401/V0.txt

otaku no genkaku tsumeawase

TOP
|
HOME

No.10, No.9, No.8, No.7, No.6, No.5, No.47件]

雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】

雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】
top_SS01.png
pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

パウンドケーキって美味しいけど酒の匂いがキツくて苦手。
急にさなれいむが書きたくなったので。三人称と一人称が混ざって訳分からん。

「霊夢さーん! れーいーむーさーん!」
雪の積もる境内に、上機嫌を通り越してハイになった声が響く。雪降る寒さにも負けず、早苗は霊夢がいるであろう社務所の方へと駆けていく。
その顔に、大きめの札がベシャリと貼付けられた。
「うるさい」
縁側に面した部屋の襖の隙間から霊夢が顔を出した。不機嫌さを隠すことなく、訪問者にもう一枚札を投げる。札は見事に早苗の顔に命中し、早苗はさらにもがもがともがいた。
やっと札を剥がし終えた早苗は、霊夢の顔を見てにへらと笑った。
「なにその顔」
「まあまあ。それよりも、霊夢さんに渡したいものがあるんです」
緩んだ顔のまま縁側に腰掛け、早苗は肩にかけた鞄を漁り、目的のものを取り出し掲げる。
「ハッピーメリークリスマース!」
「は? め……、なに?」
「なにって、クリスマスですよ。クリスマスプレゼントですよ」
互いの言っている事が分からないのか、二人とも不思議そうな顔をする。しばらくして、早苗は合点がいったようで、未だに状況を理解していない霊夢に説明をはじめた。
「私のいた外の世界では、今日は皆でご馳走を食べたりプレゼントを交換したりするんです」
「宴会する日ってこと?」
「そんなものです」
「本当は神様の誕生日なんですけどね」と続ける早苗を尻目に、霊夢は掲げられた箱に目を移す。寝そべった状態では見上げるのが辛く、途中で諦め起き上がる。
「ともかく、私から霊夢さんにクリスマスプレゼントを持ってきたのですよ」
満面の笑顔で手渡された箱は大きさに反して重い。中身は何なのだろうと考えていると、開けるよう促される。
「おぉ」
箱の中身はクッキーとパウンドケーキだった。クッキーは様々な形に型抜きされており、パウンドケーキの断面からは色とりどりのフルーツが顔を覗かせている。どちらも程よい焼き色で、仄かに甘い香りを漂わせていた。
「早苗が作ったの?」
「えぇ。フルーツは秋神様から頂いたものなので、味は保証できますよ」
「あんた、こんなのも作れるのねぇ」
神妙そうな顔をしてクッキーを一つかじる。サクリとした食感と期待通りの甘さが口の中に広がった。
「ん、美味しい」
「作った甲斐がありました」
もしゃもしゃとクッキーを食べる霊夢の横で、早苗は幸せそうに笑う。しかし、それは通り抜けた北風に掻き消され、早苗は寒さにぶるりと身を震わせた。
「あー、寒いし中に入りなさいよ」
「お邪魔します」
早苗は冷たい腕で自らを抱きながら部屋に入る。促されるままに霊夢の隣に座り、炬燵に足を潜り込ませる。冷たい足先に暖かさがじんわりと染み込んだ。
因みに霊夢は早苗との会話中、下半身は炬燵に潜り込ませたままだった。道理で寒さに文句を言わなかったわけである。
「大きい方のクッキーは後で分けましょうか」
「霊夢さん、それケーキです」
「? ケーキってあれでしょ、ふわふわした黄色いのにクリーム塗ったやつでしょ? たまに赤いけど」
「ケーキにも種類があるんですよ。それは固めのケーキなんです」
「へぇ」
まじまじとパウンドケーキを見つめる霊夢を眺めながら、今度はとびきり大きいホールケーキを持ってきてやろうと早苗は固く誓った。同時に、その『ふわふわした黄色いのにクリーム塗った』ケーキを霊夢に食べさせた誰かに嫉妬する。
たまに赤い、おそらく苺などのフルーツを混ぜこんだものが出てくるあたり、相手は腕の立つ者なのだろう。強い相手だろうが、恋人の胃袋を掌握させてたまるものか。
見知らぬ誰かに闘士を燃やす早苗を無視して、霊夢は早苗が持ってきたクッキーを頬張る。無言でどんどんと食べていくあたり、気に入ったのだろう。
「美味しいですか?」
「美味しい」
霊夢の素直な返答にえへへと笑う早苗だが、その笑みに少し黒いものが混じる。
「ねぇ、霊夢さん」
「あに」
「霊夢さんは私に何をくれますか?」
「はぁ?」
思いっきり怪訝で不機嫌な声と視線が早苗に向けられた。早苗は気にせず話を続ける。
「さっき言ったじゃないですか。今日は『プレゼントを交換したりする日』だ、って。私は霊夢さんにお菓子を送りました。つまり、私は霊夢さんにプレゼントをもらう権利があります!」
ビシィ、と霊夢を指差す。霊夢は眉間にシワを寄せて早苗を睨み、溜息をついた。
「みかんぐらいしかないんだけど」
「そのみかん、前におすそ分けしたものですよね?」
「じゃあこれ返す」
「クッキー、くずしか残ってないじゃないですか」
「じゃあどうしろってんのよ」
早苗はふふふと不敵に笑い、霊夢の方へ身を寄せた。
「別に物品である必要はないんです。例えば、キスしてくれたりとか、甘えてくれたり甘えさせてくれたりとかでいいんですよぅ」
霊夢の眉間にシワがさらに深く刻まれる。なまはげのような顔をした霊夢に屈することなく、早苗は辛抱強く返答を待った。
しばらくして、諦めたかのような溜息とともに寄っていたシワが緩んだ。ちょいちょい、と小さく手招きされて早苗はさらに霊夢の方へに寄る。まだ足りないのか手はなかなか下りない。ついに痺れを切らしたのか、霊夢は立ち上がり、早苗のすぐ隣、肩が触れ合うような場所に座った。
「早苗、こっち向きなさい」
声に誘われ霊夢の方を向く。視界から霊夢が消え、身体に温かな重みがかかる。しばらくして、霊夢が早苗に抱きついたのだと理解した。
早苗はいきなりの出来事に軽くパニック状態になっていた。
あの霊夢が、あの霊夢が自分に抱きついているのである。普段なら自ら抱きついても邪険に扱うような霊夢が、原因はどうであれ自発的に抱きついてきたのだ。嬉しさやらなんやらで早苗の頭は処理が追いつかない状態になっていた。
霊夢は霊夢でパニック状態になっていた。
普段なら恥ずかしさやら照れ臭さで抱きつかれても邪険に扱ってしまうというのに、自分から抱きついたのだ。こんなこと初めてだ。恥ずかしさやら照れ臭さやら抱きついたのはいいがこのあとどうすればいいのやらで頭がオーバーヒートしかけていた。
「……肩、冷たい」
「そ、そのまま出てきちゃいましたから」
霊夢は少しだけむくれる。
実際はどうかは知らないが、見た目だけで言うなら早苗の方が年上に見える。だが、その行動は魔理沙とどっこいどっこいなくらい子供っぽい。夢中になれば自身を顧みず行動する早苗の姿は、霊夢には少し面白くなかった。恥ずかしくも照れ臭くも、早苗は霊夢のもので霊夢は早苗のものなのだ。自分の与り知らぬところで傷つかれるのは嫌だ。
口には決して出さないが、霊夢は霊夢で早苗のことが心配で、心配するくらい好きなのだ。
「あんた、もっと考えて行動しなさいよ」
「善処します」
「あほ」
回す腕に力を込める。顔には冷たい肌が、身体には温かな柔らかさが伝わってきた。
するり、と腕を解き、霊夢は炬燵に突っ伏した。恥ずかしさと照れ臭さと幸福感で顔が大変なことになっているのが分かる。こんな恥ずかしい顔をあげることは到底無理だ。
「霊夢さーん」
同じく幸福感で頬が緩まった早苗が霊夢を呼ぶ。返事が返ってこないことは分かっているのだが、何だか名前を呼びたくて堪らないのだ。
「霊夢さん」
「……腕、寒いし、疲れたから」
霊夢は炬燵に手を入れたまま、早苗のスカートの端を少し握る。早苗がこちらを向いたのが分かり、霊夢は顔を反対側へと向けた。
「みかん、皮剥いて」
「なんなら食べさせてあげましょうか?」
「あほ」
霊夢はぺし、と早苗の膝を軽く叩く。早速早苗はカゴからみかんを取り出し、鼻歌を歌いながら皮を剥きはじめた。

外では雪、内ではみかんの皮がゆっくりと積もっていった。

畳む

#さなれいむ #百合

東方project

辿る水【ゆかれいむ】

辿る水【ゆかれいむ】
top_SS05.png
ほも書いたら反動で百合書きたくなったのでゆかれいむ。毎度の如く30m。

ゆかれいむへのお題は『君の涙の味』です。http://shindanmaker.com/392860

 くぁ、と大きく口を開けると間の抜けた声と大きく息が吐き出される。口を閉じる頃には目の端にはじわりと涙がにじんだ。
「あくびばっかりねぇ」
 隣に座る紫が呆れたように言った。自身の前に置かれた湯呑には手を付ける様子はなく、ただ机に両肘をつき指を組み、そこに顎を乗せてこちらを見ていた。うるさいな、という目で彼女を見る。
「仕方ないじゃない、眠いのよ」
「あら、冬眠でもする?」
「しないわよ。あんたじゃないんだから」
 くすくすと笑う紫が気に入らなくて、目を眇め睨む。膨大な時間を過ごしてきた彼女には小娘のそんな視線は痛くもかゆくもないようだ。それがまた気に入らない。
 す、と紫の指がこちらに伸ばされた。なんだ、と身を固くする。白く細い指は自身の目元をなぞり、目の端ですくいあげるかのように指を曲げた。す、と離れた彼女の指先は仄かに濡れていた。わざわざ涙を拭ってくれたらしい。
「なによ」
「何でもないわ。ただ、気になっただけ」
 ふふ、と彼女は微笑み、その指を――すくいあげた霊夢の涙をぺろりと舐めた。訳の分からない行動にぞくりと肌が泡立つ。
「うん、しょっぱいわね」
「な、に……やってんのよ! 馬鹿!」
 ありったけの札を懐から取り出し力いっぱい投げつける。幾多の札が彼女の肌に張り付くが、特に効果はないらしい。妖怪退治用の札でも大妖には効かないようだ。それが悔しくて、先ほどの行為がいまさらになって恥ずかしくなって、わなわなと震える。そんな霊夢に構うことなく紫は再度指を舐める。まるで指についた涙を全て舐めとるように。
「なによ、なんなのよ、訳分かんないわよ」
「貴女の涙ってどんな味かと思って」
 最近お茶ばかりでちゃんとご飯を食べてないでしょう、と紫は言う。確かに最近は眠さに負けてろくに食事を取っていなかった。おにぎりなどで必要最低限は食べているはずだが、三食一汁一菜しっかり食べない姿が気に入らなかったようだ。紫は微笑んだ。その眼はどこか怖い。
 彼女の腕がこちらに伸びる。細い指が頬を撫で、その手のひらで顔を上に向かせる。決して強い力ではないのに、それに抗うことはできなかった。それは妖怪故か、それとも紫だからなのか、彼女に意識を支配されたこの状況では分からない。
 彼女の顔が近づく。普段ならば『そういうこと』をする時はしっかりと目を閉じるのだが、今は瞼すら動かせないように錯覚する。人外めいた美しさを持つ彼女の顔を間近で見るのは久しぶりで、柄にもなく心臓がどきりと大きく音を立てた。
 紫は大きく口を開いた。食われる、と錯覚したのは相手が妖怪だからだろう。動けなかった身体がようやく言うことを聞くようになったのか、反射的にぎゅっと目を閉じた。
 べろり、と赤い舌が霊夢の肌を――目元を這う。初めて味わうその感覚に体が大きく跳ねた。
「ゆか、り」
 名前を呼ぶが普段ならばすぐに返事をする彼女は黙ったままだ。口を開け、霊夢の肌を舐めているのだから当たり前だ。
 涙の溜まった目元を、瞼を赤い舌が這う。終わると瞼に小さくキスを落として、もう片方へと向かう。全てを舐めつくすようなその動きは恐ろしかった。
 どれほど経っただろうか。紫の手が頬から離れる。ゆっくりと目を開くと、そこには微笑んだ紫がいた。距離が近く、また舐められる、食われるのではないかと身体が硬直した。
「やっぱりしょっぱいだけね。お茶の味がすると思ったのだけれど」
「……なんなのよ、ばか、へんたい」
 じわりと涙がにじむ。また舐められるのではないか、と抑えようとするがどうにもならない。久しぶりに味わった妖怪の恐怖と、目を舐められるという初めての感覚に脳がついていけなかった。
 ごめんなさいね、と紫はまた涙を拭った。その指はそのまま霊夢の口元に持っていかれる。舐めろ、ということなのだろうか。
 恐る恐る小さく口を開き、彼女の指を舐める。仄かな塩気が舌の上に広がった。
「……しょっぱい」
「でしょ?」
 紫はくすくす笑った。へんたい、と呟くが彼女は依然笑うだけだ。それが悔しかった。

畳む

#ゆかれいむ #百合

東方project

菓子と貴方【神十字】

菓子と貴方【神十字】
top_SS06.png
夜中にTL見てぶわっと熱がきたので、朝45mで書いた神十字。投稿ついでに少し修正。
見切り発車なんで設定とか色々ふわっとしてていつも以上にやまもおちもいみもない感じ。

 がさがさと草をかき分け道なき道を進む。草原をかき分けて進むのは最初は抵抗があったが、今では慣れてしまった。慣れてしまうほどここに通っているという事実は受け入れがたいが、諦めるしかない。
 ほどなくして一つの建物が目に入る。崩れかけといった言葉がとても似合うこの教会が目的の場所だ。こんな古びて朽ち果て機能を果たさなくなった教会がまだ壊されずに残っているのだと常々疑問に思うが答えは見えない。おそらく、彼がなにかをしているのだろう。それくらいのことなど造作なくできる男なのだ。
 壊れて役目を放棄したドアが散らばる玄関を潜り抜ける。かつん、と固い音が壊れた長椅子ばかりが並ぶ広い空間に響く。最前列、まだ椅子と判断がつくそこから起き上がる影があった。赤い髪がふわりと舞い、真紅の瞳がこちらを捉え弧を描いた。
「おかえり」
「……また寝ていたのですか」
「だってやることねーし」
 けだるげにに答え、ぐっと背伸びする男を見つめる。
 『神』と名乗ったこの男と出会ったのはどれほど昔だろうか。最初はそんな馬鹿げた言葉は信じられなかったのだが、時折見せる『力』とやらは彼が人ならぬ高位の存在であることを如実に示していた。疑わしいが、信じざるを得ないのだ。
「んで、今日は何持ってきてくれた?」
「クッキーですよ。子供達に配る為に焼いたものです」
「ふぅん」
 長椅子の背もたれから身を乗り出した彼はつまらなそうに目を細めた。どうも自身をついで扱いされたのが気に食わないらしい。見慣れたその姿に呆れながらも言葉を続ける。
「貴方の分は別に焼きましたよ。子供達と同じような動物型のものでは嫌でしょう?」
「別に? お前のなら何でも美味しいし、見た目とかどうでもいい」
 ストレートなその言葉に思わず息が詰まる。彼に褒められるのは嬉しいのだけれど、どうもこそばゆい。焦る気持ちを抑えようと鞄からクッキーが詰められた袋を取り出し、彼に手渡した。しかし、いつもならばすぐに食べ始める彼が動く様子がない。どうしたのだろうか、と顔を覗き込むと、にぃといたずらめいた笑みが返ってきた。
「食べさせて」
「は?」
 なんでそんなことを、と問うとなんとなく、とやる気のない声が返ってきた。しかしいつもならば明るく透き通った赤い瞳はどこか暗い血のような色に移り変わっており、彼の機嫌の悪さを明確に表している。やはり、先ほどの言葉が気に入らなかったらしい。このまま放置して妙なことをされては自分が困る。はぁ、とわざとらしくため息をつき、彼の手にある袋を開ける。丸いクッキーを一つ取り出し、彼の口元に運んだ。茶色のそれが赤い口内へと消えていく。嬉しそうに咀嚼しごくりと飲み込むと、彼はまた口を開いた。一枚だけでは済まさないつもりらしい。気が済むまで付き合うしかないようだ。
 彼の手から袋を取り、クッキーを次々と食べさせていく。まるで親鳥が雛に餌をやっているようだ、と考えて小さく笑みが漏れた。閉じられていた瞳がふわりと開き、一対の赤が不思議そうな色でこちらを見つめた。
「どした?」
「なんでもありませんよ」
 はい、と誤魔化すようにまた一枚。促されるまま彼はクッキーを頬張る。子供のようだ、といつも思う。こうやって美味そうに食べてもらえるのだから、作り甲斐があるというものだ。そんな彼だからこそ、長年ここに通い『神への供え物』と称した食べ物を持ってくるようになってしまったのかもしれない。一人で作ってただ食べるよりは、他者のために作って喜んでもらいたい。彼のために見えるこの行為だが、自身のためであるのも事実だ。
 そんなことを考えていると、指先に違和感を感じる。驚いて彼の方を見ると、自身の白い指に彼の赤い舌が這わされていた。赤くぬめったそれが自身の白い指を這う。その生暖かい感触と味わったことのない感覚にぞくりと背が震えた。
「な、に、してるんですか!」
 急いで手を引く。反応の意味がよく分からないのか、彼はこちらを見て不思議そうに首を傾げた。
「なにって、手に粉いっぱいついててもったいないなーって」
 だから舐めた、と言う彼の表情は普段と変わらないものだ。本当にそれだけらしい。付き合いは長い部類に入るが、未だに彼の行動はよく分からない。
「……みっともないからやめてください。ほら、まだありますから」
 先ほどの失態を誤魔化すように溜め息をついて、そのまま彼に袋を手渡す。渡されたそれをガサガサと音を立てて開け、食事を続ける。いくらか頬張ったところでこちらを見上げ、嬉しそうに笑った。その顔は子供のそれと一緒だ。
「ん、やっぱ美味い」
「そうですか」
 その屈託のない表情にこちらも笑みが零れる。彼が食事をしているときの顔はとても幸せそうで、それを見るのが好きだった。相手がどうであれ――人であれ、神であれ、喜んでもらえるのはやはり嬉しい。
「食べるか?」
 ほら、と彼は一枚差し出した。少し悩んだ末、彼と同じく口で受け取る。ふわりと砂糖の甘さが口の中に広がった。
「美味しい?」
「貴方が美味しいというなら、美味しいのでしょう?」
 そうだな、と彼は笑う。
 壊れた屋根や窓の隙間から差し込む光は柔らかく、二人だけの広い教会を照らしていた。

畳む

#ライレフ #腐向け

SDVX

例えばのお話【ライレフ】

例えばのお話【ライレフ】
top_SS02.png
そろそろなんか書かないとなーということで診断メーカーからお題拝借。140字SSのだけど気にしない。
30mで終わらせるつもりが足りず。追加10mで合計40mSS。

貴方はライレフで『たとえばの話』をお題にして140文字SSを書いてください。 http://shindanmaker.com/375517



「例えば、さ」
 背もたれによしかかり、椅子の足を浮かせギコギコと揺らしていた雷刀が口を開く。烈風刀は作業する手を止める様子はない。どうせろくでもない話だ、真面目に聞いても仕方がない。
「オレが頭良かったらどうする?」
「どうもしないでしょう」
 ありもしないことを、と烈風刀は続ける。冷たい言葉に雷刀はやる気なく声を上げた。酷くつまらなそうだ。
「例えばだって」
「ありえないことを例えてどうするのです」
「あり得ないことだから例えるんだよ。夢がないなー」
 笑う雷刀を不機嫌そうに見る烈風刀。雷刀は気にする様子なく、そのまま天井を指すように指を立てた。
「例えば、冷音がずっと雨降った時の性格だったら」
「……赤志君が苦労しそうですね」
「灯色がキレそうだな。『眠れない』って」
「彼ならどれだけうるさくても眠れるでしょう」
 授業中はもちろん、野外でもどこでも眠っている灯色だ。確かに睡眠の邪魔をされた時の彼は酷く不機嫌だが、その程度で起きるほど彼の眠りは浅くない。
「例えば」
「例えば?」
「レイシスが妹だったら」
 雷刀の言葉に烈風刀の手がぴたりと止まる。どうしたのだろうと顔を窺うと真剣な表情で自身の指先を見つめていた。声をかけるのもはばかられ、彼が口を開くまで待つことになる。
「…………今も、妹みたいなものでしょう。変わりませんよ」
 ようやく答えた声は妙に平坦だ。先ほどの表情と相まって本気で考え導き出した答え――いや、その上でぼかしたような答えにしか聞こえない。それがなんだか面白くなくて、雷刀はからかうように問うた。
「そんなに真剣に考える事か?」
「真剣になんて考えていませんよ。ただ想像してみただけです」
「やらしー」
「何がですか」
 烈風刀の声に怒りの色が混じる。少し潔癖症の気がある彼をからかうにはどうも悪かったようだ。ごめんごめん、と謝って雷刀は言葉を続ける。
「例えば」
「……例えば」
「オレたちが双子じゃなかったら」
 再び烈風刀の手が止まった。どういう意味だ、と訝しげに雷刀を見るが、彼は普段通りの表情でこちらを見ていた。しばらく彼を見つめた後、烈風刀は机の上の書類に目を戻り言葉を紡ぐ。
「きっと、関わることはなかったでしょうね」
「そうか?」
「貴方と私は成績も性格も真逆でしょう。話す機会はあまりないと思いますし、進路も違っていたでしょう」
 雷刀の学力と烈風刀の学力には随分と差がある。この学園は雷刀の学力では難しい部類だったが、兄弟である烈風刀と同じ進学先にしたいと努力した結果入学することができた。もし烈風刀がいなければ、雷刀が自身の学力に見合わないこの学園を選ぶことはなかっただろう。
 烈風刀の答えに雷刀は首を傾げ、彼の顔を見る。
「そうか? なんかかんか出会ってそうだけど」
「出会っても、こうやってずっと一緒にいるなんてことはありませんよ」
 ただのクラスメイトで終わりです、と烈風刀は言う。雷刀は相変わらず不思議そうな表情でいたが、すぐにいつもの明るい表情に切り替わった。
「双子じゃなけりゃこんなことなってなかったと」
「……こんなことって」
 どんなことですか、と問おうとして烈風刀は口を閉ざした。きっと茶化すような答えしか返ってこないだろう――もし行動で示されれば、困るのは自分だ。幸い、雷刀は楽しげに笑うばかりで追及する様子はない。
「やっぱ双子でよかったな」
「そうですね」
 補色のように正反対の二人。それを繋ぐのは血縁という名の硬い糸。
 その他に彼らを繋げるものはあったのだろうかなんて考えても仕方ないのだ。そう結論付けて雷刀は天井を仰いだ。
 ふと、ペンを動かす烈風刀の手が止まった。教室に響いていた音がぱたりと止まり、どうしたのだろうとそちらに目をやると積み重ねられた書類を揃える烈風刀姿があった。
「終わりました。早く提出して帰りましょう」
「おう」
 雷刀は反動をつけて椅子から立ち上がる。危ないですよ、と諌める烈風刀の声は聞こえていないようだ。
 教室を出ようとする烈風刀の手を雷刀が握る。びくりと烈風刀の体が小さく震えた。
「いこうぜ」
 雷刀は楽しげに笑って、握った手を引き廊下を駆けだす。突然のことに烈風刀は声を上げる暇もない。ただただ、彼の速度に合わせて足を動かすばかりだ。
 こんなことも、双子でなければやることはなかったのだろうな。そもそも、手を握るなんてこともなかったのだろう。
 双子だから。兄弟だから。こうやって繋がっているのだ。
 そんなことを考えて烈風刀は小さく笑った。
 夕暮れ茜色に染まる廊下に繋がった影が走っていく。

畳む

#嬬武器雷刀 #嬬武器烈風刀

SDVX

感情論【ライ→レフ→レイ】

感情論【ライ→レフ→レイ】
top_SS05.png
ぐわっとライ→レフ書きたいのとレフレイ熱が来たのとが合わさった結果。
オニイチャンしか出てこない。



 烈風刀がレイシスを好いていること――恋していることを、雷刀は知っている。
 彼女に対する弟の態度は明らかに恋をしているそれで、言葉の端々にもよく表れている。何時でも冷静で顔色一つ変えない彼故に他者は気付かないかもしれないが、兄である雷刀にはすぐに分かった。そんな弟の姿を、幼い頃から何度も何度も見ていたのだから嫌でも気付く。
 そんな彼が彼女に想いを伝えることはないだろう、と雷刀は確信している。
 彼はああ見えて臆病で、きっと関係を壊すのを恐れている。堅実な彼が大きな賭けに出ることはまず無い。だから、ずっとこのままだ。
 諦めればいいのに、と雷刀は常々考えている。
 恋い焦がれながらも現状維持を望む弟のいじらしい姿は見ていられない、というのもある。けれども、そんなものはただの建前だ。本音は『烈風刀とレイシスが恋仲になること』を恐れているのだ。三人の関係が変わると言うこともあるが、何より烈風刀が好きなのだ。烈風刀がレイシスを好いているように、雷刀も烈風刀を好いていた――もちろん、恋愛感情として、だ。
 彼と同じように、自分がこの想いを伝えることはない。血の繋がった弟にそんな感情を抱く兄なんて、気持ち悪くて堪らないだろう。現在の関係も壊れ、彼との繋がりもなくなってしまう。そんなことになるぐらいなら、この想いなど殺してしまえばいい。なのに、殺しきれない。一度芽生えた感情は、そう簡単に消すことなど出来なかった。
 自分も大概臆病だ、と雷刀は自嘲した。何て女々しいのだろう。自分らしくもない。
 彼が自分とそういう仲になることは絶対にない。けれども、他者に彼を奪われるのは嫌だ。弟が叶える気のない恋をすることすら嫌だった。なんて我が儘なんだろう。
 けれども、この醜い考えが消えることはないのだろう。きっと彼が恋をする度こいつは顔を覗かせる。愛する人の不幸を願う、醜く汚ならしい感情が。
 『恋』なんてものがなければ。そう考えても仕方がないのに、頭にはそんなことばかり浮かぶ。彼が恋をしなければ。自分が恋をしなければ。
 はぁ、と誰にも気づかれぬよう雷刀は嘆息する。
 実らない想いは募るばかりで、胸を苛む。
 彼がいる限り、この痛みが消えることなどない。

畳む

#ライレフ #腐向け

SDVX

色づく春【SDVX】

色づく春【SDVX】
top_SS04.png
新年早々エンドシーンに滾ったので。プロ+氷+桜。



 はぁ、とゆっくり吐いた息は白に染まってすぐに消えた。寒さの度合は違えど故郷と同じだ、と氷雪は薄く笑う。
 彼女は同じ学園に通う桜子と初詣に来ていた。これだけ人がいればあの方にお会いできるかもしれませんの、と言う桜子に誘われたのだ。
 がやがやとうるさいくらい賑やかな人混みの中を歩くのは少し怖い。隣を行く桜子はそんなことは気にしていないようだ。自分より小柄ながらも元気に歩みを進める彼女に続いて人混みを掻き分けていく。
「あ。桜子ちゃん、氷雪ちゃん」
 喧噪の中に響いた聞き覚えのある声に二人は振り返る。見上げた先にはひらひらと手を振る識苑がいた。身長の高い彼は人混みの中でも見つけやすい。むしろ、何故小柄な自分達を見つけられたのか不思議だ。
「識苑先生、明けましておめでとうございますですの」
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
 ぺこりと頭を下げ挨拶をする彼女らに識苑は笑みを返し、真似するように頭を下げて挨拶する。そのまま彼女らと視線を合わすように彼は身を屈めた。普段は白衣姿の識苑だが、流石に寒いからかコートを着ていた。学内での彼しか見たことのない二人にその姿は新鮮に映った。
「二人とも初詣?」
「そうですの。新しいお着物で来たのですの」
「先生も初詣ですか?」
「そうだよ。暇だから行こうと思って」
 作業中なんだけどねー、と識苑は笑った。よく見ればコートの裾から白いものが覗いている。何故白衣を脱いでこないのだろうと二人は不思議に思うが、触れないでおこう。
「氷雪さんも新しいお着物なんですの!」
「とっておきの晴れ着を出してもらいました……。ど、どうでしょうか……?」
 桜子の紅や山吹の鮮やかな色合いとは反対に、氷雪のものは白を基調とした涼やかなものだった。桜子はすぐさま見抜いたが、普段と同じ物に見られるのではないか、と氷雪は不安に思っていた。
「う~ん、いいねぇ! とってもいいと思うよ!」
 そんな氷雪の不安を吹き飛ばすように識苑は嬉しそうに笑った。事実、晴れ着姿の彼女らは非常に可愛らしかった。それこそ、人混みの中でも分かるくらいに鮮やかだ。
「ありがとうございますの!」
「あ、ありがとうございます」
 満足げに笑い礼を言う桜子に続き、氷雪も一礼する。微笑ましい姿をにこにこと眺めた識苑だが、少し悩むように顎に手を当てた。
「でも先生はピンクがいいなー。氷雪ちゃんはピンクも似合うと思うよ」
「ピンク、ですか……」
 氷雪はちらりと隣の桜子を見やる。元気で温かで可愛らしい彼女を体現するようなその色は、冷淡と言われることもある自分にも似合うのだろうか。
 氷雪は何においても白を選ぶことが多い。故郷の雪の色が好きだからというのもあるが、それよりも『雪女』という自分の体質に縛られているようにも思えた。『雪女』だから白。それが自分の意識に根付いてしまっているのだ、と氷雪は度々考えていた。
「白とか青みたいな涼しくて綺麗な色もいいけど、ピンクみたいな暖かい色も似合うと思うよー」
 識苑の言葉に氷雪は顔を伏せた。そうしなければ、紅潮した顔を彼に見られてしまうからだ。
 『暖かい色が似合う』。そう言われたのは初めてだった。寒く冷たい『雪女』というコンプレックスに縛られた彼女に、その言葉は嬉しくてたまらなかった。
「ワタシはどうですの?」
「桜子ちゃんは黄色みたいな淡い色も似合そうだね。あとあれ、ピンクに紺色の袴とか可愛いよね。尻尾の色が映えそうだな」
「本当ですの?」
「本当だよ」
 キラキラと目を輝かす桜子に識苑は優しく返す。その姿はまるで歳の離れた兄妹のようだ。
「そうだ、先生も一緒についていっていいかな? 男一人じゃちょっと寂しいや」
「は、はい!」
「もちろんですの!」
 識苑の言葉に氷雪も桜子も喜んで返事する。ありがとう、と礼を言う識苑に、それくらいなんてことありませんの、と桜子はニコニコ笑った。
「じゃあ、早くいきますの!」
 そう言って桜子は氷雪の手を握った。冷たくないのだろうか、と氷雪は不安げな表情をするが、桜子は何も気にしていないように彼女の手を引き人混みを掻き分けていく。
 先生は、と振り返る氷雪の手を誰かが握る。彼女の小さな手を包むのは識苑の大きな手だ。先生も混ぜて、と彼は笑った。はい、と氷雪も笑う。ふわりと空から舞う雪のように柔らかな笑みだ。
 賑やかな人混みの中、ピンクと白が駆けていく。冬の空は冷たくも綺麗に晴れ渡っていた。

畳む

#プロフェッサー識苑 #氷雪ちゃん #傍丹桜子

SDVX

消夜【ゆかれいむ】

消夜【ゆかれいむ】
top_SS03.png
即興二次小説で気になるお題があったので第二弾。今回は時間制限なし。
ジャンル:東方Project お題:1000の交わり 文字数:952字



 眠りの底から意識が現実へと浮上する。長い睫毛で縁取られた目がふわりとゆっくり開く、まだ頭が働かない。眠気を消すようにごしごしと目をこすり、幾度か瞬きをしてやっと焦点が合い周りを見回すことができた。
 寝転んだ隣を見る。昨晩共に過ごした彼女の姿も、その見た目よりも高い体温も残っておらず、ただ綺麗に整えられた白いシーツがあるばかりだ。いつもと変わらぬその風景を霊夢は冷めた目で見つめた。
 夜を共にした日、紫は自分が眠っている間に必ず消える。何の跡も残さず、夢だったのではないかと錯覚しそうなほど綺麗に姿を消す。いっそ怒りが湧いてくるほどだ。
 紫にとって、自身はただの代替品であることを霊夢は知っている。どんなに優しくされても、どんなに甘い言葉を与えられても、幾度も肌を重ねても、彼女の瞳には霊夢ではない別の誰かが映っている。それが書き換えられることなどないのだろう。それほど瞳の奥の『誰か』の存在は強く見えた。
 きっと彼女はこうやって数々の代替品と夜を過ごしたのだろう。妖怪の生は人のそれとは比較できないほど長い。『誰か』がどれほど前に出会ったものかは知らない。自身と同じ『代替品』が何人いたのかなど想像できない。けれど、自身に与えられてきたそれを他者に与えていないはずがないことぐらいは分かる。同列の存在なのだから当たり前だ。
 知らない『誰か』や『代替品』に嫉妬しているわけではない。紫の瞳に自身ではない『誰か』しか映っていなくとも、八雲紫が博麗霊夢を愛しているという形に変わりはない。形だけのそれでも、霊夢にとっては確かな事実だった。
 ほっそりとした白い指が赤々と下唇をなぞる。そこに彼女の温度はない。けれども、忘れることなどできない数えきれないほど与えられた感覚が霊夢の中にはしっかりと残っている。
「……さむ」
 ふるり、と小さな身体が震える。温かな布団の中にいるのに、どこか寒い。風邪でも引いたのだろうか。あいつ心配するだろうなぁ、と考えて目を伏せる。優しくされるのは嬉しいが、心配されるのは少しうっとおしい。『代替品』なのに、本物の『誰か』のように接するのだから性質が悪い。
 足を折りたたみ、胎児のように身体を丸める。肌をなぞる彼女の感覚が揺らめく意識の中にしっかりと残っていた。

畳む

#ゆかれいむ #百合

東方project


expand_less