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あまやどり【神奈子+早苗】

あまやどり【神奈子+早苗】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:神の経験[15m]

「神様でもやったことないことってあるのでしょうか?」
「あるよ。いっぱいある」
 外は雨。神社の賽銭箱の前、雨宿りをするように座っている早苗が小さく呟く。隣に座った神奈子は同じく呟くように答えた。
「神様なのにですか?」
「神様だからだよ」
 神奈子の言葉に早苗は首をかしげる。何でもできる神奈子様にもできないことなんてあるのだろうか。小さな早苗には分からなかった。
「早苗みたいに学校に通ったことはないね」
「そうなのですか?」
 早苗は目を丸くする。こんなになんでもできる神奈子様が、学校に行ったことがないだなんて。
「だから、早苗が羨ましいよ」
「そんなこと、ないです」
 遊ぶのは楽しいけど勉強は嫌です、と早苗は口をとがらせる。子供らしいその姿に微笑んで、神奈子は彼女の頭を撫でた。
「勉強も楽しくなるさ」
「楽しくなりません」
「なるさ。興味があることが出てきたら、楽しくなる」
「……学校の勉強では、神様のことは出てくるのでしょうか?」
 小さな瞳が神奈子を見上げる。神と日々を過ごす彼女にとって、神は最大の関心事だった。彼女らが出てくる話はないかと図書館で本を読み漁った日々もあった。神奈子たちの話に耳を傾けることは日常と化している。彼女にとって神は別格の存在なのだ。それが学べるなら、どんなに楽しいのだろう。気になって仕方ないのだ。
「あー……、あるんじゃないかね」
「あるんですか?」
「学校に行ったことないから分からないや」
「ずるいです!」
 逃げるような神奈子の言葉に早苗は頬を膨らます。神奈子は申し訳なさそうに笑った。
「まぁ、頑張りなさいな」
「うー……」
 小さく唸る彼女の頭を優しく撫で、緑色の細い髪を梳く。少しだけ雨に濡れたその髪は、いつもより少し濃いように見える。
 雨はまだ止みそうにない。

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#八坂神奈子 #東風谷早苗

東方project

蕩かす【ゆか→れいむ】

蕩かす【ゆか→れいむ】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:楽観的なテロリスト[1h]

 博麗霊夢という少女は、八雲紫にとって非常に魅力的に映った。
 清流のようにさらりと流れる黒髪、袖から覗く白の中に柔らかな赤が躍る透き通った肌、揺らめく瞳を縁取る柔らかな睫毛。手足は少女らしく折れてしまいそうなほど細く、けれども健康な形をしている。なにより、そのきっぱりとした性格が魅力的だ。
 彼女の全てが欲しい。そんな欲が湧いてきたのはいつだったか。
 その欲が心の内から溢れ出した時から、紫は霊夢に仕掛けた。
 まずは妖怪ならば全てを潰す彼女と会話をするところから。警戒心の高い獣のような彼女の中に入り込むのはなかなかに難しかった。
 次は生活に入り込むことを。お茶を出してもらえるような、そんな関係まで。
 そして彼女の中での自身の存在を大きくしていく。会話して、行動を共にして、時たま触れ合って。そんな小さな事を積み重ねていく。
 ゆっくりゆっくり、侵蝕していくように。博麗霊夢という少女の中に、八雲紫という存在を埋め込んで。消えないように、消せないように刻み込んで。


 こたつを挟んで向こう側、霊夢は紫が持ってきたもぐもぐとお茶菓子を食べている。今日はきんつばだ。柔らかな皮から現れる餡を溶かすように味わい、渋いお茶を飲む。湯呑の中のそれを飲みほし、急須を手に取ったが中身がないことに気付いたようだ。
「おかわりいる?」
「お願いしようかしら」
 ん、と小さく返事をして、霊夢はお湯を求めて台所へと消えていく。その背中を見て、紫は妖しく微笑んだ。
 スキマから覗いた彼女は、他者にお茶を入れるということはしなかった。欲しいならば取りにいけ、というのがなまくらな彼女のスタイルだ。けれども、紫に対してだけは違う。紫が来れば必ず二人分のお茶を入れ、持ってきたお茶菓子も渡す。他者には決してしない、見せない彼女の姿。それを独占している現状が幸せでたまらない。
 しばらくして、急須を持った霊夢が戻ってきた。紫の湯呑を取り、自身の物を並べてゆっくりと茶を注ぐ。ふわりとのぼる湯気がその温かさを表している。
「はい」
「有難う」
 礼を言って、差し出された湯呑を受け取る。対面を見ると、熱いそれをゆっくり冷ます霊夢の姿が見える。霊夢は熱いものは苦手なのよね、と考えて紫は笑った。彼女がそれを語ったのはいつの日のことだったか。
「きんつば、あんたの分もあるでしょ。あげないわよ」
「いいえ。なんでもないわ」
 少し警戒したような目で見る彼女に微笑み、紫は湯呑に口をつける。熱いそれは、温かなこたつの中でも美味しい。
 これだけ親しくなったというのに、霊夢が紫に特別な好意を向ける様子はない。霊夢は紫をその他有象無象は違う存在と認識していることは知っている。けれどもそれから進む様子がない。
 難しいわね、と紫は彼女と対話する度に思う。妖怪の生は長いが、人間のそれは空に一瞬だけ姿を見せる流れ星のように短い。あまり長い時間をかけることはできない。その前に彼女が死んでしまう。
「ねぇ、霊夢」
「なぁに」
「私のこと、好き?」
「好きよ。いつも言ってるじゃない」
 ストレートに聞いてみてもこれだ。まず、この子は愛や恋を理解しているのか怪しいところもある。こればかりは難しい。けれども自身が彼女にそれを教え込みたい、という欲すら湧いてくる。八雲紫という妖怪は貪欲だ。どこまでもどこまでも彼女を求める。
「あんたが何を期待してるかわかんないけど」
「けど?」
「あんたは特別枠よ。上手く言えないけど、あんたの『好き』は別枠」
 涼やかな顔でそう言って、霊夢は新しく取り出したきんつばを頬張る。幸せそうなその表情は可愛らしい。けれども、それを気にしてる暇なんてなかった。
 あぁもう、この子は。
 愛や恋なんて理解していないこの子の純粋な好意。『他者へのそれとは違う』と明確に示された好意。そんな甘い言葉を向けられて、落ちない者などいない。なんて楽観的な、無意識な、性質の悪いその言葉。
 自分が彼女を侵蝕していくはずなのに。いつもいつもこの子に振り回されて、この子に惑わされているのは何故なのだろう。惚れた弱みとはこのことなのだろうか。長い間生きているが、こんな気持ちはまだ理解できていない。
「やっぱり弱み、かしら」
「弱い? あんた熱いのだめだっけ?」
 きょとんとした表情でこちらを見る霊夢に紫は苦笑する。あれだけ甘い言葉を吐いてもこの表情だ。やっぱり理解していない。
「なんでもないわ。それ、美味しい?」
「美味しい。あんたの持ってくるお菓子は美味しいわ」
 ご満悦な様子でお茶を飲む彼女。その言葉も自身を溶かしていく。あぁ、なんて甘い。このお菓子よりもずっと甘い、砂糖菓子のような彼女の言葉。けれども、苦い苦いその言葉。
 ずず、とお茶を一口。甘い甘い、苦い苦い彼女の言葉とお茶の相性はあまりよくないようだ。
 この味に合うものは、この感情に会う言葉はあるのだろうか。

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#ゆかれいむ #百合

東方project

冷め切った約束事【ゆかれいむ】

冷め切った約束事【ゆかれいむ】
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お題:犯人はオンラインゲーム[15m]

 お茶を一口飲み、溜め息一つ。先ほどからこればかり繰り返しているのは、霊夢自身も気が付いていた。けれどもそれを止めることはまだできない。待ち人はまだ来ないのだから。
 紫は毎日同じ時間に現れる。遅れたことなんてなかった。なにせあちらが「必ず来るわ」と言ったのだから。紫は適当そうに見えて約束はしっかり守るヒトだということを霊夢は知っていた。きっと、紫のそんな姿を知るのは霊夢と幽々子、それと従者の藍ぐらいだろう。
 またお茶を一口。溜め息一つ。その繰り返しばかりだ。自分でも呆れる。
「遅いわねぇ」
「ごめんなさい」
 霊夢はどこか寂しげに呟くと、すぐ隣から申し訳なさそうな声が聞こえた。驚いてそちらを見ると、紫がいた。泣きそうな顔をしていた。
「……遅いじゃない」
「ごめんなさい。ちょっと用事が」
「うそ」
 その目は若干泳いでいた。普通ならば気付かないが、相手は博麗の巫女である霊夢だ。妙に勘のいい彼女を誤魔化すのはなかなかに難しいことだ。
「で、本当の理由は?」
「……ちょっと、ゲームに夢中になっちゃって」
「げぇむ?」
 紫が時々何かの機械をいじっていることがあった。それを隣で眺めることはよくあった。
「こっちに持ってきてやればいいじゃない。いつも通りに」
「オンラインゲームっていってね、特別な機械じゃないと遊べないのよ」
 反省しているのか、紫の表情は暗い。なにせ自分で「必ず」と言った約束を初めて破ったのだ。完璧主義者に近い彼女にはなかなかのダメージだった。
 霊夢もそれを察しているが、「ふぅん」と呆れたように言った。また紫の顔が情けないものになる。
「ごめんなさい」
「寂しかったんだから」
「え?」
 きょとんとした紫の顔。その顔はだんだんと明るくなる。
「うそよ」
 ばーか、とふざけるように言って霊夢はまた茶を飲む。本心なんて言うつもりは毛頭無い。特に、そんな『くだらない』理由で約束を破ったのだから。それでも紫は霊夢の本心など分かっているだろう。知っているからこそ言わない。勝手に察して、勝手に一喜一憂するといいのだ。
 ふふん、と霊夢は機嫌よさそうに笑った。二つ並んだ湯呑の中身は、既に冷め切っていた。

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#ゆかれいむ #百合

東方project

雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】

雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】
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パウンドケーキって美味しいけど酒の匂いがキツくて苦手。
急にさなれいむが書きたくなったので。三人称と一人称が混ざって訳分からん。

「霊夢さーん! れーいーむーさーん!」
雪の積もる境内に、上機嫌を通り越してハイになった声が響く。雪降る寒さにも負けず、早苗は霊夢がいるであろう社務所の方へと駆けていく。
その顔に、大きめの札がベシャリと貼付けられた。
「うるさい」
縁側に面した部屋の襖の隙間から霊夢が顔を出した。不機嫌さを隠すことなく、訪問者にもう一枚札を投げる。札は見事に早苗の顔に命中し、早苗はさらにもがもがともがいた。
やっと札を剥がし終えた早苗は、霊夢の顔を見てにへらと笑った。
「なにその顔」
「まあまあ。それよりも、霊夢さんに渡したいものがあるんです」
緩んだ顔のまま縁側に腰掛け、早苗は肩にかけた鞄を漁り、目的のものを取り出し掲げる。
「ハッピーメリークリスマース!」
「は? め……、なに?」
「なにって、クリスマスですよ。クリスマスプレゼントですよ」
互いの言っている事が分からないのか、二人とも不思議そうな顔をする。しばらくして、早苗は合点がいったようで、未だに状況を理解していない霊夢に説明をはじめた。
「私のいた外の世界では、今日は皆でご馳走を食べたりプレゼントを交換したりするんです」
「宴会する日ってこと?」
「そんなものです」
「本当は神様の誕生日なんですけどね」と続ける早苗を尻目に、霊夢は掲げられた箱に目を移す。寝そべった状態では見上げるのが辛く、途中で諦め起き上がる。
「ともかく、私から霊夢さんにクリスマスプレゼントを持ってきたのですよ」
満面の笑顔で手渡された箱は大きさに反して重い。中身は何なのだろうと考えていると、開けるよう促される。
「おぉ」
箱の中身はクッキーとパウンドケーキだった。クッキーは様々な形に型抜きされており、パウンドケーキの断面からは色とりどりのフルーツが顔を覗かせている。どちらも程よい焼き色で、仄かに甘い香りを漂わせていた。
「早苗が作ったの?」
「えぇ。フルーツは秋神様から頂いたものなので、味は保証できますよ」
「あんた、こんなのも作れるのねぇ」
神妙そうな顔をしてクッキーを一つかじる。サクリとした食感と期待通りの甘さが口の中に広がった。
「ん、美味しい」
「作った甲斐がありました」
もしゃもしゃとクッキーを食べる霊夢の横で、早苗は幸せそうに笑う。しかし、それは通り抜けた北風に掻き消され、早苗は寒さにぶるりと身を震わせた。
「あー、寒いし中に入りなさいよ」
「お邪魔します」
早苗は冷たい腕で自らを抱きながら部屋に入る。促されるままに霊夢の隣に座り、炬燵に足を潜り込ませる。冷たい足先に暖かさがじんわりと染み込んだ。
因みに霊夢は早苗との会話中、下半身は炬燵に潜り込ませたままだった。道理で寒さに文句を言わなかったわけである。
「大きい方のクッキーは後で分けましょうか」
「霊夢さん、それケーキです」
「? ケーキってあれでしょ、ふわふわした黄色いのにクリーム塗ったやつでしょ? たまに赤いけど」
「ケーキにも種類があるんですよ。それは固めのケーキなんです」
「へぇ」
まじまじとパウンドケーキを見つめる霊夢を眺めながら、今度はとびきり大きいホールケーキを持ってきてやろうと早苗は固く誓った。同時に、その『ふわふわした黄色いのにクリーム塗った』ケーキを霊夢に食べさせた誰かに嫉妬する。
たまに赤い、おそらく苺などのフルーツを混ぜこんだものが出てくるあたり、相手は腕の立つ者なのだろう。強い相手だろうが、恋人の胃袋を掌握させてたまるものか。
見知らぬ誰かに闘士を燃やす早苗を無視して、霊夢は早苗が持ってきたクッキーを頬張る。無言でどんどんと食べていくあたり、気に入ったのだろう。
「美味しいですか?」
「美味しい」
霊夢の素直な返答にえへへと笑う早苗だが、その笑みに少し黒いものが混じる。
「ねぇ、霊夢さん」
「あに」
「霊夢さんは私に何をくれますか?」
「はぁ?」
思いっきり怪訝で不機嫌な声と視線が早苗に向けられた。早苗は気にせず話を続ける。
「さっき言ったじゃないですか。今日は『プレゼントを交換したりする日』だ、って。私は霊夢さんにお菓子を送りました。つまり、私は霊夢さんにプレゼントをもらう権利があります!」
ビシィ、と霊夢を指差す。霊夢は眉間にシワを寄せて早苗を睨み、溜息をついた。
「みかんぐらいしかないんだけど」
「そのみかん、前におすそ分けしたものですよね?」
「じゃあこれ返す」
「クッキー、くずしか残ってないじゃないですか」
「じゃあどうしろってんのよ」
早苗はふふふと不敵に笑い、霊夢の方へ身を寄せた。
「別に物品である必要はないんです。例えば、キスしてくれたりとか、甘えてくれたり甘えさせてくれたりとかでいいんですよぅ」
霊夢の眉間にシワがさらに深く刻まれる。なまはげのような顔をした霊夢に屈することなく、早苗は辛抱強く返答を待った。
しばらくして、諦めたかのような溜息とともに寄っていたシワが緩んだ。ちょいちょい、と小さく手招きされて早苗はさらに霊夢の方へに寄る。まだ足りないのか手はなかなか下りない。ついに痺れを切らしたのか、霊夢は立ち上がり、早苗のすぐ隣、肩が触れ合うような場所に座った。
「早苗、こっち向きなさい」
声に誘われ霊夢の方を向く。視界から霊夢が消え、身体に温かな重みがかかる。しばらくして、霊夢が早苗に抱きついたのだと理解した。
早苗はいきなりの出来事に軽くパニック状態になっていた。
あの霊夢が、あの霊夢が自分に抱きついているのである。普段なら自ら抱きついても邪険に扱うような霊夢が、原因はどうであれ自発的に抱きついてきたのだ。嬉しさやらなんやらで早苗の頭は処理が追いつかない状態になっていた。
霊夢は霊夢でパニック状態になっていた。
普段なら恥ずかしさやら照れ臭さで抱きつかれても邪険に扱ってしまうというのに、自分から抱きついたのだ。こんなこと初めてだ。恥ずかしさやら照れ臭さやら抱きついたのはいいがこのあとどうすればいいのやらで頭がオーバーヒートしかけていた。
「……肩、冷たい」
「そ、そのまま出てきちゃいましたから」
霊夢は少しだけむくれる。
実際はどうかは知らないが、見た目だけで言うなら早苗の方が年上に見える。だが、その行動は魔理沙とどっこいどっこいなくらい子供っぽい。夢中になれば自身を顧みず行動する早苗の姿は、霊夢には少し面白くなかった。恥ずかしくも照れ臭くも、早苗は霊夢のもので霊夢は早苗のものなのだ。自分の与り知らぬところで傷つかれるのは嫌だ。
口には決して出さないが、霊夢は霊夢で早苗のことが心配で、心配するくらい好きなのだ。
「あんた、もっと考えて行動しなさいよ」
「善処します」
「あほ」
回す腕に力を込める。顔には冷たい肌が、身体には温かな柔らかさが伝わってきた。
するり、と腕を解き、霊夢は炬燵に突っ伏した。恥ずかしさと照れ臭さと幸福感で顔が大変なことになっているのが分かる。こんな恥ずかしい顔をあげることは到底無理だ。
「霊夢さーん」
同じく幸福感で頬が緩まった早苗が霊夢を呼ぶ。返事が返ってこないことは分かっているのだが、何だか名前を呼びたくて堪らないのだ。
「霊夢さん」
「……腕、寒いし、疲れたから」
霊夢は炬燵に手を入れたまま、早苗のスカートの端を少し握る。早苗がこちらを向いたのが分かり、霊夢は顔を反対側へと向けた。
「みかん、皮剥いて」
「なんなら食べさせてあげましょうか?」
「あほ」
霊夢はぺし、と早苗の膝を軽く叩く。早速早苗はカゴからみかんを取り出し、鼻歌を歌いながら皮を剥きはじめた。

外では雪、内ではみかんの皮がゆっくりと積もっていった。

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#さなれいむ #百合

東方project

辿る水【ゆかれいむ】

辿る水【ゆかれいむ】
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ほも書いたら反動で百合書きたくなったのでゆかれいむ。毎度の如く30m。

ゆかれいむへのお題は『君の涙の味』です。http://shindanmaker.com/392860

 くぁ、と大きく口を開けると間の抜けた声と大きく息が吐き出される。口を閉じる頃には目の端にはじわりと涙がにじんだ。
「あくびばっかりねぇ」
 隣に座る紫が呆れたように言った。自身の前に置かれた湯呑には手を付ける様子はなく、ただ机に両肘をつき指を組み、そこに顎を乗せてこちらを見ていた。うるさいな、という目で彼女を見る。
「仕方ないじゃない、眠いのよ」
「あら、冬眠でもする?」
「しないわよ。あんたじゃないんだから」
 くすくすと笑う紫が気に入らなくて、目を眇め睨む。膨大な時間を過ごしてきた彼女には小娘のそんな視線は痛くもかゆくもないようだ。それがまた気に入らない。
 す、と紫の指がこちらに伸ばされた。なんだ、と身を固くする。白く細い指は自身の目元をなぞり、目の端ですくいあげるかのように指を曲げた。す、と離れた彼女の指先は仄かに濡れていた。わざわざ涙を拭ってくれたらしい。
「なによ」
「何でもないわ。ただ、気になっただけ」
 ふふ、と彼女は微笑み、その指を――すくいあげた霊夢の涙をぺろりと舐めた。訳の分からない行動にぞくりと肌が泡立つ。
「うん、しょっぱいわね」
「な、に……やってんのよ! 馬鹿!」
 ありったけの札を懐から取り出し力いっぱい投げつける。幾多の札が彼女の肌に張り付くが、特に効果はないらしい。妖怪退治用の札でも大妖には効かないようだ。それが悔しくて、先ほどの行為がいまさらになって恥ずかしくなって、わなわなと震える。そんな霊夢に構うことなく紫は再度指を舐める。まるで指についた涙を全て舐めとるように。
「なによ、なんなのよ、訳分かんないわよ」
「貴女の涙ってどんな味かと思って」
 最近お茶ばかりでちゃんとご飯を食べてないでしょう、と紫は言う。確かに最近は眠さに負けてろくに食事を取っていなかった。おにぎりなどで必要最低限は食べているはずだが、三食一汁一菜しっかり食べない姿が気に入らなかったようだ。紫は微笑んだ。その眼はどこか怖い。
 彼女の腕がこちらに伸びる。細い指が頬を撫で、その手のひらで顔を上に向かせる。決して強い力ではないのに、それに抗うことはできなかった。それは妖怪故か、それとも紫だからなのか、彼女に意識を支配されたこの状況では分からない。
 彼女の顔が近づく。普段ならば『そういうこと』をする時はしっかりと目を閉じるのだが、今は瞼すら動かせないように錯覚する。人外めいた美しさを持つ彼女の顔を間近で見るのは久しぶりで、柄にもなく心臓がどきりと大きく音を立てた。
 紫は大きく口を開いた。食われる、と錯覚したのは相手が妖怪だからだろう。動けなかった身体がようやく言うことを聞くようになったのか、反射的にぎゅっと目を閉じた。
 べろり、と赤い舌が霊夢の肌を――目元を這う。初めて味わうその感覚に体が大きく跳ねた。
「ゆか、り」
 名前を呼ぶが普段ならばすぐに返事をする彼女は黙ったままだ。口を開け、霊夢の肌を舐めているのだから当たり前だ。
 涙の溜まった目元を、瞼を赤い舌が這う。終わると瞼に小さくキスを落として、もう片方へと向かう。全てを舐めつくすようなその動きは恐ろしかった。
 どれほど経っただろうか。紫の手が頬から離れる。ゆっくりと目を開くと、そこには微笑んだ紫がいた。距離が近く、また舐められる、食われるのではないかと身体が硬直した。
「やっぱりしょっぱいだけね。お茶の味がすると思ったのだけれど」
「……なんなのよ、ばか、へんたい」
 じわりと涙がにじむ。また舐められるのではないか、と抑えようとするがどうにもならない。久しぶりに味わった妖怪の恐怖と、目を舐められるという初めての感覚に脳がついていけなかった。
 ごめんなさいね、と紫はまた涙を拭った。その指はそのまま霊夢の口元に持っていかれる。舐めろ、ということなのだろうか。
 恐る恐る小さく口を開き、彼女の指を舐める。仄かな塩気が舌の上に広がった。
「……しょっぱい」
「でしょ?」
 紫はくすくす笑った。へんたい、と呟くが彼女は依然笑うだけだ。それが悔しかった。

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#ゆかれいむ #百合

東方project

消夜【ゆかれいむ】

消夜【ゆかれいむ】
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即興二次小説で気になるお題があったので第二弾。今回は時間制限なし。
ジャンル:東方Project お題:1000の交わり 文字数:952字



 眠りの底から意識が現実へと浮上する。長い睫毛で縁取られた目がふわりとゆっくり開く、まだ頭が働かない。眠気を消すようにごしごしと目をこすり、幾度か瞬きをしてやっと焦点が合い周りを見回すことができた。
 寝転んだ隣を見る。昨晩共に過ごした彼女の姿も、その見た目よりも高い体温も残っておらず、ただ綺麗に整えられた白いシーツがあるばかりだ。いつもと変わらぬその風景を霊夢は冷めた目で見つめた。
 夜を共にした日、紫は自分が眠っている間に必ず消える。何の跡も残さず、夢だったのではないかと錯覚しそうなほど綺麗に姿を消す。いっそ怒りが湧いてくるほどだ。
 紫にとって、自身はただの代替品であることを霊夢は知っている。どんなに優しくされても、どんなに甘い言葉を与えられても、幾度も肌を重ねても、彼女の瞳には霊夢ではない別の誰かが映っている。それが書き換えられることなどないのだろう。それほど瞳の奥の『誰か』の存在は強く見えた。
 きっと彼女はこうやって数々の代替品と夜を過ごしたのだろう。妖怪の生は人のそれとは比較できないほど長い。『誰か』がどれほど前に出会ったものかは知らない。自身と同じ『代替品』が何人いたのかなど想像できない。けれど、自身に与えられてきたそれを他者に与えていないはずがないことぐらいは分かる。同列の存在なのだから当たり前だ。
 知らない『誰か』や『代替品』に嫉妬しているわけではない。紫の瞳に自身ではない『誰か』しか映っていなくとも、八雲紫が博麗霊夢を愛しているという形に変わりはない。形だけのそれでも、霊夢にとっては確かな事実だった。
 ほっそりとした白い指が赤々と下唇をなぞる。そこに彼女の温度はない。けれども、忘れることなどできない数えきれないほど与えられた感覚が霊夢の中にはしっかりと残っている。
「……さむ」
 ふるり、と小さな身体が震える。温かな布団の中にいるのに、どこか寒い。風邪でも引いたのだろうか。あいつ心配するだろうなぁ、と考えて目を伏せる。優しくされるのは嬉しいが、心配されるのは少しうっとおしい。『代替品』なのに、本物の『誰か』のように接するのだから性質が悪い。
 足を折りたたみ、胎児のように身体を丸める。肌をなぞる彼女の感覚が揺らめく意識の中にしっかりと残っていた。

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#ゆかれいむ #百合

東方project


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