少女は、被せてくれた帽子のつばをきゅっと握る。日に照らされた白い布地はほんのりと温かかった。
「グレイス! こっち! こっちデスヨー!」
 よく通る元気な声が己の名を呼ぶ。波打ち際、大きな浮き輪片手に勢いよく手を振る少女を見て、グレイスは頬を緩めた。今行くわ、と大声で返し、少女は焼けた砂浜を駆けた。
 気にかけて、受け入れて、共に過ごしてくれる人がいる。
 己という存在を受け入れてくれたこの世界は、限りなく優しい。



その後については黙秘させていただきます/ライレフ
あおいちさんには「今の状況を冷静に考えてみよう」で始まり、「笑顔が眩しかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字程度)でお願いします。


 今の状況を冷静に考えてみよう。
 目の前には愛しい弟の顔。寝転んだ己の身体、その胸には少し固い右手が添えられ、腹には細く見えるが同年代よりもずっと逞しい身体が乗っている。開いたしなやかな足は、跨がった人間の横腹を軽く締めつけている。空いている左手は、シーツに放り出された己の手を布地に縫いつけていた。
 つまり、押し倒されている。
 今自らが置かれている状況を努めて冷静に分析し、雷刀は内心頭を抱えた。何度考えても、結局そこに帰結する。そして、その理由は全く分からないでいた。
 一体どうしてこうなった、と叫びたくなるが、己の喉はひく、と変な音をたてるばかりで本来の役割を果たそうとしない。そも、言葉を形作るはずの唇は引きつるばかりでろくに動かなかった。
「あ、の、えっと……、れふ、と?」
 ようやく発した声は酷く間の抜けたものだった。訳の分からぬ恐怖で怯えた瞳が、逆光で少し見辛い瞳を見上げる。常ならば澄んだ海を思い起こす目は、どこかほの暗いように見えた。
「何ですか」
問いに返された問いは、酷く平坦な音色をしていた。溢れんばかりの怒気を抱いている時のそれに似ているようで違う、聞く者を凍り付かせるような声だ。恐怖すら覚えるそれに、雷刀は再び言葉に詰まる。何だと言われても、訊ねたいことは山ほどある。どれから問えばいいかすら分からない。
「……好奇心、とでもいいましょうか」
 あまりに動揺した兄の姿に呆れたのか、烈風刀は溜め息一つ吐いて口を開いた。
「男性も胸部で性感を覚えることは分かっていますよね?」
 皮肉めいた口調で問われ、雷刀は気まずげに小さく頷いた。そんなこと、目の前の身体ではっきりと理解している。本人もそうなのだろう、逆光で陰った頬に薄らと朱が浮かんだのが見えた。
「なので、貴方もそうなのか確かめようと思いまして」
「…………は?」
 ようやく示された解に、朱い瞳が大きく見開かれる。先ほどまで引きつっていた口から間の抜けた音が漏れた。告げる声は冷静で理知的なものだが、形作った言葉は正反対の訳の分からないものだ。解は示されても、その途中式が全く分からない。脳内は疑問符が増えるばかりだった。
「……貴方も、もっと気持ちがいい方がいいでしょう」
 いつも僕ばかり、と薄暗闇に浮かぶ翡翠が悔しげに眇められる。なるほど、与えられるばかりなことに引け目を感じているのか。やっと全ての式と解が分かり、雷刀は胸中でぽんと手を打つ。彼らしいといえば彼らしいが、気にしすぎだ。
「いや、今も十分きもちい――」
「ですが、個人差があるそうなので、一度試してみなければ分かりません」
 否定の言葉は、妙に大きな声で掻き消された。きっとわざとだろう。
「どこかの誰かはいつも余裕を与えてくれませんから、確かめる機会なんてないのですよね。こうでもしなければ」
 揶揄をたっぷり含んだ言葉と共に、胸につかれた手がシャツをゆっくりと撫でる。乱れた裾に辿り着くと、捲れた部分から熱を持った手が侵入してきた。
「大丈夫ですよ。全部僕がやりますから、雷刀は天井のシミでも数えていてください」
 いや天井にシミなんてないんだけど、と思わず突っ込みそうになるが、目の前の表情を前に喉はおかしく震えるのがやっとだ。
 普段見ることのない、情欲が浮かぶ歪な笑顔が恐ろしいほど眩しかった。



信じるものは巣食われる/ライ→レフ
あおいちさんには「淡い夢を見ていた」で始まり、「それだけで充分」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。


 淡い夢を見ていた。
 好きだと言い続ければ、きっといつか届く。そんな淡くて、浅はかで、馬鹿馬鹿しい夢を、この感情を自覚した時からずっと見ていた。
 この二文字がただの誇大表現であり、意味の無い薄っぺらい言葉だと捉えられていると気付いた時には、全てが遅かった。きっと、抱えた想いを口にしなければこの認識は覆せないだろう。つまり、もう取り返しが付かないのだ。
 それでも淡く消えゆく夢を必死に追いかけ続ける。愚直な己にはそれしかできなかった。


「れーふとっ」
 何度も何度も呼んできた愛おしい名前と共に、雷刀は台所に立っている烈風刀に後ろから抱きつく。これは兄弟である自分だけの特権だ、と少年は密かに考える。兄弟だけの特権であり、家族としては普遍的な、特別な意味など持たない行為だ。それこそ、己が唱え続けてきた言葉と同じである。
「料理中に抱きつくのはやめなさいと何度も言っているでしょう」
「えー。でもさ、こうやって烈風刀が料理してるの見るの好きなんだよなー」
「見るだけなら隣からにしてください。火傷したらどうするのですか」
 弟はすぐ後ろの朱を見やる。声は疎ましげなものであるが、言葉の内容は兄を思いやったものだ。素直に離れ、すぐ隣から彼の手元を覗く。鍋の中は赤で満たされ、野菜の甘く柔らかな香りが立ち上っていた。
「今日の晩飯、何?」
「パスタです。トマトがたくさん採れたので、ミートソースにしてみました」
 そう言って、烈風刀は鍋に蓋をする。あとは煮込むだけなのだろう。コンロの火を弱めたのを確認して、雷刀はその腕に抱き付いた。抱き付かれた弟は何も言わない。いきなり抱き付かれても全く動じないほど、この行為は日常茶飯事になっていた。それが酷く幸せで、酷く苦しい。濁り渦巻く感情は欠片も見せず、兄はにこにこといつも通りの笑顔を浮かべた。
「烈風刀の料理、ちょーうめーし大好きなんだよなー。楽しみ」
「おだてても何も出ませんよ」
 決して世辞などではないが、素直でない弟は悪態をつく。しかし、口元がわずかに綻んだのを見るに、内心では賛辞を受け取ってくれたのだろう。
「烈風刀、好き」
 えへへー、とはにかみながら愛の言葉を告げると、はいはい、と呆れた声が返ってくる。いつも通りの一場面――きっとこの先も変わらない、家族の風景だ。
 これ以上を求めるのは贅沢だ、と己に強く言い聞かせる。
 こうやって、恋人のように触れ合って、愛を囁く真似事ができる。今はそれだけで充分だ。



貴方が欲しい/塔死神
葵壱さんには「目をそらさないで」で始まり、「明日はどこに行こうか」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。


「目をそらすな」
 凍てつく低い声が神経を焼く。首筋に感じた微かな風に、反射的に宙で背を反らし回る。逆転する視界、己の頭があった位置に一閃が見えた。
 ぐるんと縦に一回転して着地する。見上げた先には、忌々しげにこちらを睨む碧の姿があった。
「余所見だなんて、随分と余裕ですね」
 舌打ちと共に、白い手袋で覆われた指が細い柄を回す。余所見などあり得ない、と一笑する前に、宙に浮く死神が身の丈以上ある鎌を再び構える。刹那、眼下の朱に向かってまっすぐ跳んだ。
 昼の三日月を思わせる刃が、再び朱の首を狙う。リーチはとっくの昔に把握している。ギリギリ躱せる位置まで後方に跳んだ。無論、理解しているのは相手も同じだ。死神は獲物を逃し振り切った鎌を器用に回し、逆手に掴む。そのまま、目の前の腹を銀の柄の先が捉えた。臓物に直接響く痛みに、炎色の瞳が僅かに歪む。しかし、ある程度距離が詰まったのは僥倖だ。そのまま、目の前の頭目がけて握った槌を目一杯振った。
 相手は突いた反動を活かし再び距離を取る。求めた感触が得られず、灼熱に似た瞳が眇められる。これで終わるつもりはない。振った槌の先を真横に倒し、反対取り付けられた歪な刃で白い胸を狙う。小さな火花と共に、金属がぶつかりあう高い音が響いた。
 斬って、殴って、突いて、砕いて。燃える瞳で睨み合い、踊るように急所を狙う。求めるのは命だ――とはいっても、ヒトとは違うこの身体に、明確な命など無い。しかし、相手の生命活動もどきをこの手で握り潰すのは、脳髄が痺れるほど甘美なのだ。
 この世界唯一の悦びが、欲しくて欲しくて仕方がない。だから、殺す。甦っても、殺す。幾度も繰り返すそれはある種の求愛かもしれない、などと宣えば、身体が十六割されるのだろうが。
 ザク、と布が裂ける音。肉に刃が埋まった確かな感触に、口角が上がる。一気に距離を詰め、小回りの効かない鎌では防ぎきれない懐に潜り込む。そのまま、胸に刺さった刃を素早く引き抜き、思い切り振り上げた槌で目の前の顎を砕いた。骨の砕ける確かな感触と鈍い音に、歓喜が胸を満たす。溢るる欣喜を乗せて、歪な刃をその首に叩きつけた。
 肉と骨の感触、何かが転がる音、数拍して金属が叩きつけられる高い音。無様に倒れ伏す碧を見て、悦喜が背筋を駆ける。五感から伝わる全てが、甘美な悦びを身体いっぱいにもたらした。
 瞬きする間に、転がる死骸は風に攫われ消える。いつも見る、何度も経験した現象だ。そして、己たちのような存在がいつか甦ることの証である。
 歪な笑みが浮かぶ。最高の感覚は今日手にした。けれど、たった一回で満足できるはずなどない。もちろん、あちらも殺されたままで黙っている訳がない。
 憎くて、愛おしくて、忌々しくて、恋しくて、大好きで、大嫌いなあいつはいつ甦るのか。明日か、明後日か、もっと先か。早く会いたい、と恋する少女のように考える。
 兎にも角にも、探さねば始まらない。さて、明日はどこに行こうか。



頭を抱えるまであと一〇分/はるグレ
あおいちさんには「たまには遠回りしてみようか」で始まり、「信じてもいいですか」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。


「……たまには遠回りしてみませんか」
 突然の言葉に、グレイスは反射的に足を止めた。様々な物が詰められたビニール袋が音をたてた。
 目を見開き、少女は声の主を見上げる。頭一つ分上にある金の瞳は、普段と変わらぬ様相だ。
「何よいきなり。今買い出しの途中でしょ」
 レイシスを中心としたゲームの運営業務は、とにかく忙しい。作業の休憩や気分転換に、と作業室にはインスタント飲料や菓子類などが常備されていた。そのいくつかがもうすぐ切れると分かり、比較的手の空いていたグレイスと始果の二人で買い出しに来たのだった。
「まだ仕事残ってるのよ。さっさと帰るべきよ」
「でも、レイシス……? が、遅くなっても大丈夫だ、と言っていました。それと……、むしろ寄り道してきてください、って」
 疑問符に塗れた言葉の末、首を傾げる始果を見て、グレイスは眉間に皺を寄せる。あの姉は妙なところで気を回してくるのだ。それも、変なところで生真面目な狐面の少年がその言葉を額面通りに捉え実行することまで見越してのことなのだから、腹立たしい。
 彼女の好む菓子だけ先に食い尽くしてやろうか、などと小さな嫌がらせを考えていたところで、左手に温かなものが触れた。突然のそれに、少女の肩が小さく跳ねる。朱が浮かんだ顔を素早く上げ、熱の持ち主をキッと睨んだ。
「っ、ちょっと、何よ!」
「……はぐれたら大変ですから、手を繋ごうと」
「は? はぐれるわけないで……いや、あんたははぐれるわね」
 常にふらふらと出歩くこの少年が、はぐれ一人になってもちゃんと戻ってこれるとは思えない。グレイスも、まだ土地勘があるとは言い難い。はぐれないよう手を繋いでおくのは効率的だろう。効率のためなのだ、と言い聞かせて、躑躅の少女は溜め息を吐いた。
「で? 寄り道するってどこ行くの? 道分かるの?」
「……えっと、この辺りの道に、鯛焼き屋……? というものがあると烈風刀? から聞きました。そこに行ってみませんか?」
 疑問符が多用された答えに不安を覚えるが、件の店については心当たりがある。以前レイシスに連れて行かれた店だ。餡子もクリームもチョコも苺も全部美味しいんデスヨ、と一人で全種制覇する様には圧倒されたが、出された菓子は彼女の言葉通りとても美味だった。この口ぶりだと、彼は聞いただけで食べたことはまだないのだろう。一体どんな反応をするだろう、と少女は内心にまりと笑った。
「いいわ。案内して」
「……はい」
 少女の尊大な言葉に、始果は薄い笑顔を浮かべてその小さな手を引く。カサリ、と二人分のビニール袋が軽い音をたてた。
 一歩先を歩く少年を後ろから眺める。その足取りは相変わらずふらふらと頼りないものだ。
 ああは言ったものの、この調子で本当に辿り着くのだろうか。一応、自分も場所を把握しているが、自分たち二人だけでも大丈夫なのだろうか。今更ながら、不安が胸の奥底から湧き上がる。
 繋いだ手を眺め、少女は眉をひそめる。本当に、引かれるこの手を信じてもいいのだろうか。

畳む

#ライレフ #プロ氷 #はるグレ #オルトリンデ=NBLG=ヴァルキュリア #グレイス #腐向け

SDVX


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