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No.89

おなかいっぱい【ライレフ/R-18】

おなかいっぱい【ライレフ/R-18】
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為す術も無く喘いじゃうオニイチャンが見たいとかお口いっぱいに頬張る弟君が見たいとか綺麗なお顔を汚したいとかそういう下卑た欲望の塊。昔書いた話のリメイクになった感満載。
つまぶきれふとくんがやりたいことをやりたくてとってもがんばるはなし。

 密かに深呼吸をし、ベッド脇に音も無く跪く。低くなった視線、そのちょうど目の前にある膨らみを見て、烈風刀は小さく息を呑んだ。とくりとくりと心臓が脈を打つ音が聞こえる。血液を巡らせるその動きが緩やかに早まっていくのが自分でも分かった。
 かすかに震える手を伸ばし、少年は下着の縁に指をかけ、ゆっくりと下ろしていく。緩慢な動作は、傍から見れば意地悪く焦らしているように映るだろう。実際は、高揚と緊張を抑えた結果のものだ。
 秘めるべき肌を守る布の縁が、隆起した山の頂点を超える。瞬間、戒めを解かれた中心部が姿を表した。擬音が聞こえてきそうなほど勢い良く飛び出たそれに、少年は碧い目を瞠る。澄んだ海の水を注ぎ込んだような美しい瞳には、驚きと怯れだけでなく、確かな期待がにじんでいた。
 無意識に開いていた口を固く閉じ、反射的に止まっていた手の動きを再開する。長い時間をかけ、下肢、その中心部に位置する重要な器官を守っていた布地が取り払われる。薄い生地の下に押し込められていたそれの全貌が顕になった。常は硬く張り詰めた欲望の象徴は、今はいささか硬度を失っている。天を仰ぐツヤツヤとした先端は少し項垂れており、青黒い血管が走る幹は血液が満ちきらず幾分か細く映る。本来の姿の半分にも満たない状態だ。冷たい外気に晒されてか、か弱くすら見えるそれが時折びくんと震える。意思と関係なくうごめくそれは、人間の身体の一部ではなく、一つの独立した生物のように思えた。
 グロテスクと形容するのが相応しいそれと真正面から対峙し、烈風刀は再び息を呑む。とうに見慣れているはずだというのに、目の当たりにする度、少年の胸の内には緊張と少しの畏怖が渦巻く。心を落ち着けようとそっと吐かれた息は、明らかに熱を孕んだものだった。
 手を伸ばし、ふにゃりとしたそれを普段の姿勢になるように支え起こす。手入れされたすべらかな白い指が、そろそろと浅黒い欲の塊をなぞる。どくりどくりと強く脈動するそれが、この上なく愛おしく思えた。
 溢るる情愛に突き動かされるまま、少年は頂点にそっと唇を寄せる。ベッドサイドに置かれた小さなランプがほのかに照らす中、暗い赤と鮮やかな赤が触れ合う様はどこか背徳的に見えた。柔らかな粘膜同士の接触に、勃ちあがった肉茎がひくりと震える。喜びを表しているかような動きに、胸の内に満足感が広がっていく。
 そのまま、くぼみへ、括れへ、幹へとゆっくりと下りながら、欲望全体に口付けていく。角度を変えて触れる度、ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音が薄暗い部屋に落ちる。淫猥な行為とはあまりにもかけ離れた響きだが、切り替わりつつある思考は淫らなものだと判断する。鼓膜を震わすそれが、頭の隅をぴりぴりと痺れさせた。時折、鼻先が熱い幹を掠める。香る汗と兄の匂いが、消えつつある理性を更に削っていく。
 根本まで口付けを施し終え、碧は一度顔を離す。中途半端に昂ぶっていた器官は、少年の熱烈な接吻によって硬度を増していた。存在を堂々と主張する屹立の真上に戻り、烈風刀は閉じていた口を薄く開ける。艶のある唇の間から、真っ赤に色付いた舌が顔を覗かせた。数拍遅れて、唾液がぬめった赤を伝っていく。糸を引くようにゆっくりと下へと伸びるそれが、反り返った肉槍の穂先にとろりと垂れた。透明な粘液が、艶めく先端から血管の浮かぶ幹を静かに這っていく。途切れる度、少年はくちゅくちゅと口を動かし、再び舌を出して溜まった唾液を垂らしていく。普段の彼ならばまずしない、頼まれても憤怒し断固拒否するであろうはしたない行動だ。けれども、これは今から行うことのために必要なプロセスなのだ。必要に駆られてのことなのだから仕方ない。仕方ないのだ、と碧は己に言い聞かせる。その頬は上気しきり、紅に染め上げられていた。
 幾度か繰り返したところで、再び幹へと顔を寄せる。舌を伸ばし、表面を伝う唾液を塗り拡げていく。上から垂らすだけでは届かなかった場所を、熱くぬめる赤が丁寧になぞり、粘つく潤いを与えていく。横から唇で挟みこみ扱くと、くぷくぷと粘液が泡立つ音があがる。間の抜けた響きだというのに、今は何故だかとてつもなくいやらしいものに思えた。背筋を何かがなぞる。その正体を理解することから逃げるように、少年は必死に舌を動かした。熱を孕む赤が欲望の象徴をなぞる度、れる、とぬめった音が聞こえる。実際はそんな漫画めいた大袈裟な音などたっていないだろう。けれども、熱に溺れる少年の頭には、己の行動とはしたなさを如実に表す響きが鳴り渡っていた。
 もう十分だろう、と烈風刀はようやく埋めた顔を上げる。しまい忘れた赤い舌と濡れそぼった先端との間に、細い橋がかかる。情熱的な口交を終えた後に生まれるものと同じ姿をしていた。
 満遍なく唾液をまぶされた怒張が、ほのかな光に照らされぬらぬらと輝く。まるで闇から這い出てきた化け物のような容貌だ。あまりにも醜悪で不気味な光景だというのに、少年は目を逸らすことなく真正面からじぃと見つめる。浅く漏れる呼気と、大きく開かれた翡翠の瞳には、隠しようのない官能があった。
 ふぅ、と大きく息を吐き、思い切り口を開く。そのまま、碧は艶めく先端をぱくりと咥えた。触れた舌先から、形容し難い味が広がる。味覚を殺すような凄まじい味に、反射的に吐き出しそうになるのをどうにか堪える。口淫などもう数え切れないほどやってきたというのに、この味にだけは未だ慣れずにいた。異物を拒否しようとする喉が、ぐぅ、とおかしな音をたてる。整った眉が強く寄せられた。
 ぎゅうと目を瞑り、形を確かめるかのように唇でなぞりながら、硬い欲望を口腔内へと迎え入れていく。丁寧な愛撫により元の姿を取り戻した雄の象徴は、火傷してしまうのではないかと錯覚するほどに熱い。この熱は己によって生み出されたものなのだ、と考えて、少年の身体がふるりと震える。ん、と無意識に零れた声は鼻にかかったとろけた響きをしていた。
 じりじりと進み、ようやく狭い口内の奥ギリギリまで怒張を迎え入れる。根本に茂った短い毛が埋まった鼻先を撫でる感覚がくすぐったかった。えづかずきちんと呑み込み終えた安堵に、無意識に止まっていた呼吸が再開される。瞬間、深い場所で熟成された濃い匂いが鼻孔を一気に満たした。頭を思い切り殴られたかのように意識が大きく揺れる。心臓が痛みすら覚えるほど早く拍動する。視界に細かな光が強く瞬く。愛する雄の象徴を口いっぱいに頬張り、番の匂いに嗅覚を犯され、少年は確かな性的興奮を覚えていた。腹の奥に灯った淡い火が、音をたてて燃え上がり始めた。
 盛る情欲の炎に突き動かされるように、烈風刀は剛直が支配する口内で懸命に舌を動かす。硬い幹を舌全体で撫で、浮かぶ血管をなぞりながら優しく押し潰し、括れた部分をぐるりとなぞり、くぼんだ部分をいたずらするように突く。こんこんと湧き出る先走りが、少年の舌を蝕んでいく。美味とは正反対に位置する最低な味わいだというのに、すっかりと熱に浮かされた脳はこの上なく好ましいものだと判断を下した。己の唾液と混じったそれを飲み下す度、得も言われぬ感覚が背筋を駆け抜けていく。得体の知れないそれが、快楽を受容する神経を強く焼いた。
 こんな稚拙な動きでは、満足させることなど到底不可能だろう。更なる悦楽を与えるべく、烈風刀はゆるゆると頭を動かす。限界まで呑み込み、張り出した部分に引っかかるまで戻り、また呑み込みを繰り返す。艶めく唇が雄肉を扱く度、かぽかぽと空気が抜ける卑猥な音がたつ。己が生み出したそれが、欲望で焼け付く腹に響く。身体の奥底から湧き上がる法悦に、声帯が甘ったるい音を奏でた。くぐもった浅ましい響きが悦の焔にくべられ、勢いを増していく。さながら永久機関だ。己が成すこと全てが快楽へと繋がっているように思えた。
 ただ擦るだけでは芸がない。アクセントをつけるため、先端だけを口に含んでちゅうと吸い付く。咥え込んだそれがびくりと大きく跳ねた。まっすぐに刻まれたくぼみから、熱い蜜がとぷりと湧き溢れる。奉仕する彼が性的快感を得ているという確かな証拠だ。身体中を駆け巡る悦びとともに、たっぷりと与えられる最高の報酬を飲み干した。
 かすかに不安の色を浮かべた翠玉が、ちらりと頭上へ向けられる。白熱灯の淡い光に照らされた兄の顔は、強くしかめられている。苦そうな表情は、不快感や苦痛によるものでない。証拠に、頬はすっかりと上気し、熟した果実のように鮮やかに色づいていた。呆けたように開いた口からは漏れる呼気は酷く荒く、何もかもを焼き尽くす焔のように熱い。覗く八重歯が薄明かりを受け光る様は、何もかもを断ち切る鋭利な刃物を思わせた。股座に顔を埋めた弟を見下ろす紅玉は、内で盛る熱で潤み、マグマのようにどろりととろけている。ふるふると震える美しい宝石の中には、苛烈なほどの情欲が燃え上がっているのがはっきりと見て取れた。
 見上げる碧と見下ろす朱とが、真正面からかち合う。刹那、口内を埋め尽くす怒張がびくんと大きく反応した。ぐ、と堪えるような低い唸りが降ってくる。苦しげに眇められた目は、凶暴な獣のように爛々と輝いていた。
 きもちよくなってくれている。よろこんでくれている。己の献身に対する確かな肯定に、胸に多大なる歓喜が広がる。どんどんと膨らむ喜悦は、すぐさま熱意へと変換された。もっときもちよくなってほしい。もっとよろこんでほしい。兄を想う一心に、碧は更に激しく頭を動かす。根本まで深くまで呑み込み、吸い付きながら幹を撫で上げ、張り出た境目を小刻みに扱き、深い溝を丁寧に舐め、走る筋を舌先でゆっくりとなぞり、ツルツルとした色の濃い頭を舌全体で磨いていく。単調にならぬよう、時折方向を変え、熱く柔らかな頬肉に、ぬめる硬口蓋に押し当てる。思いつく全てをもって、烈風刀は肉茎に尽くす。今の彼にとって、朱をきもちよくさせることが世界の全てであった。
 懸命に愛する中、本能が酸素が不足していることを強く訴え始める。生命の危機に関わるそれに抗いきれず、少年は一度口を離した。濡れそぼった唇と赤黒い先端とに、名残惜しげな銀糸が繋がる。淫らに輝くそれは、熱に溺れた呼吸によってすぐさま途切れ失せた。
 はぁはぁと荒い息を繰り返す。思いの外呼吸を犠牲にしていたらしく、乱れたそれはなかなか治る様子がない。ずっと大きく開いた状態だったからか、口も上手く閉じることができずに間抜けに開いたままだ。時折混じる細い喘ぎは、酸素が足りない苦しさではなく、口腔という敏感な場所を雄に支配される悦びと愛しい熱を失った寂しさが色濃くにじんでいた。
 酸素不足と無茶な運動と依然燃え上がる愛欲で、頭がぐらぐらと揺れる。それでも、どろどろにとろけきった翡翠は、目の前に聳える雄から目を離せずにいた。舌を垂らしただただ凝視する姿は、待てをされた犬のようだ。
 ベッドの縁に突いていた手を緩慢に持ち上げ、烈風刀はぬらぬらと光るそれに指を伸ばす。触れた先から伝わる焼けるような熱に、心の臓が一際大きく脈打った。唾液とカウパーでたっぷりとコーティングされた欲望を手でそっと包み込み、ゆっくりと上下に動かす。擦り上げる度、にちにちと粘っこい音が響く。卑猥なそれが、腹奥で燃え盛る炎に薪をくべた。はぁ、と零れた吐息は色欲に溺れきった音色をしていた。
 全然足りない、と本能が叫ぶ。十分に働くことができない頭では、何が足りないかなど到底分からない。理性が求めきれぬ解を、本能は容易に弾き出し、ぼやける思考へと司令を下した。
 気がつけば、烈風刀は再び怒張に唇を寄せていた。楽器でも演奏するかのように肉茎を横から挟みこみ、頭を動かしゆるゆると扱く。先端から湧き出る雫を指先でくるくると塗り拡げ、輪にした指で全体にまぶしていく。舌を伸ばし、くぼみからとめどなく溢れる涙を舐めとる。手のひらと唇から伝わる焼ける熱が、立ち昇る濃ゆい匂いが、味蕾を犯す形容し難い味が、粘つく姦濫な音が、脳髄を揺さぶる。鮮烈な官能が思考を桃色に染めあげる。きゅう、と物欲しげな鳴き声が腹の奥から聞こえた気がした。
 淫猥な音を奏でる中、拙く動かす頭を包むように何かが触れる。ふわふわと揺れる髪をかき乱すように撫でるそれは、紛うことなく愛しい兄の手だ。そろそろとした手付きは、普段の甘やかす時や憂慮を宥め安らげる時のものではない。どこかぎこちない動きだ。
 どうしたのだろうか。きもちよくなかったのだろうか。剛直から口を離し、烈風刀は不安を浮かべた目でそっと朱を見やる。こちらを見下ろす紅玉髄の中には、燃え盛り暴れ狂う獣欲が見えた。きっと心の内もそうだろうに、見上げた先の彼は苦しげに歯を食いしばり、爛々と輝く目を強く眇めていた。
「……む、り、しなくて、いいから」
 荒い呼吸の中、つかえながらも雷刀は言葉を紡ぐ。震えながらも碧い頭を撫でる手付きは、慈愛と思慮に溢れたものだった。食い殺さんばかりの激情に満ちた目とは全くの正反対な言葉と触れ方は、あまりにも歪だ。
 彼のことだ、おそらく呼吸すらままならないほど口淫を施し、休むことなく手淫まで行う弟の姿を見て、自身の為に無理をしていると考えたのだろう。彼の思考は半分正解で、半分不正解だ。これほどまで熱心に行為を続けているのは、兄――つまり愛する恋人の為、という部分は紛れもない事実である。ただ、無理など一切していない。全て、烈風刀自身の確固たる意思で――大好きなひとに尽くしたくてやっているのだ。『無理』だなんて、あまりにも的外れな指摘である。
 兄の言葉に、弟は密かに眉をひそめる。優しさ故のものとは分かっていても、己が好んでやっていることを勝手に勘違いし否定されるのは、あまり気分が良くない。何より、雷刀本人が一番無理をしているのは、烈風刀にははっきりと分かる。頭に添えられたままの震える手は、彼の胸の内を暴れ回る獣欲を無理矢理抑え込んでいることを如実に表していた。快楽を堪えるように眇めた目も、強く噛み締められた口も、その実はオスとしての本能を押さえつけるものだ。この熱く柔らかな口内を、湧き上がる欲望がままに犯し尽くしたい衝動を無理矢理我慢していることなど、一目で分かる。
 優しい兄は、可愛い弟を傷つけぬよう、どうにか己を律しようとしているのだ。それはとても美しく素晴らしい、讃えられるべき行為であろう――当人である烈風刀以外にとっては、だが。
 ゆるく握った指を解き、熱塊から手を退かす。ふぅ、と安堵の溜息が頭上から降ってくるのが聞こえた。安心しきった様子を確認した後、烈風刀はかぱりと最大限まで口を開く。そのまま、天を仰ぐ剛直全てを一気に呑み込んだ。
「――っあ? ぇっ……、ぅ、ァッ、れ、烈風刀っ!?」
 勢いよく飛び込んできた熱塊が、柔らかな肉に直接ぶつかる。ごりゅ、とあまりよろしくない音が喉の奥底に響いた。えづき吐き出しそうになるのを必死で堪え、少年は口腔と食道を以て肉槍全てを無理矢理己の内に納める。すぐさま思い切り吸い付き、根本から先端まで唇で、頬肉で強く扱きあげる。伸ばした舌全体で幹を磨きつつ、股座に頭を深く埋め、自ら食道へと獣欲を突き立てる。できるかぎり早く頭を動かし、その工程を何度も繰り返す。ぐぽぐぽと下品な音をたてる様は筆舌に尽くしがたいほど淫らだ。それを常は性とは無縁とばかりに涼しい顔をしている烈風刀が、自ら欲に溺れて行っているというのだ。淫靡としか言いようがない光景である。
 口の奥、喉に繋がる狭まった部分を張り出た傘がゴリゴリと抉る。細まった場所を無理矢理こじ開け、硬い切っ先が咽頭を突く度、鈍い痛みと胃の腑が迫り上がってくる不快感が襲う。けれども、少年は止まる気など欠片もなかった。何が無理をしなくていい、だ。一番無理をしている人間が何を言っているのだ。湧き上がる憤懣と意地と淫欲に身を任せ、少年は口という生きる上で重要な器官をを自ら犯していく。己の限界値を無視した口淫は、見ている者を不安にさせるほど激しく、それ以上に見ている者の獣の本能を暴き掻き立てるほど扇情的だった。
「れっ、れふとッ! 待って……、まて、って!」
 ようやく状況を飲み込んだのか、雷刀は焦燥を顕にした声で弟を呼ぶ。上擦り震えるそれは、悲鳴のようにも聞こえた。拒否する声音とは正反対に、骨ばった腰は目の前の喉へ突き入れるかのようにビクンと跳ねる。食道を犯すかのような動きに、ぐ、と苦しげな呻きがあがる。醜いそれは、音という形になる前に喉の内に消えた。
「むりすんなってば! ……だめっ、ぁっ……だめだ、からぁ……、っ、やだぁ……!」
 だめ、と駄々をこねる子どものように繰り返す声には、涙がにじんでいた。首を強く横に振る度、茜空のような髪が宙に広がり落ちる。汗を含んだ癖のある髪がぱさぱさと軽い音をたてる。それもすぐ、否定の言葉といやらしい水音と欲に溺れた呻きに掻き消された。
 とめどなく溢れ出る唾液と先走りの混合物が、咥え込んだ口の端から漏れ出る。紅に染まった唇が肉幹を扱く度、じゅぷじゅぷと水音があがる。かき混ぜ泡立ったそれが流れ伝い、太腿に薄い線を描いていく。突如投げ込まれた未知の感覚に、朱は短い嬌声をあげる。烈風刀だけではない、雷刀もまた、神経回路をぐちゃぐちゃにされていた。性的興奮に支配された彼の神経は、伝達されてきた信号を全て快楽だと判断を下した。
「ぅ、アッ……、で、ちゃう、から……! や、だ……、れふとぉ……!」
 やだやだとうわ言のように唱え、朱は己の股座に顔を深く埋めた弟の頭を両の手で後方へと押す。早く離せと訴えるそれを一切合切無視し、烈風刀は変わらず――否、むしろ更に大胆に動き始める。己から喉壁をノックするように、剛直を無理矢理根本まで呑み込む。その勢いは、そのまま咽頭を貫いてしまうのではないかと危惧するものだ。愛欲に溺れきった孔雀石は瞼の奥に固く閉ざされ、浅葱の眉は苦しげに強く寄せられていた。十分に酸素を補給できず、脳味噌がぐらぐらと揺れる。鼻呼吸を試みるも、奥底に溜め込まれた兄の香りとわずかに漏れた精液の香りが混ざった濃ゆい芳香が、思考を掻き乱すばかりだ。生存本能すら無視し、少年は獣が如く腹奥に燃え盛る淫欲に実直に動く。酸素よりも何よりも、兄が甘ったるい声をあげ悦びに震える姿が欲しくて仕方がなかった。
「だ、め……やだっ、れふと……、やっ――ぁ、あッ……!」
 息を詰める音が聞こえたと同時に、凄まじい力で頭を押される。火事場の馬鹿力とはこういうことを言うのだろう。突き飛ばすように加減なく押され、烈風刀は驚きとわずかな痛みに短い悲鳴をあげる。声帯が奏でるくぐもった音は、口腔を埋め尽くす肉欲にぶつかって消えた。
 兄が望んだ通り、碧い頭が己の身体から離れる。潤んだ柔らかい唇が硬い肉幹を根元から先端まで容赦なく擦りあげる。こじ開けられた軟口蓋を、ざらつく舌を、つるつるとした硬口蓋を、欲に滾った刃が一気に駆け抜けていく。吸い付き締め付ける口腔から無理矢理引き抜く感覚は、追いすがり絡みつく肉洞から逃れる時のそれとほぼ同じだ。つまり、腰が砕けるような凄まじい刺激である。そんなものをいきなり味わって、昂ぶった欲望が耐えられるはずなどなかった。
「あっ、ぁ、あ、ア、あああああッ!」
 ぢゅぽん、と鈍い水音と同時に、甲高い咆哮があがる。口腔という熱い洞から抜け出た瞬間、硬く張り詰めた雄から白濁が吐き出された。切っ先から放たれた濁液が勢いよく宙を舞う。真っ直ぐに飛んだそれは、びちゃ、びちゃ、と汚らしい音をたてて目の前の顔に着地した。紅に染まりきった頬を、美しく通った鼻梁を、閉じられた白い瞼を、さらさらとした髪を、潤んだ真っ赤な舌を、欲望の証が蹂躙していく。熱い雫が降り注ぐ度、愛欲で満たされた頭が強く痺れた。
 乱れきった呼吸とかすかな嬌声がぬるい部屋に落ちては消える。腹の奥底に煮え滾っていた獣欲を解放し、兄は半ば放心状態にあった。ギラギラと妖しく輝いていた炎瑪瑙は、焦点が合わないのかいささか曇って見える。薄く開いた目は涙を湛え、溢れたそれが眦から零れ落ちた。
 己により愛し人が達した喜びに、碧の胸に達成感と幸福感がぶわりと広がる。無理矢理引き抜かれた反動でだらしなく垂れさがった舌が、白い欲望を乗せたまま元あるべき場所へと戻される。味蕾に染み渡る味を薄めるように、くちゅくちゅとはしたない音を奏でつつ唾液と混ぜ合わせる。口内で作られた即興カクテルを一息に飲み干すと、腹の中が悦びに満ちたように思えた。胃の腑を犯す味わいだけでは足りないと本能が叫ぶ。兄は多少は満足したようだが、自分はまだまだ足りない。こんなにわずかなものだけで、情火に浮かされた身体が満たされるはずがないのだ。飢えて死んでしまいそうな心持ちである。
「ぅ……、ぁ、ごっ、ごめん!」
 呆けた意識が、ようやく現実にピントを合わせ終えたのだろう。喘鳴にも似た呼吸の合間、雷刀はごめんと何度も謝罪の言葉を繰り返す。土下座までしてしまいそうな勢いだ。上気していた顔は青褪め、髪と同じ色をした眉は八の字を描いていた。
 確かに顔面を精液で汚すことなど滅多に無いことだが、今回は故意でなくただの事故である。彼が謝る必要性など全く無い。むしろ、静止の声を無視し、無理矢理行為を続けた己に責任があると言ってもよいだろう。
 ティッシュと連呼し、兄は慌ただしい様子でベッド周りをひっくり返す。大丈夫ですよ、と言って、弟は己の瞼へと手を伸ばす。指の背で、這うように肌を伝っていく白濁をすくい拭おうとする。しかし、着弾した飛沫はさほど多くはないらしい。熱を失いつつある迸りはほとんどすくうことができず、結果的に瞼に塗り込むだけになってしまった。まるで自ら肌の奥の奥まで精で犯しているような行為に、背筋を鋭利な快感が駆け抜ける。被虐趣味的な電気信号が、快楽を受容する器官を焼いた。
 ぞくぞくと法悦に震える身体を抑えつつ、少年は他の場所へと指を這わせる。拭う体を装い、濁った雫を肌と塗り込んでいく。まるで化粧をしているようだ。顔という重要な部位まで犯される感覚に、心臓がうるさいほどに拍動する。指を動かし、番の精液という淫らなファンデーションを塗り拡げていく度、悦びが正常な思考を崩していく。聡明な頭脳は、すっかりと官能に染め上げられていた。
 ようやく全箇所に手を入れ終え、烈風刀は指を口元へと持っていく。白濁で汚れた――自ら積極的に汚したという方が正確である――指に、そっと舌を這わせる。乾きつつあるそれを舐め溶かすように、赤が傷一つない肌をたどっていく。仕上げに、先程まで雄に施していたように吸い付き唇で拭いあげる。欲望をまとった場所は、今は己の唾液でてらてらといやらしく輝いていた。はぁ、と熱に浮かされた甘ったるい溜め息が漏れる。美味いなど到底言えない代物だが、理性が消し飛び本能が支配する脳はこの上なく素晴らしいものだと判断した。腹奥底に灯る熱が、わずかながらも白を収めた胃を羨んで鳴き声をあげる。
 ふと視線を感じ、烈風刀は顔を上げる。とろけきった深青の先には、大きく目を瞠る朱がいた。先程まで血の気が失せていた顔は再び赤く染まり、わずかに開いた口の端からはわずかに唾液が伝っていた。覗く八重歯が、淡い光を受けてきらめく。未だに荒い息は、強い熱を孕んだものだ。精虫を肌に塗り込み、名残惜しげに舐める己の姿を見て、彼が性的興奮を覚えていることが直感的に分かった。
「あー……えっと…………、顔洗ってくる?」
 気まずげに視線を宙を彷徨わせ、雷刀は淀みながらも言葉を紡ぐ。優しい彼なのだから、気遣う言葉は本心からのものだろう。けれども、それは本能が主張する優先順位を理性が無理矢理修正した結果のものだということは、その表情と声音で簡単に分かった。本当は、もっと違う言葉を――行動をしたいに決まっている。双子なのだ、きっと同じことを考えているに間違いない。
「……洗いに行っている間、我慢できるのですか?」
 言外に無理だろうとほのめかせ、烈風刀は意地悪く目を細める。朱が言葉を詰まらせるのを尻目に、碧はすっと視線を下ろす。つい先程欲望を吐き出したはずの屹立は、依然硬く張り詰め天を仰いでいた。先端から透明な雫を零す様は、獲物を前に涎を垂らす肉食獣のようだ。
 血液が巡りきった欲望を片手でそっと支え、少年は親愛を表すようにすりすりと頬擦りをする。垂れた粘つく汁が、再び整った顔を汚す。柔い肌で擦られる感覚にか、頬を寄せたそれがビクリと大きく震えた。あまりにも正直で単純な反応に、愛おしさが胸に募る。こんなにも凶悪で醜悪で不気味なフォルムをしているというのに、今は酷く可愛らしく思えた。
「――貴方が大丈夫だとしても、僕が我慢できませんから」
 だから、はやく。
 昂ぶりに擦りついたまま、烈風刀は愛しい柘榴石を見上げゆっくりと言葉を紡ぐ。情欲でどろどろにとろけた目で見つめ、甘えた声で舌足らずにねだる様は、理性を容易く消し飛ばすほど淫靡だった。
 口腔を押し広げ喉を染め胃の腑に落ちるはずの迸りを逃し、腹が減って仕方がないのだ。外に放たれぬるくなったものをわずかに舐め取った程度では、満足できるはずがない。早く、この肚を猛る鋭い楔で、煮え滾った欲望の濁流で満たしたい。侵略されたい。支配されたい。蹂躙されたい。思考を乗っ取った官能が声高に主張する。本能も同じほど大きく声をあげた。
 瞠られたままの紅玉髄の中に火が灯る。小さなそれは一気に勢いを増し、音をたてて燃え盛る。欲望が煮えたぎる双眸がギラギラと輝く様は、凶暴と表現するのがぴったりだった。先程とてつもなく頑張って主張したであろう理性は、既に粉々に砕けて消えていた。
 互いに理性というブレーキを失った今、静止し宥めるものなどいない。ぬるい空気に包まれた部屋には、獣としての本能を剥き出しにした人間だけが存在していた。
 いきなり肩を掴まれ、碧はそのまま思い切り後ろに突き飛ばされる。微かな悲鳴と共に、掃除された絨毯に碧い髪が広がった。軽い衝撃で揺れる思考の中、反射的に閉じた目をゆっくりと開く。人影が光を遮り暗くなった視界には、燃えさかる炎のように鮮烈な朱だけが見えた。降り注ぐ荒い呼気が耳をくすぐる。獣欲で燃え上がったその色と響きに――そしてこれから訪れるであろう最上の快楽を夢想し、淫らに艶めく唇が三日月を模った。

畳む

#ライレフ #腐向け #R18

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