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No.170
切れる心、切られた縁【新3号+新司令】
切れる心、切られた縁【新3号+新司令】
サイド・オーダーやる前から考えてた話。サイド・オーダーのネタバレは無い。
この話
の続きのようなもの。
シオカラーズ履修しても履修しても分からないしうちの新司令はカスだし捏造しかない。
新3号と新司令が喋ってるだけ。
本文を読む
薄暗い世界を駆け抜ける。誘われるがままに目の前の光に飛び込むと、ようやく水分とぬるさを孕んだ空気から解放された。今しがた身を投じた白の世界、は冬とは思えないほど心地の良い温度をしている。一歩踏み出すと、足元の雪らしきものが不満の声をあげた。作られた晴天と快適な温度の中でも、白は溶けることなく世界を染め上げていた。
いつ来ても不思議な空間だ。リソースが増えた脳味噌で考えながら、三号と呼ばれるインクリングは歩みを進める。クレーターの下に広がるこの場所は、調査に調査を重ねても謎に満ち溢れていた。抜けるような青空も、天におわす太陽も、足元を彩る雪も、全て人工である。だが、それがどう作られたのか、何を目的で作られたのか、誰が作ったかは見えてこない。調査の中でここに関わると思わしき電子データをいくらか見つけたものの、どれも断片的で全容は見えないままだ。まだまだ調べ足りないという事実に、少女は小さく息を吐く。これだけ時間をかけても未だ理解が進まないなどさすがに嫌気が差してくる。地上で売って金になるものが見つかるから何とか進めているものの、普段ならばとっくに投げ出しているような時間が過ぎていた。
「――らまた連絡してよ」
踏みしめる雪が鳴く世界の中、声が聞こえた。突然飛び込んできた声に――ヒトが発する音に、少女は身を固くした。
オルタナと呼ばれるこの地には、現在自分を含む四名しかいない。正確には探せと言われている『じーちゃん』やら連合だかと名乗った三人組やらもいるはずだが、今耳に飛び込んできたそれはどれにも該当しない。聞いたことがないものだった。
タコゾネスだろうか。いや、これはあの妨害者どもが使うタコの言語ではない。じゃあ、誰が。高まる警戒心につられ、歩みも動きも小さくなっていく。音をたてぬよう注意を払いながら、担いだリュックからヒーローシューターを取り出した。
見つからないよう、遮蔽物がろくに無い空間を背を低くして進んでいく。先ほどの声は基地の方から聞こえてきた。では、近くにあるコンテナの影に隠れるのが最適だ。常の半分ほどの歩幅で、常の倍近くかけて活動拠点へと向かう。海色の瞳は音の方へとずっと睨みをきかせていた。
コンテナまであと少しというところで歩みが止まる――否、止まってしまった。険しく引き結ばれていた口がぽかりと開く。え、と魂が抜けたような声が雪の上に落ちた。
視界の真ん中には、鮮やかなイエローがあった。深いマリンブルーの軍帽とつぎはぎのマントで身を飾るそれは――『司令』と呼ばれるインクリングは、薄型の携帯端末を握っていた。種族特有の尖った大きな耳にそれを当てる姿は、電話を掛けるそれと同じものだ。黄色いカバーで覆われた端末の奥に見える表情は、解れた穏やかなものだった。『笑み』と表現するのが相応しい形をしていた。
「じゃ、元気でね」
また声が聞こえる。同時に、端末の陰から覗く大きな口が動くのが見えた。音と連動した動きから、発声しているのだと分かる――常に隊員を通して言葉を伝えてくる、一切表情を変えない、口すら開かない、あいつが。
誰だ。姿や形は司令と呼ばれるあれと同じだ。でも、こんな表情も、こんな声も、こんな姿も知らない。見たことも聞いたこともない。脳味噌が思考という役割を放棄する。停止し、視覚神経が伝達する情報をシャットアウトする。朗らかに話すインクリングを見つめる藍の瞳は、霧が立ちこめたように不確かでぼやけていた。
話せたのか、こいつ。
ようやく役割を取り戻した脳味噌が情報をまとめ、アウトプットする。間抜けなそれは、三号の頭を殴りつけるには十分な重さをしていた。
それはそうだ、あの司令とやらはいつも二号と呼ばれる隊員を通して言葉を伝えてくるのだ。話すことができなければ、二号に伝達を頼むことができない。いつだって俯き帽子で顔を陰らせ二号の耳に寄せる口元は、きっとしっかり動いていたのだろう――喋っていたのだろう。今、目の前の、見たこともない光景のように。
「やっぱ八号は心配性だねぇ」
きゃらきゃらとした音が鼓膜を震わせる。視界の中、晴れ空色の目が細められ、大きな口が緩い孤を描く。初めて聞く響きだった。初めて見る表情だった。けれど、知っている。これは『笑顔』というのだ。『笑っている』と表す様子だ。どれも初めて見た。どれも知らないものだった。少なくとも、目の前の存在に対しては。
「またねー」
電話の主は誰もいない空間に向かって大きな手をひらひらと振る。三角耳から携帯端末が離れるのが見えた。インクリングの形によく似たそれがマントの下に消えていく。深海色の瞳はそれをただただ映し出す。情報を脳味噌に伝える。受け取った脳味噌は、再び機能を停止した。
数拍。青が、空を思わせる青が、意識を刺激した。
遠く、けれどもしかりとこちらを捉えたブルーが丸くなるのが見えた。皿のようにとはこのことか、と思うほど大きく見開かれたそれは、すぐに元の姿を取り戻した。愛らしさすら感じさせる目は、どこか薄くなる。上がっていた口角はすぐさま角度を無くし、真一文字に結ばれる。いつも見る顔――無愛想など通り越した、表情の無い、感情も思考も全く読み取れないものへと戻った。
ざ、と足元で何かが聞こえる。ざ、ざ、と音が続く。己の足音だと気付いた頃には、黄色い頭に手が届きそうなほど近くまで進んでいた。
「……あんた、喋れるじゃん」
開きっぱなしだった口から音が漏れる。発した瞬間、腹の奥が熱を持つ。頭の底がジンと痛みを覚える。だらりと垂れていた手が拳を作る。口は間抜けに開いたままだというのに、喉が詰まったかのような息苦しさを覚えた。
目の前、こちらを見据えていた青が動く。かち合っていた視線が途切れた。どうやら呟きと同義の声は相手に聞こえたらしい。でなければ、こんな逃げるような動きはしない。逃げるようなことをしている自覚があるのだ、こいつは。
ブーツに包まれた足が地を蹴る。握られた拳が開かれ、目の前のぼろきれもろとも胸倉を掴む。ぐっと持ち上げ、身を寄せる。無理矢理上げさせた目の前の顔は、露草色の瞳は、常は鋭さを感じさせる視線は、逸らして逃げたままだった。
「あんた、喋れるじゃない!」
人工の蒼天に怒号が響き渡る。服を掴む腕に力がこもる。いつだって無表情を貫く顔がわずかにしかめられるのが見えた。胸を引っ掴まれて息が苦しいのだろう。それでも、目の前のインクリングは一言も発さない。口はまっすぐな線を描いたままで、呻きすら漏らさない。その姿が爆発する感情を刺激する。燃えるような怒りに燃料を注ぎ入れる。
「いつも黙って……、あたしとは喋らないくせに! 何なの!? 馬鹿にしてんの!?」
ぐっと腕を引き寄せ、鼻が当たりそうなほど顔を引き寄せ、三号は叫ぶ。普段はけだるげな目元は吊り上がっていた。細い眉は鋭角を描き、眇められた深海の奥には燃え盛るような輝きを宿している。怒りだ。胸の奥に燻っていたものが弾け、怒りへと姿を変え、少女を支配していた。
目の前の存在は黙したままだ。胸倉を掴まれ身体を持ち上げられているというのに、抵抗の一つも無い。ただただされるがままでいた――唯一、視線だけはずっと逸らして。
往生際悪く逃げようとする姿に、こんな状況でも己と会話をしようとしない姿に、三号は更に顔を歪める。胸のあたりに熱が集まっていく。喉が締められるような感覚。心臓が締め付けられるような感覚。波音ぐらいしかない空間だというのに、全ての音が遠くに聞こえるような感覚。視覚は逃げゆく青だけを感知する。
「なんか言いなさいよ!」
掴んだ手を勢い良く引き寄せる。目の前の身体が電車に揺られたようにぐらついた。黄色い頭を飾る軍帽が滑り落ち、地面に当たって軽い音をたてる。それほどの勢いで揺さぶられているというのに、首元を締められているというのに、目の前のインクリングは一言も発さなかった。視線を合わせなかった。まるで、こちらの全てを拒否するように。否定するように。
話す価値がないとでもいうのか。己には言葉を交わす価値などないとでもいうのか。思考は現状を拡大解釈し、最悪の答えばかりを弾き出す。己で導き出したそれに、頭の底がまた痛みを覚えた。ガンガンと叩かれるような、ジンジンと痺れるような感覚。凄まじいものだというのに、思考は機能を止めなかった。むしろ、焚き火に薪をくべたように勢いを増していく。マイナスへと突き進んでいく。
ぐぅ、と喉が鳴る。数拍、硬く握っていた拳を解いた。己によって持ち上げられていた身体が落ち、椅子代わりのコンテナボックスに着地する。重い音が雪の世界に落ちた。突き飛ばされるのと同義の行為をされても、音が鳴るほどの衝撃を与えられても、目の前の存在は音を発しなかった。呻きも、不平も、憤怒も、悲哀も、動揺も、何もない。何とでもない、と主張するような姿だ。それがまた神経を逆撫でする。感情を逆撫でする。ふざけんじゃないわよ、と低い声が漏れた。
「死ね!」
刺し殺さんばかりに睨みつけ、少女は今日一番の大声を上げる。項垂れた頭に罵詈雑言を叩きつけ、踵を返して走り出した。
足跡の無い来た道を駆けてゆく。明るい世界から逃げるように足を動かし、生ぬるい空気と形容し難い臭いのする通路へと再び飛び込んだ。光が失せ、暗がりが身を包み込む。
足に力を入れる度、空間を構成する金属が怒声めいた声をあげる。普段は顔をしかめる騒音だというのに、三号は気にする様子すら見せず全力で走った。
もう二度と行くものか。『じーちゃん』とやらなど知らない。勝手に入れられた隊など知らない。あの三人の都合など知ったこっちゃない。もう二度と関わりたくない。一生会いたくない。記憶から存在を抹消したい。これだけのことをされて、もう顔を合わせようだなんて欠片も考えられるはずがない。
金属の地面が悲鳴を上げる中、少女は走りゆく。大きな手には、いつぞや渡された銃が握られたままだった。
蒼天色の目が白を見つめる。魂が無くなったようにぼやけたそれが、次第に元の色を取り戻していく。しばしして、はぁ、と酷く重い溜め息が吐き出された。身体が真っ二つに折れるように傾いていく。長いゲソが地面につかんばかりにだらりと垂れた。
「司令ー!」
元気な声が背を叩く。緩慢な動きで振り返ると、そこにはこちらに駆けてくる一号の姿があった。後ろにはマイペースに歩く二号の姿も見える。きっと仕事を終えて戻ってきたのだろう。こんな場所ぐらい己一人でも守ることなど容易いというのに、二人はいつも仕事の合間を縫って訪れ寄り添ってくれた。それほど『じーちゃん』――アタリメ司令が心配なのだろう。
わっ、と跳ねた声。目の前まで来た十字輝く金の目がまんまるになってこちらを見つめた。黒い手袋に包まれた手は膨らんだハリセンボンのように大きく広がっている。可憐な口はカラストンビが見えるほど丸く開いていた。
「服すごいことになってるよ?」
心配げな、それでいて好奇心が隠せない声と視線が向けられる。一号の細い指が指す場所へと視線を移す。胸元は――三号に掴まれ引き上げられていた胸元は、酷い皺になっていた。灰色のトップスは乱れ、黒いインナーが大きく覗いている。ぼろきれを繋ぎ合わせたかのようなマントの一部はほつれていた。あー、と思わず煮え切らない声を漏らした。
「何かあったん」
大きな唐傘を手に、二号は問う。問いの形をしていたが、こちらを見つめる月色の目は断定の光を宿していた。それはそうだろう、こんな姿で『何もありません』なんてことはあり得ない。あー、とまた意味の無い音を吐き出した。
「……バレちゃった」
発した途端、乾いた笑みが込み上げてきた。はは、と漏れた笑声は酷く暗い。落ち込んでいる時のそれとよく似た響きをしていた。落ち込むようなことだったのか、と頭が驚愕の声をあげる。あの子にバレて落ち込むのか、己は。
何が、と一号は可愛らしい目を丸くして問う。あぁ、と二号は小さく返す。垂れた眠たげな目が眇められる。呆れとも、怒りとも、どうにも表しがたい色をしていた。
「八号と電話してるの聞かれちゃってさー……」
説明のつもりで続けた言葉は、明らかに言い訳の響きをしていた。下がった調子の音は、拗ねていると言っても相違ない。はは、とまた笑いが漏れる。息を吐き出しただけだというのに、気道を塞がれたような苦しさを覚えた。
はぁ、とわざとらしい溜め息が聞こえた。蒲公英色が黒い瞼の奥に消え、帽子で飾った白い頭がふるふると横に振られる。隣の黄金色の瞳は、不思議そうにしろ時の間を往復していた。
「自業自得やね」
二号の短い言葉が胸を刺す。正論中の正論が心臓を刺し貫く。濁った音が喉からあがった。面白がってそういうことするのが悪いんよ、と重い追撃まで飛んでくる。真正面から顔面に岩を投げつけられたような感覚に、司令は強く眉を寄せ目を伏せた。
「何の話?」
「三号に話してるところ見られたって」
「えー!?」
疑問符にまみれた一号の声が驚愕へと変わる。くりくりとした目がこれでもかというほど見開かれた。大きく開いた口元に手を当てる姿は、信じられないと言わんばかりのものだった。
「あんなに隠してたのに!?」
一号の言葉は純粋なものだった。ただただ純粋に疑問に思い、純粋に驚き、純粋な言葉で己の思考を表しているのだ。そこに悪意など一欠片もない。分かってはいるが、全てが己を責め立てているように聞こえて仕方が無い。また喉がおかしな音をたてた。
「で、今後どうするん」
静かな声が混沌の場を切り裂く。向けた視線の先、二号は手遊びのように唐傘をくるりと回した。興味が無いとも見える仕草だ。実際は誰よりも未来を考えてくれているのだろうけど。
「……今後、あるのかなぁ」
死ねって言われちゃったし、と司令は細く言葉を紡ぐ。事実を音にした瞬間、再び息苦しさを覚えた。何度目かの笑いが漏れる。乾ききったそれは、己で聞いても惨め極まりないものだった。
一号は今一度目を丸くする。きらめく可愛らしい眼球がこぼれ落ちてしまいそうなほどだ。反面、二号は目を眇める。また溜め息を吐くのが聞こえた。
「でも、これは司令が悪いよ」
「やね。司令が全部悪い」
常通りの透き通った声で一号は断言する。呆れ返った声で二号も断じた。喉がおかしな音をたてる。反射的に否定しそうになるが、そんな余地は残されていない。自業自得であることなど、己が一番理解していた。
最初は威厳を示すためだった。己は声にも使う言葉にも緊張感なんてものは無い。自ら話してはただの陽気なインクリング、ただの子ども――という年齢はとうに過ぎ去っているが、客観的に見ても子どもと表現するのが正しい――と変わりない。『New!カラストンビ部隊の司令』という肩書には似つかわしくないものである。
威厳のある声は無理でも、厳格な言葉は無理でも、それらしい表情なら何とか作り出すことができる。ならば、喋りは二号に任せて己はそれらしい顔をしていよう。そう決めたのは、ここに来てすぐのことだった。
そのまま時は流れゆく。季節が移った頃、そろそろ話してもいいのではないか、普段通りに振る舞ってもいいのではないか、と二号が提案してきた。たしかに、季節が変わるほど共に過ごしたのだから、そろそろ彼女も己たちへの警戒心を緩めているだろう。毎回二号を通して言葉を伝えるのも手間だ。人となりを見せれば、彼女は更にこちらに歩み寄ってくれるかもしれない。的確な提案だった。うんうん、と頷いたことははっきりと覚えている。
それを蹴ったのは、間違いなく己だ。
だって、面白いじゃないか。『自ら喋らない謎の存在』を演じるのは骨が折れるが、面白いじゃないか。物言わねど存在感を放つミステリアスな存在なんて、面白いじゃないか。
ただの好奇心だ。ただのいたずら心だ。このまま突き通したらどういうことになるのだろう、というただの興味だ。
そうして変わらず口を閉じ、表情を殺して過ごし、二号の手を煩わせてきた。こんな粗末ないたずらと同義のことに付き合わされるなど、二号としてはたまったものじゃないだろう。本当にいいんやね、とあの日問うてきた声は冷え切っていたことを覚えている。それでも律儀に役割を果たしてくれたのだから、彼女は優しい。共犯じゃん、と醜い屁理屈をこねられないぐらい。
それがこの有様である。さすがに永遠に隠し通せるとは思っていなかった。けれども、心のどこかでは何とかなるだろうと楽観的に考えていた。何とかなることなどなかったし、最悪の事態に陥っているのだけれど。
「どうしようかなぁ……」
呟き、司令は落ちつつあった視線を空へと移す。ガラスか何かが張り巡らされた天井は、変わらず青空を映し出していた。晴れたる空は青い。こちらを殺さんばかりに見つめてきたあの目のように青い。あの海色には、もっと苛烈で激烈で燃え盛る何かが宿っていたのだけれど。
死ね。
刃物で刺し貫かんばかりの勢いと鈍器で殴りつけるような重さをしていたあの言葉を思い出す。腹の底からめいっぱい出したようなあの怒号を思い出す。感情を剥き出しにしてこちらを睨めつけたあの瞳を思い出す。ほんの数秒の光景だというのに、全て耳にこびりつき目に焼き付いていた。当分は剥がれずにいるだろう。
どうしよ、と吐息めいた声が地に落ちた軍帽を撫ぜた。
畳む
#新3号
#新司令
#新3号
#新司令
favorite
THANKS!!
スプラトゥーン
2024/3/9(Sat) 00:40
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切れる心、切られた縁【新3号+新司令】サイド・オーダーやる前から考えてた話。サイド・オーダーのネタバレは無い。この話の続きのようなもの。
シオカラーズ履修しても履修しても分からないしうちの新司令はカスだし捏造しかない。
新3号と新司令が喋ってるだけ。
薄暗い世界を駆け抜ける。誘われるがままに目の前の光に飛び込むと、ようやく水分とぬるさを孕んだ空気から解放された。今しがた身を投じた白の世界、は冬とは思えないほど心地の良い温度をしている。一歩踏み出すと、足元の雪らしきものが不満の声をあげた。作られた晴天と快適な温度の中でも、白は溶けることなく世界を染め上げていた。
いつ来ても不思議な空間だ。リソースが増えた脳味噌で考えながら、三号と呼ばれるインクリングは歩みを進める。クレーターの下に広がるこの場所は、調査に調査を重ねても謎に満ち溢れていた。抜けるような青空も、天におわす太陽も、足元を彩る雪も、全て人工である。だが、それがどう作られたのか、何を目的で作られたのか、誰が作ったかは見えてこない。調査の中でここに関わると思わしき電子データをいくらか見つけたものの、どれも断片的で全容は見えないままだ。まだまだ調べ足りないという事実に、少女は小さく息を吐く。これだけ時間をかけても未だ理解が進まないなどさすがに嫌気が差してくる。地上で売って金になるものが見つかるから何とか進めているものの、普段ならばとっくに投げ出しているような時間が過ぎていた。
「――らまた連絡してよ」
踏みしめる雪が鳴く世界の中、声が聞こえた。突然飛び込んできた声に――ヒトが発する音に、少女は身を固くした。
オルタナと呼ばれるこの地には、現在自分を含む四名しかいない。正確には探せと言われている『じーちゃん』やら連合だかと名乗った三人組やらもいるはずだが、今耳に飛び込んできたそれはどれにも該当しない。聞いたことがないものだった。
タコゾネスだろうか。いや、これはあの妨害者どもが使うタコの言語ではない。じゃあ、誰が。高まる警戒心につられ、歩みも動きも小さくなっていく。音をたてぬよう注意を払いながら、担いだリュックからヒーローシューターを取り出した。
見つからないよう、遮蔽物がろくに無い空間を背を低くして進んでいく。先ほどの声は基地の方から聞こえてきた。では、近くにあるコンテナの影に隠れるのが最適だ。常の半分ほどの歩幅で、常の倍近くかけて活動拠点へと向かう。海色の瞳は音の方へとずっと睨みをきかせていた。
コンテナまであと少しというところで歩みが止まる――否、止まってしまった。険しく引き結ばれていた口がぽかりと開く。え、と魂が抜けたような声が雪の上に落ちた。
視界の真ん中には、鮮やかなイエローがあった。深いマリンブルーの軍帽とつぎはぎのマントで身を飾るそれは――『司令』と呼ばれるインクリングは、薄型の携帯端末を握っていた。種族特有の尖った大きな耳にそれを当てる姿は、電話を掛けるそれと同じものだ。黄色いカバーで覆われた端末の奥に見える表情は、解れた穏やかなものだった。『笑み』と表現するのが相応しい形をしていた。
「じゃ、元気でね」
また声が聞こえる。同時に、端末の陰から覗く大きな口が動くのが見えた。音と連動した動きから、発声しているのだと分かる――常に隊員を通して言葉を伝えてくる、一切表情を変えない、口すら開かない、あいつが。
誰だ。姿や形は司令と呼ばれるあれと同じだ。でも、こんな表情も、こんな声も、こんな姿も知らない。見たことも聞いたこともない。脳味噌が思考という役割を放棄する。停止し、視覚神経が伝達する情報をシャットアウトする。朗らかに話すインクリングを見つめる藍の瞳は、霧が立ちこめたように不確かでぼやけていた。
話せたのか、こいつ。
ようやく役割を取り戻した脳味噌が情報をまとめ、アウトプットする。間抜けなそれは、三号の頭を殴りつけるには十分な重さをしていた。
それはそうだ、あの司令とやらはいつも二号と呼ばれる隊員を通して言葉を伝えてくるのだ。話すことができなければ、二号に伝達を頼むことができない。いつだって俯き帽子で顔を陰らせ二号の耳に寄せる口元は、きっとしっかり動いていたのだろう――喋っていたのだろう。今、目の前の、見たこともない光景のように。
「やっぱ八号は心配性だねぇ」
きゃらきゃらとした音が鼓膜を震わせる。視界の中、晴れ空色の目が細められ、大きな口が緩い孤を描く。初めて聞く響きだった。初めて見る表情だった。けれど、知っている。これは『笑顔』というのだ。『笑っている』と表す様子だ。どれも初めて見た。どれも知らないものだった。少なくとも、目の前の存在に対しては。
「またねー」
電話の主は誰もいない空間に向かって大きな手をひらひらと振る。三角耳から携帯端末が離れるのが見えた。インクリングの形によく似たそれがマントの下に消えていく。深海色の瞳はそれをただただ映し出す。情報を脳味噌に伝える。受け取った脳味噌は、再び機能を停止した。
数拍。青が、空を思わせる青が、意識を刺激した。
遠く、けれどもしかりとこちらを捉えたブルーが丸くなるのが見えた。皿のようにとはこのことか、と思うほど大きく見開かれたそれは、すぐに元の姿を取り戻した。愛らしさすら感じさせる目は、どこか薄くなる。上がっていた口角はすぐさま角度を無くし、真一文字に結ばれる。いつも見る顔――無愛想など通り越した、表情の無い、感情も思考も全く読み取れないものへと戻った。
ざ、と足元で何かが聞こえる。ざ、ざ、と音が続く。己の足音だと気付いた頃には、黄色い頭に手が届きそうなほど近くまで進んでいた。
「……あんた、喋れるじゃん」
開きっぱなしだった口から音が漏れる。発した瞬間、腹の奥が熱を持つ。頭の底がジンと痛みを覚える。だらりと垂れていた手が拳を作る。口は間抜けに開いたままだというのに、喉が詰まったかのような息苦しさを覚えた。
目の前、こちらを見据えていた青が動く。かち合っていた視線が途切れた。どうやら呟きと同義の声は相手に聞こえたらしい。でなければ、こんな逃げるような動きはしない。逃げるようなことをしている自覚があるのだ、こいつは。
ブーツに包まれた足が地を蹴る。握られた拳が開かれ、目の前のぼろきれもろとも胸倉を掴む。ぐっと持ち上げ、身を寄せる。無理矢理上げさせた目の前の顔は、露草色の瞳は、常は鋭さを感じさせる視線は、逸らして逃げたままだった。
「あんた、喋れるじゃない!」
人工の蒼天に怒号が響き渡る。服を掴む腕に力がこもる。いつだって無表情を貫く顔がわずかにしかめられるのが見えた。胸を引っ掴まれて息が苦しいのだろう。それでも、目の前のインクリングは一言も発さない。口はまっすぐな線を描いたままで、呻きすら漏らさない。その姿が爆発する感情を刺激する。燃えるような怒りに燃料を注ぎ入れる。
「いつも黙って……、あたしとは喋らないくせに! 何なの!? 馬鹿にしてんの!?」
ぐっと腕を引き寄せ、鼻が当たりそうなほど顔を引き寄せ、三号は叫ぶ。普段はけだるげな目元は吊り上がっていた。細い眉は鋭角を描き、眇められた深海の奥には燃え盛るような輝きを宿している。怒りだ。胸の奥に燻っていたものが弾け、怒りへと姿を変え、少女を支配していた。
目の前の存在は黙したままだ。胸倉を掴まれ身体を持ち上げられているというのに、抵抗の一つも無い。ただただされるがままでいた――唯一、視線だけはずっと逸らして。
往生際悪く逃げようとする姿に、こんな状況でも己と会話をしようとしない姿に、三号は更に顔を歪める。胸のあたりに熱が集まっていく。喉が締められるような感覚。心臓が締め付けられるような感覚。波音ぐらいしかない空間だというのに、全ての音が遠くに聞こえるような感覚。視覚は逃げゆく青だけを感知する。
「なんか言いなさいよ!」
掴んだ手を勢い良く引き寄せる。目の前の身体が電車に揺られたようにぐらついた。黄色い頭を飾る軍帽が滑り落ち、地面に当たって軽い音をたてる。それほどの勢いで揺さぶられているというのに、首元を締められているというのに、目の前のインクリングは一言も発さなかった。視線を合わせなかった。まるで、こちらの全てを拒否するように。否定するように。
話す価値がないとでもいうのか。己には言葉を交わす価値などないとでもいうのか。思考は現状を拡大解釈し、最悪の答えばかりを弾き出す。己で導き出したそれに、頭の底がまた痛みを覚えた。ガンガンと叩かれるような、ジンジンと痺れるような感覚。凄まじいものだというのに、思考は機能を止めなかった。むしろ、焚き火に薪をくべたように勢いを増していく。マイナスへと突き進んでいく。
ぐぅ、と喉が鳴る。数拍、硬く握っていた拳を解いた。己によって持ち上げられていた身体が落ち、椅子代わりのコンテナボックスに着地する。重い音が雪の世界に落ちた。突き飛ばされるのと同義の行為をされても、音が鳴るほどの衝撃を与えられても、目の前の存在は音を発しなかった。呻きも、不平も、憤怒も、悲哀も、動揺も、何もない。何とでもない、と主張するような姿だ。それがまた神経を逆撫でする。感情を逆撫でする。ふざけんじゃないわよ、と低い声が漏れた。
「死ね!」
刺し殺さんばかりに睨みつけ、少女は今日一番の大声を上げる。項垂れた頭に罵詈雑言を叩きつけ、踵を返して走り出した。
足跡の無い来た道を駆けてゆく。明るい世界から逃げるように足を動かし、生ぬるい空気と形容し難い臭いのする通路へと再び飛び込んだ。光が失せ、暗がりが身を包み込む。
足に力を入れる度、空間を構成する金属が怒声めいた声をあげる。普段は顔をしかめる騒音だというのに、三号は気にする様子すら見せず全力で走った。
もう二度と行くものか。『じーちゃん』とやらなど知らない。勝手に入れられた隊など知らない。あの三人の都合など知ったこっちゃない。もう二度と関わりたくない。一生会いたくない。記憶から存在を抹消したい。これだけのことをされて、もう顔を合わせようだなんて欠片も考えられるはずがない。
金属の地面が悲鳴を上げる中、少女は走りゆく。大きな手には、いつぞや渡された銃が握られたままだった。
蒼天色の目が白を見つめる。魂が無くなったようにぼやけたそれが、次第に元の色を取り戻していく。しばしして、はぁ、と酷く重い溜め息が吐き出された。身体が真っ二つに折れるように傾いていく。長いゲソが地面につかんばかりにだらりと垂れた。
「司令ー!」
元気な声が背を叩く。緩慢な動きで振り返ると、そこにはこちらに駆けてくる一号の姿があった。後ろにはマイペースに歩く二号の姿も見える。きっと仕事を終えて戻ってきたのだろう。こんな場所ぐらい己一人でも守ることなど容易いというのに、二人はいつも仕事の合間を縫って訪れ寄り添ってくれた。それほど『じーちゃん』――アタリメ司令が心配なのだろう。
わっ、と跳ねた声。目の前まで来た十字輝く金の目がまんまるになってこちらを見つめた。黒い手袋に包まれた手は膨らんだハリセンボンのように大きく広がっている。可憐な口はカラストンビが見えるほど丸く開いていた。
「服すごいことになってるよ?」
心配げな、それでいて好奇心が隠せない声と視線が向けられる。一号の細い指が指す場所へと視線を移す。胸元は――三号に掴まれ引き上げられていた胸元は、酷い皺になっていた。灰色のトップスは乱れ、黒いインナーが大きく覗いている。ぼろきれを繋ぎ合わせたかのようなマントの一部はほつれていた。あー、と思わず煮え切らない声を漏らした。
「何かあったん」
大きな唐傘を手に、二号は問う。問いの形をしていたが、こちらを見つめる月色の目は断定の光を宿していた。それはそうだろう、こんな姿で『何もありません』なんてことはあり得ない。あー、とまた意味の無い音を吐き出した。
「……バレちゃった」
発した途端、乾いた笑みが込み上げてきた。はは、と漏れた笑声は酷く暗い。落ち込んでいる時のそれとよく似た響きをしていた。落ち込むようなことだったのか、と頭が驚愕の声をあげる。あの子にバレて落ち込むのか、己は。
何が、と一号は可愛らしい目を丸くして問う。あぁ、と二号は小さく返す。垂れた眠たげな目が眇められる。呆れとも、怒りとも、どうにも表しがたい色をしていた。
「八号と電話してるの聞かれちゃってさー……」
説明のつもりで続けた言葉は、明らかに言い訳の響きをしていた。下がった調子の音は、拗ねていると言っても相違ない。はは、とまた笑いが漏れる。息を吐き出しただけだというのに、気道を塞がれたような苦しさを覚えた。
はぁ、とわざとらしい溜め息が聞こえた。蒲公英色が黒い瞼の奥に消え、帽子で飾った白い頭がふるふると横に振られる。隣の黄金色の瞳は、不思議そうにしろ時の間を往復していた。
「自業自得やね」
二号の短い言葉が胸を刺す。正論中の正論が心臓を刺し貫く。濁った音が喉からあがった。面白がってそういうことするのが悪いんよ、と重い追撃まで飛んでくる。真正面から顔面に岩を投げつけられたような感覚に、司令は強く眉を寄せ目を伏せた。
「何の話?」
「三号に話してるところ見られたって」
「えー!?」
疑問符にまみれた一号の声が驚愕へと変わる。くりくりとした目がこれでもかというほど見開かれた。大きく開いた口元に手を当てる姿は、信じられないと言わんばかりのものだった。
「あんなに隠してたのに!?」
一号の言葉は純粋なものだった。ただただ純粋に疑問に思い、純粋に驚き、純粋な言葉で己の思考を表しているのだ。そこに悪意など一欠片もない。分かってはいるが、全てが己を責め立てているように聞こえて仕方が無い。また喉がおかしな音をたてた。
「で、今後どうするん」
静かな声が混沌の場を切り裂く。向けた視線の先、二号は手遊びのように唐傘をくるりと回した。興味が無いとも見える仕草だ。実際は誰よりも未来を考えてくれているのだろうけど。
「……今後、あるのかなぁ」
死ねって言われちゃったし、と司令は細く言葉を紡ぐ。事実を音にした瞬間、再び息苦しさを覚えた。何度目かの笑いが漏れる。乾ききったそれは、己で聞いても惨め極まりないものだった。
一号は今一度目を丸くする。きらめく可愛らしい眼球がこぼれ落ちてしまいそうなほどだ。反面、二号は目を眇める。また溜め息を吐くのが聞こえた。
「でも、これは司令が悪いよ」
「やね。司令が全部悪い」
常通りの透き通った声で一号は断言する。呆れ返った声で二号も断じた。喉がおかしな音をたてる。反射的に否定しそうになるが、そんな余地は残されていない。自業自得であることなど、己が一番理解していた。
最初は威厳を示すためだった。己は声にも使う言葉にも緊張感なんてものは無い。自ら話してはただの陽気なインクリング、ただの子ども――という年齢はとうに過ぎ去っているが、客観的に見ても子どもと表現するのが正しい――と変わりない。『New!カラストンビ部隊の司令』という肩書には似つかわしくないものである。
威厳のある声は無理でも、厳格な言葉は無理でも、それらしい表情なら何とか作り出すことができる。ならば、喋りは二号に任せて己はそれらしい顔をしていよう。そう決めたのは、ここに来てすぐのことだった。
そのまま時は流れゆく。季節が移った頃、そろそろ話してもいいのではないか、普段通りに振る舞ってもいいのではないか、と二号が提案してきた。たしかに、季節が変わるほど共に過ごしたのだから、そろそろ彼女も己たちへの警戒心を緩めているだろう。毎回二号を通して言葉を伝えるのも手間だ。人となりを見せれば、彼女は更にこちらに歩み寄ってくれるかもしれない。的確な提案だった。うんうん、と頷いたことははっきりと覚えている。
それを蹴ったのは、間違いなく己だ。
だって、面白いじゃないか。『自ら喋らない謎の存在』を演じるのは骨が折れるが、面白いじゃないか。物言わねど存在感を放つミステリアスな存在なんて、面白いじゃないか。
ただの好奇心だ。ただのいたずら心だ。このまま突き通したらどういうことになるのだろう、というただの興味だ。
そうして変わらず口を閉じ、表情を殺して過ごし、二号の手を煩わせてきた。こんな粗末ないたずらと同義のことに付き合わされるなど、二号としてはたまったものじゃないだろう。本当にいいんやね、とあの日問うてきた声は冷え切っていたことを覚えている。それでも律儀に役割を果たしてくれたのだから、彼女は優しい。共犯じゃん、と醜い屁理屈をこねられないぐらい。
それがこの有様である。さすがに永遠に隠し通せるとは思っていなかった。けれども、心のどこかでは何とかなるだろうと楽観的に考えていた。何とかなることなどなかったし、最悪の事態に陥っているのだけれど。
「どうしようかなぁ……」
呟き、司令は落ちつつあった視線を空へと移す。ガラスか何かが張り巡らされた天井は、変わらず青空を映し出していた。晴れたる空は青い。こちらを殺さんばかりに見つめてきたあの目のように青い。あの海色には、もっと苛烈で激烈で燃え盛る何かが宿っていたのだけれど。
死ね。
刃物で刺し貫かんばかりの勢いと鈍器で殴りつけるような重さをしていたあの言葉を思い出す。腹の底からめいっぱい出したようなあの怒号を思い出す。感情を剥き出しにしてこちらを睨めつけたあの瞳を思い出す。ほんの数秒の光景だというのに、全て耳にこびりつき目に焼き付いていた。当分は剥がれずにいるだろう。
どうしよ、と吐息めいた声が地に落ちた軍帽を撫ぜた。
畳む
#新3号 #新司令