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No.85
IV I->III【レイ+グレ】
IV I->III【レイ+グレ】
IVでのレベル改定のメタネタ。
書いた当時はまだラクリマPUCされてなかったんですよ……。
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ぶくぶくと泡が上っていく細かな音が鼓膜をくすぐる。水滴一つ落としたように、透き通る高い音が波となって広がっていく。様々な音が、細い身体を包んでいた。
揺りかごのような浮遊感の中、ぼんやりとしていた意識が浮上する。目を開けると、そこは一面の青だった。闇を孕んだ青の中、空から降り注ぐ日の光が薄いカーテンのように揺れる。まるでいつか見た海のようだ。いや、実際に海をイメージしたものなのだろう。
グレイスはその場でくるりと回り、辺りを見回す。降り注ぐ光に照らされフリルをふんだんにあしらったスカートを翻す様は、スポットライトを浴びる女優のようだ。自分の他に誰もいないことを確認し、グレイスはふふ、と不敵に笑う。その表情は優越感に満ちていた。
現在、彼女が目を覚ましたのは"LEVEL20"フォルダだ。新バージョンに移行した際、ネメシスは新しく楽曲のレベルを取り決めた。LEVEL20は最高、数ある難関楽曲の中でもとりわけ難しいと判断されたものが住まう場所だ。
そして、そのフォルダには現在グレイス――"Lachryma《Re:Queen’M》"のジャケットを担当する”
亡国の王女
(
グレイス
)
”しかいない。つまり、彼女が全楽曲の頂点として存在しているのだ。
「やっぱり、私が最強よね」
ふふん、と少女は得意気に笑う。前作ではLEVEL16フォルダにてレイシスと肩を並べていた。数々の楽曲を彩り、いつでも頂点に近しい場所にいた彼女を羨んだものだ。しかし、今回を持って自分は彼女を凌駕する存在だ、と正式に証明されたのだ。普段は何かと幼い子供のように扱われるが、少なくとも楽曲のレベルという部分においてはグレイスの方が上であるというのは、ネメシスが下した確かなものだ。
再び透き通った高い音が空間に響く。それを合図に、グレイスは踊るようにもう一度回る。フリルが幾重にも重なるスカートと高く結った髪をを翻し、黒と赤で輝くステッキを握り直す。す、と右腕を上げ、手を大きく広げると、その中に眩く輝く光が集まった。サイケデリックな桃色の瞳が暗い光を灯す。
「蹂躙してやるわ」
不敵に笑い、彼女は挑戦者を待ち構える。唯一の”
LEVEL20
(
王者
)
”として、その権威を示すために。
ぶらぶらとバタ足をするように足を動かす。そんなことをしてもこの気持ちが治まるはずがないことなど、グレイスは十分理解している。それでも、彼女の細い脚は依然つまらなそうに揺れた。
暇だった。
確かに連日挑戦者が押し寄せてくるが、それを相手取るのはもう慣れたものである。ただ、毎日たったひとりでそれだけをこなすことがつまらないのだ。
そういえば、とグレイスは水面のような空をぼんやりと見上げる。初めてLEVEL16を担当した時は暇で仕方なかった、とレイシスがこぼしていたことを思い出す。十五段階で区分された世界の中に突然新設された”
LEVEL16
(
新世界
)
”、その地位を初めて与えられたのはレイシスとマキシマだ。グレイスとは違い二人だったとはいえ、相当暇だったらしい。やっぱり皆と一緒がいいデス、と彼女が寂しげに笑ったのはいつの日だったか。
「暇ねぇ……」
現在はひとりきりだが、前作でLEVEL16の楽曲がゴロゴロと増えていったように、今作もLEVEL20の楽曲は増えていくのだろう。ただただ、同格の存在が追加される日を待つしかなかった。
こぽこぽと泡が空へと向かう音が、ひとりきりの空間に虚しく響いた。
「グレイス!」
大きな声が、眠りの底に沈んでいた意識を引き上げる。聞き覚えのある声に、グレイスはゆっくりと目を開いた。なかなか焦点が合わず瞬きをすると、どん、と身体に何かがぶつかる。正面から来たであろうそれの勢いに負け、彼女はそのまま後ろに倒れ込んだ。
「いった……」
「グレイス!」
こぼれた声を上書きするように、再び名を呼ばれる。痛みの中、どうにか開いた目の先には、鮮やかな桃色の瞳があった。
「……レイシス?」
「やっとここに来れマシタ!」
疑問形で名を呼ばれたレイシスは、声の主を抱き締めることで返事をした。ちょっと、とじたばたともがくグレイスを無視して、少女は話を続ける。
「今日からワタシもLEVEL20デス! また一緒デスヨ!」
ヤッター、と喜びの声をあげぎゅうぎゅうと抱き付く彼女の背を、グレイスは抗議するように強く叩く。のしかかられ、腹部に腕を回され力いっぱい抱きしめられては苦しくて仕方がない。レイシスもようやく気付いたのか、はわと小さく声をあげて離れた。
上半身を起こし、ようやく離れた彼女の姿を見ることが叶う。真っ赤なフリルスカート、光沢のある黒のジャケットから、同じ色のボーダーに縁取られた赤いトップが覗く。その頭には、リボンとフリルのあしらわれた大きな海賊帽が乗っていた。腰のホルスターに刺さった金色の銃が、揺れる光を浴びてキラリと輝いた。
「今年は海賊デスヨ。かっこいいデショ?」
レイシスははしゃいだ様子でくるりと回る。桃色の髪が優雅に揺れた。今年というのはKACコンテストのことを指すのだろう。毎年行われるそれの最優秀楽曲は、常に最高レベルに属していた。今作も例に漏れず最高レベルを与えられたのだろう。
「グレイス姉ちゃーん!」
「ノアたちも来たよー!」
長い髪を翻す少女の後ろから、ニアとノアが駆けてくる。手にした旗とステッキを振り回す姿は相変わらず元気なものだった。デザインはレイシスのそれとは異なるが、彼女らも海賊をモチーフにしたドレスを身に着けていた。一度に二つも追加されたのか、とグレイスは驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。いくらなんでも極端ではないか、と思うも、ネメシスが支配するこの世界ならば仕方ないと切り替える。こんなこと、日常茶飯事だ。
「今日から四人一緒だね!」
「よろしくね!」
ニコニコと嬉しそうに笑うニアとノアに手を引かれ、グレイスはようやく起き上がる。ステッキお揃いだねー、と姉妹ははしゃいだ声をあげ、両脇から彼女に抱きついた。青い双子はLEVEL20はもちろん、今まで最高レベルの楽曲を担当したことがない。初めての経験なのだ、これほどまでにはしゃぐのも仕方ないだろう。
「グレイス」
優しい声が、青い世界にひとりきりだった少女の名前をなぞる。顔を上げると、そこには柔らかな笑みを浮かべるレイシスがいた。
「今日からもう、一人じゃありマセンヨ」
自身の心を見透かしたような言葉に、グレイスの心臓がどきりと跳ねる。何故、と思うも、答えはすぐに見つかった。レイシスも――”For UltraPlayers”のジャケットを担当した彼女も、この寂しさを抱きかかえていたと語っていたではないか。同じ状況、否、それよりも寂しい環境に放り込まれた少女の思いなど、お見通しだ。
ひとりぼっちではなくなった嬉しさと、心を見透かされた恥ずかしさを隠すように、グレイスはふん、と笑い飛ばす。宣戦布告をするように、彼女は真正面からレイシスを指差した。
「いい気にならないことね。追加されたばっかりのあんたたちはともかく、私は一年経った今もなお
PUC
(
完全に攻略
)
されてないのよ。つまり、私が一番強いんだから!」
不敵な笑みで告げるグレイスを見て、レイシス、ニア、ノアの三人は顔をきょとんと見合わせる。全員同じことを考えたのか、くすりと小さな笑いが三つこぼれた。
「ちょっと! 何を笑っているのよ!」
「何でもありマセンヨ?」
「何でもないよねー?」
「内緒だもんね!」
隠した感情などお見通しと言ったように笑う三人の姿に、グレイスはうぅ、と悔しそうに呻いた。
「ほら! 呼ばれてるわよ! さっさと行ってきなさいよ!」
軽やかな音楽とともに、青い少女らを呼ぶコードが宙に表示される。ゲーム開始を知らせるそれに、グレイスはぶんぶんとステッキを振り回して必死に話を逸らそうとした。
「分かったー!」
「じゃあ、ノアたち行ってくるね!」
「またあとでねー!」
来た時同様、手にした獲物を振ってニアとノアは駆けていった。広いフォルダの中、今度はレイシスとグレイスのふたりきりだ。
「またよろしくお願いしマス」
「……よろしく」
薔薇と躑躅の姉妹は、仲良く隣に並び挑戦者を待っていた。
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#レイシス
#グレイス
#レイシス
#グレイス
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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IV I->III【レイ+グレ】
IV I->III【レイ+グレ】IVでのレベル改定のメタネタ。
書いた当時はまだラクリマPUCされてなかったんですよ……。
ぶくぶくと泡が上っていく細かな音が鼓膜をくすぐる。水滴一つ落としたように、透き通る高い音が波となって広がっていく。様々な音が、細い身体を包んでいた。
揺りかごのような浮遊感の中、ぼんやりとしていた意識が浮上する。目を開けると、そこは一面の青だった。闇を孕んだ青の中、空から降り注ぐ日の光が薄いカーテンのように揺れる。まるでいつか見た海のようだ。いや、実際に海をイメージしたものなのだろう。
グレイスはその場でくるりと回り、辺りを見回す。降り注ぐ光に照らされフリルをふんだんにあしらったスカートを翻す様は、スポットライトを浴びる女優のようだ。自分の他に誰もいないことを確認し、グレイスはふふ、と不敵に笑う。その表情は優越感に満ちていた。
現在、彼女が目を覚ましたのは"LEVEL20"フォルダだ。新バージョンに移行した際、ネメシスは新しく楽曲のレベルを取り決めた。LEVEL20は最高、数ある難関楽曲の中でもとりわけ難しいと判断されたものが住まう場所だ。
そして、そのフォルダには現在グレイス――"Lachryma《Re:Queen’M》"のジャケットを担当する”亡国の王女”しかいない。つまり、彼女が全楽曲の頂点として存在しているのだ。
「やっぱり、私が最強よね」
ふふん、と少女は得意気に笑う。前作ではLEVEL16フォルダにてレイシスと肩を並べていた。数々の楽曲を彩り、いつでも頂点に近しい場所にいた彼女を羨んだものだ。しかし、今回を持って自分は彼女を凌駕する存在だ、と正式に証明されたのだ。普段は何かと幼い子供のように扱われるが、少なくとも楽曲のレベルという部分においてはグレイスの方が上であるというのは、ネメシスが下した確かなものだ。
再び透き通った高い音が空間に響く。それを合図に、グレイスは踊るようにもう一度回る。フリルが幾重にも重なるスカートと高く結った髪をを翻し、黒と赤で輝くステッキを握り直す。す、と右腕を上げ、手を大きく広げると、その中に眩く輝く光が集まった。サイケデリックな桃色の瞳が暗い光を灯す。
「蹂躙してやるわ」
不敵に笑い、彼女は挑戦者を待ち構える。唯一の”LEVEL20”として、その権威を示すために。
ぶらぶらとバタ足をするように足を動かす。そんなことをしてもこの気持ちが治まるはずがないことなど、グレイスは十分理解している。それでも、彼女の細い脚は依然つまらなそうに揺れた。
暇だった。
確かに連日挑戦者が押し寄せてくるが、それを相手取るのはもう慣れたものである。ただ、毎日たったひとりでそれだけをこなすことがつまらないのだ。
そういえば、とグレイスは水面のような空をぼんやりと見上げる。初めてLEVEL16を担当した時は暇で仕方なかった、とレイシスがこぼしていたことを思い出す。十五段階で区分された世界の中に突然新設された”LEVEL16”、その地位を初めて与えられたのはレイシスとマキシマだ。グレイスとは違い二人だったとはいえ、相当暇だったらしい。やっぱり皆と一緒がいいデス、と彼女が寂しげに笑ったのはいつの日だったか。
「暇ねぇ……」
現在はひとりきりだが、前作でLEVEL16の楽曲がゴロゴロと増えていったように、今作もLEVEL20の楽曲は増えていくのだろう。ただただ、同格の存在が追加される日を待つしかなかった。
こぽこぽと泡が空へと向かう音が、ひとりきりの空間に虚しく響いた。
「グレイス!」
大きな声が、眠りの底に沈んでいた意識を引き上げる。聞き覚えのある声に、グレイスはゆっくりと目を開いた。なかなか焦点が合わず瞬きをすると、どん、と身体に何かがぶつかる。正面から来たであろうそれの勢いに負け、彼女はそのまま後ろに倒れ込んだ。
「いった……」
「グレイス!」
こぼれた声を上書きするように、再び名を呼ばれる。痛みの中、どうにか開いた目の先には、鮮やかな桃色の瞳があった。
「……レイシス?」
「やっとここに来れマシタ!」
疑問形で名を呼ばれたレイシスは、声の主を抱き締めることで返事をした。ちょっと、とじたばたともがくグレイスを無視して、少女は話を続ける。
「今日からワタシもLEVEL20デス! また一緒デスヨ!」
ヤッター、と喜びの声をあげぎゅうぎゅうと抱き付く彼女の背を、グレイスは抗議するように強く叩く。のしかかられ、腹部に腕を回され力いっぱい抱きしめられては苦しくて仕方がない。レイシスもようやく気付いたのか、はわと小さく声をあげて離れた。
上半身を起こし、ようやく離れた彼女の姿を見ることが叶う。真っ赤なフリルスカート、光沢のある黒のジャケットから、同じ色のボーダーに縁取られた赤いトップが覗く。その頭には、リボンとフリルのあしらわれた大きな海賊帽が乗っていた。腰のホルスターに刺さった金色の銃が、揺れる光を浴びてキラリと輝いた。
「今年は海賊デスヨ。かっこいいデショ?」
レイシスははしゃいだ様子でくるりと回る。桃色の髪が優雅に揺れた。今年というのはKACコンテストのことを指すのだろう。毎年行われるそれの最優秀楽曲は、常に最高レベルに属していた。今作も例に漏れず最高レベルを与えられたのだろう。
「グレイス姉ちゃーん!」
「ノアたちも来たよー!」
長い髪を翻す少女の後ろから、ニアとノアが駆けてくる。手にした旗とステッキを振り回す姿は相変わらず元気なものだった。デザインはレイシスのそれとは異なるが、彼女らも海賊をモチーフにしたドレスを身に着けていた。一度に二つも追加されたのか、とグレイスは驚いたようにぱちぱちと瞬きをした。いくらなんでも極端ではないか、と思うも、ネメシスが支配するこの世界ならば仕方ないと切り替える。こんなこと、日常茶飯事だ。
「今日から四人一緒だね!」
「よろしくね!」
ニコニコと嬉しそうに笑うニアとノアに手を引かれ、グレイスはようやく起き上がる。ステッキお揃いだねー、と姉妹ははしゃいだ声をあげ、両脇から彼女に抱きついた。青い双子はLEVEL20はもちろん、今まで最高レベルの楽曲を担当したことがない。初めての経験なのだ、これほどまでにはしゃぐのも仕方ないだろう。
「グレイス」
優しい声が、青い世界にひとりきりだった少女の名前をなぞる。顔を上げると、そこには柔らかな笑みを浮かべるレイシスがいた。
「今日からもう、一人じゃありマセンヨ」
自身の心を見透かしたような言葉に、グレイスの心臓がどきりと跳ねる。何故、と思うも、答えはすぐに見つかった。レイシスも――”For UltraPlayers”のジャケットを担当した彼女も、この寂しさを抱きかかえていたと語っていたではないか。同じ状況、否、それよりも寂しい環境に放り込まれた少女の思いなど、お見通しだ。
ひとりぼっちではなくなった嬉しさと、心を見透かされた恥ずかしさを隠すように、グレイスはふん、と笑い飛ばす。宣戦布告をするように、彼女は真正面からレイシスを指差した。
「いい気にならないことね。追加されたばっかりのあんたたちはともかく、私は一年経った今もなおPUCされてないのよ。つまり、私が一番強いんだから!」
不敵な笑みで告げるグレイスを見て、レイシス、ニア、ノアの三人は顔をきょとんと見合わせる。全員同じことを考えたのか、くすりと小さな笑いが三つこぼれた。
「ちょっと! 何を笑っているのよ!」
「何でもありマセンヨ?」
「何でもないよねー?」
「内緒だもんね!」
隠した感情などお見通しと言ったように笑う三人の姿に、グレイスはうぅ、と悔しそうに呻いた。
「ほら! 呼ばれてるわよ! さっさと行ってきなさいよ!」
軽やかな音楽とともに、青い少女らを呼ぶコードが宙に表示される。ゲーム開始を知らせるそれに、グレイスはぶんぶんとステッキを振り回して必死に話を逸らそうとした。
「分かったー!」
「じゃあ、ノアたち行ってくるね!」
「またあとでねー!」
来た時同様、手にした獲物を振ってニアとノアは駆けていった。広いフォルダの中、今度はレイシスとグレイスのふたりきりだ。
「またよろしくお願いしマス」
「……よろしく」
薔薇と躑躅の姉妹は、仲良く隣に並び挑戦者を待っていた。
畳む
#レイシス #グレイス