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No.34
献身【神十字】
献身【神十字】
KACバムのcroiX曲コメにたぎったのでそんな感じの突発的な神十字。
支配者で神様大好きな十字の話。
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この一帯を支配する塔、その最上階の片隅にひっそり存在する一室。倉庫のようなそこに一人の男がいた。
巨万の富を得て人々を統べる男には不釣り合いなほど汚らしくみすぼらしいこの部屋だが、男にとっては何よりも重要な、己の命と等しく大切な部屋であった。
男はこれまた彼に似合わぬ朽ちかけたぼろぼろの椅子に座り、穴と言われても差し支えないような壁にぽっかりと開いた窓から星のない月しか存在しない黒い世界をその翠玉にも似た冷たい碧の双眸でじっと見つめていた。
不意に窓から注ぐ冷えた光が消え、室内が本来の闇に近付く。風など吹いていないのに、草原にも海にも似た色をした男の髪がさらりと揺れた。
窓の真ん前、白く冷たい月を背負って一人の男が部屋に降り立った。突然現れた燃えるような赤が暗い闇を彩り、その闇に溶けるような黒のブーツが床を叩く硬質な音が暗い部屋に響く。
「
神
(
Gott
)
」
弾かれたように男は立ち上がり、月を背負う男――彼が言うところの『神』に駆け寄った。その表情は普段の冷徹で尊大な彼からは想像できないほど明るい。
まるで生き別れの家族に会うような。
まるで恋い焦がれる少女のような。
まるで親に縋る子供のような。
そんな様子で男は月を背負う男の元へと駆け、ごく自然な動きでその目の前に跪いた。彼を知る者が見れば己の目を疑うだろう。人を、物を、全てを支配せんとする、生きとし生けるものの頂点に立つ冷然な彼の行動とは到底思えない。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
月を背負う男が口を開くと、男はすぐさま答えた。その瞳は熱に蕩け潤みさえしていた。ここ最近闇に浮かぶ赤の男――『神』は姿を見せておらず、本当に久方ぶりの邂逅であった。この時をどれほど待ち望んだのだろうか、喜びを表すように男の温度のない白い肌には仄かに朱が差していた。
「元気そうでなにより」
そう言って『神』は男の頭を撫でる。普通の人間ならば指先一つ触れるだけで首が飛ぶほどの重罪だというのに、男はそんな素振りは一切見せず嬉しそうに目を細めた。ほぅ、と漏れる息はどこか熱を孕んでいる。
「長いこと来なくて悪かったな。いい子にしてたか?」
「お気になさらないでください。こうして再び貴方を拝見することができただけで、私は幸せなのです」
『神』の言葉に男は勢いよく顔を上げ泣きそうな瞳で彼を見た。自身のような矮小で瑣末な存在が神の行いを妨げるのは、男にとって許しがたいことだった。
「私は神のものなのですから」
男は幸福に浸るような瞳でふわりと笑った。誰にも見せることのない――目の前に存在する、彼にとって唯一の『神』にのみ捧げる幸せな笑みだった。
そんな男を見て『神』は口角を上げた。笑みにも似たその表情からは彼の感情は読み取れない。けれども、その血のように赤く昏い瞳には温度など欠片も感じられず、全てを見下すような、世界を嘲るような色をしていた。その瞳を今この時だけは自身が独占しているという事実に男の身体は歓喜に震えた。
「分かってる」
幾度も聞いた言葉に幾度も言った答えを返し、『神』は男の頬に指を滑らせる。ひくりと男の肩が跳ねるが、その視線が目の前の赤から外れる様子はない。その姿に『神』は愉快そうに笑みを浮かべた。
瞼を、眦を、耳を、頬を、頤を、男の肌の上を指が踊る。最後に唇を親指で撫ぜると、小さく息を飲む音が部屋に零れた。気にせず『神』は幾度も赤く色付いたそれに指を這わせる。時折柔く押してみると、男の細い肩がふるりと震え翡翠のような瞳は今にも泣いてしまいそうなほど熱に潤んだ。もし『神』の指がなければ彼の口からは艶めかしい吐息が漏れていただろう。それでも『神』の行為を妨げないために唇を引き結ぶ様は酷く忠実で愚かで愛らしい。無意識に口角が釣り上がる。餌を目の前にした獣のようなその表情に男の背に甘い痺れが走った。そんな惨めな男の様は『神』の攻撃的な部分を強く刺激する。
「お前は俺のものなんだよな?」
最後にさらりと一撫でし、『神』は男から指を離し問う。男は名残惜しさと自らに投げられた彼の言葉に緩やかに目を細め小さく頷いた。
「――この財も、民も、名誉も、身体も、魂も、全ては貴方だけのものです」
好きなだけ喰らってください、と男は儚げな笑みを浮かべ『神』を見つめた。翡翠を熔かした瞳には、目の前の燃えるような赤しか映っていない。
ハッ、と『神』は酷く愉快な様子で笑い、己の髪のように赤いその唇に噛み付いた。男の鼻にかかった甘い吐息すら喰らうその様は、捧げられた贄を貪る怪物そのものだ。
月すら消えた暗闇の中、濁った紅と揺らめく碧が溶け合って消えた。
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#腐向け
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#腐向け
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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男はこれまた彼に似合わぬ朽ちかけたぼろぼろの椅子に座り、穴と言われても差し支えないような壁にぽっかりと開いた窓から星のない月しか存在しない黒い世界をその翠玉にも似た冷たい碧の双眸でじっと見つめていた。
不意に窓から注ぐ冷えた光が消え、室内が本来の闇に近付く。風など吹いていないのに、草原にも海にも似た色をした男の髪がさらりと揺れた。
窓の真ん前、白く冷たい月を背負って一人の男が部屋に降り立った。突然現れた燃えるような赤が暗い闇を彩り、その闇に溶けるような黒のブーツが床を叩く硬質な音が暗い部屋に響く。
「神」
弾かれたように男は立ち上がり、月を背負う男――彼が言うところの『神』に駆け寄った。その表情は普段の冷徹で尊大な彼からは想像できないほど明るい。
まるで生き別れの家族に会うような。
まるで恋い焦がれる少女のような。
まるで親に縋る子供のような。
そんな様子で男は月を背負う男の元へと駆け、ごく自然な動きでその目の前に跪いた。彼を知る者が見れば己の目を疑うだろう。人を、物を、全てを支配せんとする、生きとし生けるものの頂点に立つ冷然な彼の行動とは到底思えない。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
月を背負う男が口を開くと、男はすぐさま答えた。その瞳は熱に蕩け潤みさえしていた。ここ最近闇に浮かぶ赤の男――『神』は姿を見せておらず、本当に久方ぶりの邂逅であった。この時をどれほど待ち望んだのだろうか、喜びを表すように男の温度のない白い肌には仄かに朱が差していた。
「元気そうでなにより」
そう言って『神』は男の頭を撫でる。普通の人間ならば指先一つ触れるだけで首が飛ぶほどの重罪だというのに、男はそんな素振りは一切見せず嬉しそうに目を細めた。ほぅ、と漏れる息はどこか熱を孕んでいる。
「長いこと来なくて悪かったな。いい子にしてたか?」
「お気になさらないでください。こうして再び貴方を拝見することができただけで、私は幸せなのです」
『神』の言葉に男は勢いよく顔を上げ泣きそうな瞳で彼を見た。自身のような矮小で瑣末な存在が神の行いを妨げるのは、男にとって許しがたいことだった。
「私は神のものなのですから」
男は幸福に浸るような瞳でふわりと笑った。誰にも見せることのない――目の前に存在する、彼にとって唯一の『神』にのみ捧げる幸せな笑みだった。
そんな男を見て『神』は口角を上げた。笑みにも似たその表情からは彼の感情は読み取れない。けれども、その血のように赤く昏い瞳には温度など欠片も感じられず、全てを見下すような、世界を嘲るような色をしていた。その瞳を今この時だけは自身が独占しているという事実に男の身体は歓喜に震えた。
「分かってる」
幾度も聞いた言葉に幾度も言った答えを返し、『神』は男の頬に指を滑らせる。ひくりと男の肩が跳ねるが、その視線が目の前の赤から外れる様子はない。その姿に『神』は愉快そうに笑みを浮かべた。
瞼を、眦を、耳を、頬を、頤を、男の肌の上を指が踊る。最後に唇を親指で撫ぜると、小さく息を飲む音が部屋に零れた。気にせず『神』は幾度も赤く色付いたそれに指を這わせる。時折柔く押してみると、男の細い肩がふるりと震え翡翠のような瞳は今にも泣いてしまいそうなほど熱に潤んだ。もし『神』の指がなければ彼の口からは艶めかしい吐息が漏れていただろう。それでも『神』の行為を妨げないために唇を引き結ぶ様は酷く忠実で愚かで愛らしい。無意識に口角が釣り上がる。餌を目の前にした獣のようなその表情に男の背に甘い痺れが走った。そんな惨めな男の様は『神』の攻撃的な部分を強く刺激する。
「お前は俺のものなんだよな?」
最後にさらりと一撫でし、『神』は男から指を離し問う。男は名残惜しさと自らに投げられた彼の言葉に緩やかに目を細め小さく頷いた。
「――この財も、民も、名誉も、身体も、魂も、全ては貴方だけのものです」
好きなだけ喰らってください、と男は儚げな笑みを浮かべ『神』を見つめた。翡翠を熔かした瞳には、目の前の燃えるような赤しか映っていない。
ハッ、と『神』は酷く愉快な様子で笑い、己の髪のように赤いその唇に噛み付いた。男の鼻にかかった甘い吐息すら喰らうその様は、捧げられた贄を貪る怪物そのものだ。
月すら消えた暗闇の中、濁った紅と揺らめく碧が溶け合って消えた。
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