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No.83

遠い日の思い出と【グラ+ジタ+ルリ】

遠い日の思い出と【グラ+ジタ+ルリ】
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リュミエールイベのあれ。何を思ってあんなもの作ったんだろうね……。

 鍋を目の前にした少年と少女の言葉に、泡立て器を持った少女とコック帽を被った竜が懐疑の声をあげた。大きく開かれた二対の目は、言葉を理解することを拒否しているかのようにも見えた。
「はちみつを茹でるんですか……?」
 控えめな、それでも否定を求める声が投げかけられる。長い三つ編みを不安げに揺らす少女の姿に、二人の料理人は自信満々に頷いた。その様子に抗議したのは赤い竜の方だ。
「おいおい、グラン、ジータ。待ってくれよ、お前、自分が何を言ってるかわかってるか?」
「分かってるよ?」
「何言ってんだよ、ビィ」
 動揺のあまり険しい顔をするビィに、グランとジータはきょとりとした表情で首を傾げた。首を傾げたいのはこちらである、と言わんばかりに、ビィは目を両手で覆った。
「えっと、グランたちがそういうなら、一度試してみましょうか……!」
「おいおい、ルリアまで何言ってんだ!?」
 頑なに拒むビィを見て、ルリアは力なく笑う。そーだよね、とエプロン姿のジータが彼女に微笑みかける。賛同を得た嬉しさがはっきりと見て取れるものだ。
「やってみなきゃ分かんないもんね!」
「分かんないよな!」
「分かんないならやるなよ!」
 悲痛なビィの声は無視され、二人の団長の手にロイヤルハニーがたっぷり詰まった壺が握られる。これから広がるであろう光景を思い浮かべ、ルリアの瞳に悲嘆と諦観の色が宿った。



ぐらぐらと湯が煮えたぎる鍋の前に、グランとジータが並んで立つ。あーあ、と赤い竜は後悔がたっぷり詰まった声をもらした。
「茹でるってなんだよ……」
「ビィ、覚えてないのか?」
 小さな親友の姿に、グランは首を傾げる。ジータもそれに続いた。異常な行動を起こしているのは彼らだというのに、まるでビィの意見がおかしいような口ぶりだった。
「何をだよ!」
「ほら、私たちが風邪で寝込んだことがあったでしょ?」
 苛立ちをあらわにした声を気にもかけず、ジータは立てた指をくるりと回してビィに問いかける。幾許かして、あぁ、と小さな竜はぼんやりとした声で答えた。その瞳はどこか遠いものになっていた。
 幼い頃からやんちゃな二人は、好奇心に身を任せどこへでも突き進んでいった。それが、雪積もる真冬の川であってもだ。二人の首根っこを引っ掴み必死に止めたビィだが、子供と言えど小さな竜ひとりで止めるには無茶な相手だった。結局のところそのままずるずるとひきずられ、その動向を見守る羽目になったのである。
 見守るとは言っても、ビィひとりでは限度というものがある。寒さのあまり氷張る川の上を突き進む子供二人を一気に相手取るには無理があった。その結果、降り積もった雪に足を取られ仲良く躓き、白いそれにぼふりと深くまで埋まったのであった。その身体全てをあらん限り使い、ばたばたともがく彼らを救い出したのは苦い思い出である。そのあと、雪で濡れた二人が風邪をひき熱を出して寝込んだのなら尚更だ。
「あの時、隣のおばあちゃんが作ってくれた飲み物が美味しくてね」
 ふふ、とジータは楽しげに笑う。遠い日を語る少女の目は、懐かしさで柔らかく細められていた。どこか儚い雰囲気をまとう姿は、数え切れないほどの人間を有する団の長として振る舞う彼女がなかなか見せない、年相応のものだ。
「風邪なんか吹っ飛んじゃうぐらいだったの」
「そうそう。温かくて甘くて、すぐに元気になっちゃうぐらいな」
 ジータに続いてグランも笑う。懐かしい思い出を語る少女らの姿は微笑ましいものだが、その手に握られた希少なはちみつのことを思うと素直に聞くことができなかった。遠くの美しい思い出より、目の前の悲惨な現実である。
「あとでばあちゃんに聞きにいったら、『固まったはちみつをお湯に入れて、酸っぱいくだものの果汁を入れた』って教えてくれてね」
「それってつまり、はちみつを茹でるってことでしょ?」
「なるほどー」
「いや、それは溶かすって言うだろ」
 納得したように頷くルリアに、よく分からない独自の理論に頭を抱えるビィ。そんな相方たちを尻目に、二人の団長は和やかな様子で話を続ける。
「元気のないシャルロッテちゃんも、これなら飲めるかな、って」
「温かいもの飲めばちょっとは落ち着くだろうし、最適だろ?」
 そう言って得意気にウィンクを飛ばす二人に、ルリアははわ、と声をあげる。可愛らしいその声は感嘆に満ちていた。
「そうですね! シャルロッテさんのためにも、はちみつを茹でましょう!」
「おー!」
「おー!」
 元気な三重奏がキッチンに響く。オイラもう知らない、と言わんばかりにビィはがくりと項垂れた。



 そうして三人が自信満々に出した『茹ではちみつ』もとい『ほぼお湯』を飲んだシャルロッテが何とも言えない顔をしたことは、誰しもが想像できるものだろう。

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#グラン #ジータ #ルリア

グランブルーファンタジー


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