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No.82
入居者募集中【はる+グレ】
入居者募集中【はる+グレ】
2017年のエイプリルフールのあれとそのエンドシーンの話。
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「……えっ暴龍邸? なにコレ?」
「ジャグジー多ッ! 何だァこの前衛的な家はッ!?」
掲示されていた広告を見て、赤い機械で身を包んだ青年と躑躅色の髪を持つ少女が素っ頓狂な声をあげる。二人がまじまじと見つめる広告は、新たな不動産情報が記されていた。三LDKということまでは理解が追い付くが、その後ろに記されている八ジャグジー、一ゲーセンという文字の連なりは、脳が処理落ちするようなインパクトがあった。舵を象ったようなデザインの時点で十分な破壊力があるというのに、過剰すぎるジャグジーの数にゲームセンター付きの物件など前代未聞、前衛的にもほどがある。
えぇ、と放心したような少女の声と、体躯の都合で入居できないことを嘆く青年の声。その隣に物言わずぼんやりと立ち尽くす少年。広告と引けを取らないほどカオスな空間である。
現在、四月一日、エイプリルフール。昨年は大きな勘違いをし恥をかいたグレイスだが、今年は既にその知識を手に入れており、もう羞恥に苛まれることはあるまい、と得意になっていた。仕返しにレイシスに何か仕掛けてやろうと企む少女の姿を、普段から付き従うライオットと始果は微笑ましげに見守っていた。仕掛けるために少女の元へと向かう中、たまたま目に入ったのがこの広告だ。知識はあれどまだこちらの文化に慣れていない三人は動揺するばかりだ。
「それにしても、どれもたっけーな」
「レイシスは一体何を紹介してるのよ……」
あまりの突拍子のなさ故エイプリルフールの冗談と分かっていても、記されたどの語も破壊力がありすぎて理解が追いつかない。グレイスははわふわとした薔薇色の少女に想いを馳せる。毎年この日には気合いを入れているという話は聞いていたが、ここまで訳の分からないものを作るとは。嘘を仕掛けるより先に、何故そこまで注力するかを聞きたくなる。
真剣な表情で広告を眺めるライオットを横目に、グレイスは隣に佇む始果へと視線を移す。学園指定の白いジャケットに愛用する深緑のスカーフを身に着けた少年は、どこか焦点の定まらない目で広告を眺めていた。
「始果? どうしたのよ」
「…………いえ」
なんでもありません、と応える声は心ここに在らずと言った様子で、グレイスのことなど気にもかけていないように見えた。少女は鋭く目を細める。東洋風の少年がぼんやりとしているのはいつものことだが、この程度のことをはぐらかす意味が分からなかった。いつもはグレイス、グレイス、とうるさい癖に、と躑躅色の少女は気に入らないといった調子で黒髪の少年を見やった。
「……帰る、ところ」
ぽそりと始果が呟く。あまりに小さなそれは無意識にこぼれた言葉のように聞こえた。
「何言ってんの、今更」
少年の声に、少女は呆れたように言葉を投げかける。ふん、と鼻を鳴らす姿は相変わらず不遜なものだ。
「帰るところなんて、もうあるじゃない」
バグで構成された少女と、記憶を失くした少年、故郷を探す少女に救いを探す戦女神、そして二つの心を持つ青年。コンソール=ネメシスに住まう者たちとと対立していた五人が、拠点としていたバグの海から抜け出してもう久しい。今では皆ボルテ学園に身を寄せ、新しい生活を始めていた。外界から来たことにより家を持たぬ少女らは、主に学園の寄宿舎に住まっていた。たくさんの生徒が過ごす、賑やかな場所。捨てられた世界にひとりきりで生きてきた少女と、記憶を失くしひとりぼっちになってしまった少年は、既にひとりでは無くなったのだ。
「……そう、ですね」
グレイスの言葉に、始果は顔をあげる。焦点の定まらぬ金色の瞳が、躑躅色の瞳を捉え、ふわりと微笑んだ。
「僕にも、君にも、帰る場所はもうありますものね」
「……当たり前でしょ」
その笑顔になんだか気恥ずかしさを覚え、グレイスは誤魔化すようにその背をバシンと叩いた。痛いです、と言う始果の声は穏やかなものだ。
「さ、そろそろ行きましょう。きっと………………あの子が待っています」
そう言って始果は手を差し出す。妙な間が空いたのは、彼女らが向かう先の少女の名を思い出せなかったのだろう。少年は名前を覚えるのが苦手だった。グレイス以外の名前を覚える気はない、と言われても納得できるほどの記憶力である。
「そうね」
グレイスは差し出した手を取る。柔らかな温もりを持つそれが、重なった温度を包む。握った手をそのまま、彼女は振り返り未だまじまじと広告を見つめるライオットに声をかけた。
「ほら、もう行くわよ!」
楽しげに微笑む少女に、機械の身体を持つ青年が愉快そうに笑う。わーってるよ、と言う声は、乱暴な言葉に反して優しいものだ。
レイシスの待つ寄宿舎に向かうため、グレイスは一歩踏み出す。手を引かれる始果と後ろを歩くライオットは、その小さな背中を微笑ましそうに眺めていた。
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#グレイス
#京終始果
#ライオット・デストルドー
#グレイス
#京終始果
#ライオット・デストルドー
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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えぇ、と放心したような少女の声と、体躯の都合で入居できないことを嘆く青年の声。その隣に物言わずぼんやりと立ち尽くす少年。広告と引けを取らないほどカオスな空間である。
現在、四月一日、エイプリルフール。昨年は大きな勘違いをし恥をかいたグレイスだが、今年は既にその知識を手に入れており、もう羞恥に苛まれることはあるまい、と得意になっていた。仕返しにレイシスに何か仕掛けてやろうと企む少女の姿を、普段から付き従うライオットと始果は微笑ましげに見守っていた。仕掛けるために少女の元へと向かう中、たまたま目に入ったのがこの広告だ。知識はあれどまだこちらの文化に慣れていない三人は動揺するばかりだ。
「それにしても、どれもたっけーな」
「レイシスは一体何を紹介してるのよ……」
あまりの突拍子のなさ故エイプリルフールの冗談と分かっていても、記されたどの語も破壊力がありすぎて理解が追いつかない。グレイスははわふわとした薔薇色の少女に想いを馳せる。毎年この日には気合いを入れているという話は聞いていたが、ここまで訳の分からないものを作るとは。嘘を仕掛けるより先に、何故そこまで注力するかを聞きたくなる。
真剣な表情で広告を眺めるライオットを横目に、グレイスは隣に佇む始果へと視線を移す。学園指定の白いジャケットに愛用する深緑のスカーフを身に着けた少年は、どこか焦点の定まらない目で広告を眺めていた。
「始果? どうしたのよ」
「…………いえ」
なんでもありません、と応える声は心ここに在らずと言った様子で、グレイスのことなど気にもかけていないように見えた。少女は鋭く目を細める。東洋風の少年がぼんやりとしているのはいつものことだが、この程度のことをはぐらかす意味が分からなかった。いつもはグレイス、グレイス、とうるさい癖に、と躑躅色の少女は気に入らないといった調子で黒髪の少年を見やった。
「……帰る、ところ」
ぽそりと始果が呟く。あまりに小さなそれは無意識にこぼれた言葉のように聞こえた。
「何言ってんの、今更」
少年の声に、少女は呆れたように言葉を投げかける。ふん、と鼻を鳴らす姿は相変わらず不遜なものだ。
「帰るところなんて、もうあるじゃない」
バグで構成された少女と、記憶を失くした少年、故郷を探す少女に救いを探す戦女神、そして二つの心を持つ青年。コンソール=ネメシスに住まう者たちとと対立していた五人が、拠点としていたバグの海から抜け出してもう久しい。今では皆ボルテ学園に身を寄せ、新しい生活を始めていた。外界から来たことにより家を持たぬ少女らは、主に学園の寄宿舎に住まっていた。たくさんの生徒が過ごす、賑やかな場所。捨てられた世界にひとりきりで生きてきた少女と、記憶を失くしひとりぼっちになってしまった少年は、既にひとりでは無くなったのだ。
「……そう、ですね」
グレイスの言葉に、始果は顔をあげる。焦点の定まらぬ金色の瞳が、躑躅色の瞳を捉え、ふわりと微笑んだ。
「僕にも、君にも、帰る場所はもうありますものね」
「……当たり前でしょ」
その笑顔になんだか気恥ずかしさを覚え、グレイスは誤魔化すようにその背をバシンと叩いた。痛いです、と言う始果の声は穏やかなものだ。
「さ、そろそろ行きましょう。きっと………………あの子が待っています」
そう言って始果は手を差し出す。妙な間が空いたのは、彼女らが向かう先の少女の名を思い出せなかったのだろう。少年は名前を覚えるのが苦手だった。グレイス以外の名前を覚える気はない、と言われても納得できるほどの記憶力である。
「そうね」
グレイスは差し出した手を取る。柔らかな温もりを持つそれが、重なった温度を包む。握った手をそのまま、彼女は振り返り未だまじまじと広告を見つめるライオットに声をかけた。
「ほら、もう行くわよ!」
楽しげに微笑む少女に、機械の身体を持つ青年が愉快そうに笑う。わーってるよ、と言う声は、乱暴な言葉に反して優しいものだ。
レイシスの待つ寄宿舎に向かうため、グレイスは一歩踏み出す。手を引かれる始果と後ろを歩くライオットは、その小さな背中を微笑ましそうに眺めていた。
畳む
#グレイス #京終始果 #ライオット・デストルドー