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冷め切った約束事【ゆかれいむ】

冷め切った約束事【ゆかれいむ】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:犯人はオンラインゲーム[15m]

 お茶を一口飲み、溜め息一つ。先ほどからこればかり繰り返しているのは、霊夢自身も気が付いていた。けれどもそれを止めることはまだできない。待ち人はまだ来ないのだから。
 紫は毎日同じ時間に現れる。遅れたことなんてなかった。なにせあちらが「必ず来るわ」と言ったのだから。紫は適当そうに見えて約束はしっかり守るヒトだということを霊夢は知っていた。きっと、紫のそんな姿を知るのは霊夢と幽々子、それと従者の藍ぐらいだろう。
 またお茶を一口。溜め息一つ。その繰り返しばかりだ。自分でも呆れる。
「遅いわねぇ」
「ごめんなさい」
 霊夢はどこか寂しげに呟くと、すぐ隣から申し訳なさそうな声が聞こえた。驚いてそちらを見ると、紫がいた。泣きそうな顔をしていた。
「……遅いじゃない」
「ごめんなさい。ちょっと用事が」
「うそ」
 その目は若干泳いでいた。普通ならば気付かないが、相手は博麗の巫女である霊夢だ。妙に勘のいい彼女を誤魔化すのはなかなかに難しいことだ。
「で、本当の理由は?」
「……ちょっと、ゲームに夢中になっちゃって」
「げぇむ?」
 紫が時々何かの機械をいじっていることがあった。それを隣で眺めることはよくあった。
「こっちに持ってきてやればいいじゃない。いつも通りに」
「オンラインゲームっていってね、特別な機械じゃないと遊べないのよ」
 反省しているのか、紫の表情は暗い。なにせ自分で「必ず」と言った約束を初めて破ったのだ。完璧主義者に近い彼女にはなかなかのダメージだった。
 霊夢もそれを察しているが、「ふぅん」と呆れたように言った。また紫の顔が情けないものになる。
「ごめんなさい」
「寂しかったんだから」
「え?」
 きょとんとした紫の顔。その顔はだんだんと明るくなる。
「うそよ」
 ばーか、とふざけるように言って霊夢はまた茶を飲む。本心なんて言うつもりは毛頭無い。特に、そんな『くだらない』理由で約束を破ったのだから。それでも紫は霊夢の本心など分かっているだろう。知っているからこそ言わない。勝手に察して、勝手に一喜一憂するといいのだ。
 ふふん、と霊夢は機嫌よさそうに笑った。二つ並んだ湯呑の中身は、既に冷め切っていた。

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#ゆかれいむ #百合

東方project

ひとりとひとりのおべんきょうかい【嬬武器兄弟】

ひとりとひとりのおべんきょうかい【嬬武器兄弟】
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嬬武器兄弟が勉強してるだけ。IIIアピカコンで追加されたキャラ紹介文に笑い転げた後何とも言えない気持ちになったので。カタカナ読めて喜んでたもんな……。
設定一通り浚ったけど一人称やら二人称やらにブレがありすぎてつらい。

 昼休み。
 赤志との打ち合わせも終わり教室に戻ってくると、机の上に突っ伏した雷刀の姿が目に入った。また昼食の後すぐに寝たのか、と呆れつつ彼の元へ歩みを進めるがどうも様子がおかしい。よく見ると、寝ているのではなく冊子をいくつか抱えて唸っているようだ。彼の前、自分の座席に座り、背もたれに肘を載せるような形で彼の方に向かい声をかけてみる。
「どうしたんですか?」
「あー……烈風刀……」
 眠気とはまた違う、気だるげな動作で雷刀は顔を上げた。元気だけが取り得の彼だが、今日はそんな姿からかけ離れた酷く難しそうに歪んだ顔をしている。珍しいな、と烈風刀は内心驚く。
 「これ」と差し出された冊子を受け取り目を通す。コミカルな動物が描かれたカラフルな表紙には、『小学生 漢字ドリル』と大きなロゴが配置されていた。
「どうしたんですか? これ」
「ニアとノアにもらった……」
 彼はそれだけ言って再び机に突っ伏した。彼が抱えていた他の冊子を手に取り眺めてみると、どれも似たような言葉が並んでいる。一冊ならまだしも、何故こんなにあるのだろう。先生が出した課題にしては量が多いし、なにより表紙から高校生向けのそれではないことは明らかだ。
「本当にどうしたんですか、これ」
「これはレイシスが『ちゃんと勉強しまショウ?』ってくれてー、こっちはトライプル先生が『設問が読めなければ意味がないのよ』って渡されてー、そっちのは冷音が無言で渡してきてー。で、さっきのはニアとノアが『一緒にお勉強しよーね!』って置いていった」
 「皆してなんなんだよ」と雷刀は頭を抱えるが、烈風刀は合点がいったように頷く。皆の行動も仕方ないことだ。
 だって、彼はろくに漢字が読めないのだから。
「オレ、そんなにダメかな……」
「まぁ、『起動』を『おこうご』と読む高校生は雷刀以外にいないでしょうね」
 はぁ、と彼に悟られぬように小さく溜め息を吐く。『疾走感』や『覚醒』のようなあまりなじみのない言葉や、『KAC』のような横文字ははまだ流すことができるが、小学生でも読める『起動』をああも堂々と間違えたことは流石に無視できない。その上、『ビートストリーム』というカタカナを読めたことにとても喜んでいたのだ。こんな調子では先生は勿論、初等部のニアやノアに心配されてもしょうがないだろう。
「別にちょっとぐらい漢字が読めなくても生きていけるし」
「貴方のは『ちょっと』のレベルを大きく超えています」
 すぐさま指摘すると、雷刀は「うぇー」と潰されたような呻き声を上げた。その姿を見て烈風刀は呆れたように大きく息を吐く。あれを『ちょっと』という神経は理解できない。
「で、でも間違えたり読めなくても烈風刀が教えてくれるし」
「私が常に一緒にいるわけじゃないでしょう」
 「何を馬鹿なことを」と突き放すと、また「うーうー」とどこか聞いたことのある呻き声を上げて力なく机に突っ伏した。それを無視して机の上に散らばったドリル類をまとめる。
「せっかく皆さんがくれたのです、ちゃんとやりましょう。せめて、ニアとノアにもらった分だけでも解かなければ」
 まだ幼い彼女達がわざわざ雷刀のために用意してくれたのだ。全て解かなければ純粋で優しい彼女達の好意を踏みにじるようなものだ。それくらい、雷刀も分かっているだろう。
「………手伝ってくれる?」
「見張る、という意味ならば」
「えー」
「『えー』じゃありません。自力で解かなければ勉強する意味がないでしょう」
 雷刀が反論しようと口を開く前に予鈴が鳴った。いつまで続けても仕方のない話だ。さっさと切り上げてしまおう。
「とにかく、放課後やりますからね。一人だけ帰らないでくださいよ」
 言い捨てるようにして前を向き、授業の準備をする。後ろから「れふとー」と情けない声が聞こえるが無視する。構っていてもしょうがない。
 教室から離れていた生徒たちが続々と戻ってくる度に喧噪が増す。笑い声、眠そうな声、何度もドアが開け閉めされる音、教科書を取り出す音。色々な音が教室に雪崩れ込み満ち溢れていく。
 もうすぐ、午後の授業が始まる。



 カリカリと紙の上をペンが走る音。手元の本から視線を外しちらりと雷刀を見ると、机にかじりつくように問題を解いている姿が目に映った。こういう時はちゃんと集中するのだな、と苦笑する。この集中力をテスト前にも発揮してくれればいいのだけれど、きっとそれは叶わぬ願いだろう。
「――飽きたー!」
 突然叫ぶようにそう言って、雷刀はペンを放りだし力尽きたように机に突っ伏す。せっかく集中してると思っていたのにこれだ。はぁ、とわざとらしく嘆息し、壁にかけられた時計を見やる。短針は数字一つと半分だけ先に進んでいた。意外ともった方だろうか。
「『飽きた』じゃありません」
「飽きたもんは飽きたんだよー」
 座ったまま手足をバタバタさせ「もうやだー」と叫ぶ雷刀をいさめるが効果はない。その腕の下敷きになっているドリルを見ると、書き込むべきページは大分減っていた。この調子ならば今日中に終わらせることも可能だろう。もっとも、彼がここで投げ出さなければの話だが。
「ほら、もう少しなんですから」
「やだー」
 否定の言葉もどこか元気がない。普段机に向かうことの少ない彼が長い時間集中して解いていたのだ、疲れるのも無理はないだろう。少し無理をさせてしまっただろうか、と考えるが、普段の彼を鑑みると明日以降に回せば面倒くさがって逃げるか綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。テスト前だって家で勉強する気は更々ない彼だ、持ち帰るよりもこの場で少しでも終わらせてしまった方がずっといい。
 そう結論づけて烈風刀は再び雷刀に向き直る。暴れ疲れたのか、彼は机に突っ伏して「疲れた」「もうやだ」と小さく呻いていた。このままでは終わらないし、帰りも遅くなるだろう。物で釣るのはあまり好ましくないのだが、早く終わらせるためだ。
「今日中に終わったら好きな物を奢りますよ」
「マジで!?」
 ガバッ、と先程の動きが嘘のように目の前の赤い頭が勢いよく上がった。現金だな、と子どものように輝く赤い瞳を見て密かに笑う。
「いくらまで?」
「500円以内ならなんでも」
「よしっ!」
 勢いよく袖をまくり、力強くペンを握り直して雷刀は再び机にかじりつく。少額から納得できる額まで釣り上げていくつもりだったのだが、あっさりと決まってしまった。安いなぁ、と思わず呆れるように溜め息を吐きたくなったが彼に見られぬようにと噛み殺す。そんなことをしなくても、既に雷刀の意識は数多の問題へと向かっており顔が上がる様子はない。
 ふと外に目を向けると、空は昼のそれより薄い青と赤へと近づくオレンジのグラデーションで彩られていた。グラウンドを走る生徒の影も長い。もう夜が近い。そう考えて再度本を開いた。
 グラウンドを走る生徒の掛け声とペンを走らせる音、紙を捲る音が夕暮れ色に染まっていく教室を満たした。



 窓の外のオレンジは鳴りを潜め、深く吸い込まれてしまいそうな藍色と全てを塗りつぶしていくような黒が見渡す限りの空を染め上げる。壁の時計を見ると、いつの間にか長針は周回し、短針は7を少し過ぎた位置を示していた。最終下校時刻が迫ってきている。
「終わったぁー!」
 叫ぶようにそう言って、雷刀はペンを机に放りだし大きく伸びをした。その声に驚いた様子で烈風刀もパタンと本を閉じる。
「お疲れ様です」
 労いの言葉をかけ、机に広げられたドリルを回収する。ざっと目を通してみると、解答欄は全て埋められていた。普段から綺麗と言えない彼の字は急いで書いたためか更に歪んでいたが、それを読み取るのはもう慣れたものだ。
「大丈夫みたいですね」
「よっしゃ!」
「もうすぐ最終下校時刻です。帰りましょう」
「うぇっ、もうそんな時間かよ」
 烈風刀の言葉に雷刀は驚いた様子で外に目をやる。「真っ暗だな」と呟いて机の上に広げられた筆記用具を乱暴に鞄に詰めた。烈風刀も読んでいた本を片付け鞄を手にする。
 パチン、パチン、と小気味いい音で電気を消し、教室を出る。人気のない廊下は外と同じように暗い。グラウンドの照明は既に消されており、廊下を照らすのは黒の中に浮かぶ月だけだ。
「なーなー、さっきの何でもいいのか?」
「言ったでしょう。予算内なら何でもいいですよ」
「じゃあ椿のところの肉まん食べたい! 頭使ったし腹減った!」
「そんなものでいいのですか?」
 「いつでも食べられるじゃないですか」と呟くと、雷刀は楽しげに笑いながら「今食べたいからいいんだよ!」と返した。
「ちゃんと夕ご飯を食べられるようにしてくださいね」
「分かってるって」
 あぁでもごま団子も食べたい、いや饅頭も捨てがたい、と雷刀は宙を見上げ真剣に悩んでいた。今日は普段の彼から考えられないほど頑張っていたのだ、希望する物全て買ってあげよう。そんなことを思いながら烈風刀は隣の赤色と同じ速度で歩みを進める。
 暗い廊下、跳ねる赤と揺れる緑が闇へと溶け込んでいった。



「終わらせたぞ!」
 翌日、昼休み。
 「早く見せに行こう」と烈風刀を引き連れ初等部に駆けていった雷刀は、廊下で遊んでいたニアとノアの目の前に昨日の漢字ドリルを掲げた。
「一日で終わったの? すごーい!」
「全部書けたの?すごーい」
 感嘆の声を上げ、二人はキラキラとした瞳で雷刀を見上げる。彼女らの表情に雷刀は嬉しそうに胸を張った。特にニアはぴょこぴょこと跳ねて雷刀からドリルを受け取り、中を見て「本当だ―!」と嬉しそうに声を上げた。その姿に雷刀も「オニイチャンすごいだろ」と楽しげに笑う。
 その子どもらしい姿に小さく笑みを零すと、くいくいと服を引っ張られる感触がした。そちらを見ると、ノアがどこか不安げな瞳でこちらを見上げていた。
「れふとも一緒にやったの?」
 控えめな声で彼女は尋ねる。渡した翌日に解き終わるという、普段の雷刀ならば考えられないような早さを不思議に思ったのだろうか。彼女と同じ目線になるように屈み、優しく微笑みかけた。
「私はサボらないように見ていただけです。全部、雷刀一人で解いたのですよ」
 烈風刀の言葉にノアはわぁ、と目を輝かせる。ニアと話している雷刀を見上げて「らいと、すごい」と呟く彼女に烈風刀は思わず笑った。素直で表情豊かな彼女達はとても可愛らしい。
「ニア達もちゃんとお勉強しなきゃね! ノアちゃん!」
「らいとみたいに頑張らないとね、ニアちゃん」
 やる気満々といった風に二人は顔を見合わせる。元気にピョンピョンと跳ねる姿を見て、烈風刀は一つの案が思い浮かんだ。彼女達と目線を合わせ、それを口にする。
「では、放課後一緒に勉強しませんか?」
「本当?」
「いいの?」
 烈風刀の申し出にニアとノアは嬉しそうに声を上げた。彼女たちのトレードマークであるカチューシャについた兎の耳のようなリボンが本物のそれのようにピンと立ち、きゃっきゃと笑う彼女らの動きに合わせて揺れる。反して、隣に立っていた雷刀は慌てて烈風刀の袖を引っ張り耳打ちする。
「おい、今日も居残りかよ!」
「だって、まだ全て終わったわけではないでしょう」
「でも――」
「雷刀」
 渋い顔で反論しようとする雷刀に、烈風刀は笑みを返す。わざとらしいほど爽やかで明るい、けれども有無を言わせない笑顔だった。
「家で残りの三冊を全て終わらせるのと、今日も残って一冊終わらせるの、どちらがいいですか?」
「…………残ります」
 疲れ切った表情で雷刀は言った。よろしい、と言った風に取り澄ました顔をすると、チャイムが響いた。もう予鈴の時間になったようだ。時間が経つのは早い。
「さぁ、もうすぐ授業が始まりますよ。教室に戻りましょう」
「はーい! じゃあまた放課後ね!」
「またねー」
 二人は廊下を飛び跳ねる。その小さな背中に「廊下で飛んではいけませんよ!」と言うと、二人一緒に振り返って「はーい」と元気な声で返事した。烈風刀の言う通り飛び跳ねるのをやめ、廊下をペタペタと音を立てて駆けていく。
 その背中が見えなくなったのを確認して、隣の雷刀を見る。居残りが決まったためか力ない顔でうなだれていた。
「私達も戻りますよ」
「ふぇーい」
 返事にも覇気がない。相変わらずすぐ顔に出るのだな、と呆れるように笑った。その背中に届くよう声をかける。
「頑張っていいところを見せてあげてくださいね、『オニイチャン』」
「分かったよ」
 皮肉るような烈風刀の言葉に雷刀も苦笑いをして顔を上げる。「お手本見せなきゃなー」と言って彼は大きく伸びをした。
 今日の放課後は賑やかになりそうだ。そんなことを考えて烈風刀は小さく笑う。
 もうすぐ、午後の授業が始まる。

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#嬬武器雷刀 #嬬武器烈風刀

SDVX

緩やかな眠りの淵と柔らかな温もりの中で【ライレフ】

緩やかな眠りの淵と柔らかな温もりの中で【ライレフ】
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ライレフが寝てるだけ。三人称が分からない。

 シャワーを終え自室に戻ると、ベッドの上に見知った赤色があった。
 隣室――雷刀の部屋のドアが開きっぱなしになっていたので嫌な予感がしていたが、見事に的中してしまった。大方、トイレから戻る際間違ってこちらに来てしまったのだろう。これまでも何度かあったことだ。家具の配置が全く違うというのに何故違和感を覚えないのだろうか、といつも不思議に思うが、彼はどこかの射撃と昼寝の名人ばりに寝つきがいいから気付く暇さえないのだろう。はぁ、と思わず大きく溜め息を吐いた。
 いつもならば無理矢理にでも叩き起こして部屋に帰すのだが、今日は近日行われるアップデートの準備や各授業の課題が重なり酷く疲れていた。体が程よく温まったせいか睡魔が背後まで迫っていたのもあり、彼を起こすことすら面倒臭い。もういい、このまま寝てしまおう。
 もぞもぞとベッドに潜り込み、雷刀を壁側に押しやりスペースを作る。彼は寝相が悪いから壁の方にやったほうがいい。これも経験則だ。彼がもぐりこんでいたせいか、布団の中は心地よく温まっていた。雷刀は子供のように体温が高いから尚更だ。
 そういえば、このように一緒に眠るのは何時振りだろう。不本意ではあるが、現在の関係になってからは一緒の布団で眠ることが増えた。しかし、こうやって何もなく、ただ共に眠るだけというのは何年振りだろう。
 子供の頃は親が不在である寂しさに同じ布団で眠ることが幾度かあった。あれはたしか小学生、低学年頃までだっただろうか。ということは、約十年振りか。時が経つのは早い。それとも、自分達が子供めいた行動から脱却するのが早かったのだろうか。
 隣で眠る雷刀の寝顔を見る。いつも先に眠ってしまうから――先に眠ってしまうほど疲れさせるのは彼だ――こうやってまじまじと見ることは初めてかもしれない。
 下りた瞼は特徴的な赤い瞳を隠し、柔らかに弧を描く。笑顔とは違う曲線のなぞり方のはずなのに、どこか笑っているかのように見えるほど安らいだ表情だ。時折、すぅすぅという寝息と共に鮮やかな赤色の髪がふわりと揺れる。子供のように元気な彼をよく表したあどけない寝顔だ。その幸せそうな表情を見て、くすりと笑った。双子だけれど、やはり彼と自分は全然違う。こんな表情が似合うのは雷刀の方だし、きっと自分にはできない。
 眠気が忍び寄り、じわじわと意識を侵蝕していく。隣に眠る雷刀と自分の体温で心地好い暖かさに包まれているはずなのに、なんだか寂しい。子供ではないのに、一人ではないのに何故だろう。ふわりと緩やかに沈んでいく意識の中で考える。――答えはとうに出ていた。
 ちらりと再度彼の寝顔を見る。相変わらず下ろされた瞼が開く様子はなく、起きる気配はなさそうだ。思い切ってその体に身を寄せる。大丈夫だ、起きない。それに寝相の悪い彼のことだ、目が覚める頃には離れているはずだ。そう言い聞かせ、せりあがってくる恥ずかしさを誤魔化し抑え込む。
 ぎゅっ、と彼の服を握り胸に額を当てる。あぁ、温かい。懐かしい。そして、幸せだ。日頃は気恥ずかしさが勝ってしまい滅多に言わないが、自分だって雷刀に思いを寄せている――顔から火を噴かんばかりに湧き上がる羞恥心を捨てて言うと、愛しているのだ。こうして一緒にいることを、触れ合うことを幸福に思うのは当たり前のことだ。
 忍び寄っていた睡魔が優しく瞼を下ろす。ふわふわとしていた意識が、ゆっくりと深い眠りの底まで沈んでいく。
 あぁ、今日はよく眠れそうだ。




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 深い暗闇の底まで沈んでいた意識がゆっくりと浮上し、目が開く。
 なんだかいつもよりも温かい。寝起きでぼぅっとした頭で胸の中を見下ろすと、そこには見知った緑色がいた。
 ドキリ、と心臓が大きく跳ねる。何故烈風刀がここにいるのだ。昨日誘った覚えはない。もちろん、誘われることもなかったはずだ。何より、二人ともちゃんと服を着ている。だったら、一体何故。朝は弱い方だが、驚きと混乱で意識はすっかり覚醒していた。
 あわあわと周りを見渡すと、枕元に置かれた時計が目に止まりようやく気付く。ここは烈風刀の部屋か。大方、トイレに行った帰りに間違ってこちらに来てしまったのだろう。今までも何度かあったことだ。だが、その度に無理矢理叩き起こされ部屋から蹴り出されたのに、何故今回は起こされず、しかも日頃触れようとする自分を無理矢理引っぺがすような彼が自分の胸の中で眠っているのだ。
 とにかく一旦布団を出ようと身を起こそうとするが、何かに引っ張られるような感覚に動きが止まる。よく見ると、烈風刀が自分の服を掴んでいることに気付く。遠慮がちにそっと抱き付き、胸に収まる姿は小さな子供のようで愛らしい。彼がこのように甘えてくる――普段、彼はこんな積極的に触れ合うことはしないのだ――のは珍しいだけに尚更だ。惜しからむは、こうやって柔らかで安らかな顔で眠っているから手を出せないということか。生殺しだ、と唸りそうになるのをどうにか我慢する。
 すっ、とゆっくりと彼の瞼が持ち上げられた。ふわふわと定まらない視線がこちらに向けられる。まだ少し寝ぼけているようだ。
「……おはよう?」
「…………おはようございます」
 気まずいながら声をかけると、半分閉じていた目が次第にぱっちりと開いた。状況を把握したのか、眉間に深く皺を刻み苦々しい表情で小さな声で挨拶が返される。その頬はだんだんと赤みを帯びていく。やはり照れているようだ。可愛い。
「珍しいな。烈風刀が甘えてくるなんて」
「甘えてなどいません。蹴り出すのが面倒くさかっただけです」
 そういって烈風刀は視線を逸らし、服を掴む手に力をこめた。きゅっと服を握るその姿は甘えているようにしか見えない。寝起きで思考がはっきりしてないからか、自身の行動に気付いていないようだ。そんな彼の様子に思わず頬が緩む。
「烈風刀、かーわいー」
「うるさいです」
 褒める言葉に照れを隠すようなふてくされた声。頬が鮮やかな朱色に染まっていることに彼は気付いているのだろうか。愛らしい姿に小さく笑って、胸の中で縮こまる彼を抱きしめた。
「っ、らいと」
「まだ早いし二度寝しよーぜ。オニイチャンまだちょっと眠い」
 「眠い」という言葉が嘘だということなど、烈風刀はきっと気付いている。いつもなら二度寝など許さない彼が、何も言わず仕方ないという風に身を寄せてくるのは彼なりの甘え方だろう。素直じゃないな、と気付かれぬように笑う。眠っている時の方がよっぽど素直で愛らしいが、起きている時の素直じゃない姿も微笑ましくて愛おしい。盲目的なのは分かっているけれど、可愛いものは可愛いのだ。
「おやすみ、烈風刀」
「……おやすみなさい」
 そう言って彼はすぐに目を閉じる。恥ずかしさでそうしているのだろうが、きっとこのまま眠ってしまうだろう。最近アップデートやら課題やら様々なものが次々と重なっているから疲れているはずだ。周囲の期待に応えようと頑張りすぎる彼は、こうやってゆっくり眠って休むべきなのだ。そう考えると、この状況はちょうどよかったのかもしれない。
 胸の中の柔らかな緑にそっと唇を寄せる。おやすみ、と再度囁いて自分も目を閉じた。身を寄せる彼の体温を確かに感じながら、一緒に眠りの底へと沈んでいく。
 あぁ、今日はよく眠れそうだ。

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#ライレフ #腐向け

SDVX

スタイル【GOD EATER】

スタイル【GOD EATER】
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私の戦い方だと絶対に皆に説教されるよなとかそんな妄想。終着点が見つからない。

「だーかーらー! 何でいつも一人で突っ込んでいくんですか! いつもそれで怪我ばかりしているんですからもっと気をつけてください! 大体貴女は――」
フェンリル極東支部、出撃ゲート前のロビーに怒号が響く。
声の主は第一部隊に所属する新型神機使いのアリサ・イリーニチナ・アミエーラ。ミッションを終え疲れているであろう、その細い身体のどこから出ているのかと疑問に思うほど声を張り上げ、目の前に正座している人物に怒りをぶつけている。
そしてその目の前で正座している人物は――
「いい加減自分の身を大切にすることを覚えてください! リーダー!」
彼女が所属する第一部隊、その部隊長である。
彼女はアリサの怒号に掻き消されそうな声で「はい」と相槌を打っていた。そこに反省の色は見られるのだが、次のミッションまでにそのことを忘れてしまうことを極東支部の皆は知っている。
なにせ、この光景は彼女が部隊長と就任したすぐ後から続けられているものだからだ。
彼女とミッションに同行したものは口々に言う。「後先を考えずに突っ込んでいく奴だ」と。
実際、突っ込んではいくものの、技術を駆使し戦うので戦地で倒れることは少ない。しかし、倒れる一歩手前でも回復薬を使わずに敵を斬りつけにいくその姿は、異常だった。
本人曰く、「とりあえず斬れば全部済む」、「まあなんとかなる」、だそうだ。
他の神機使いは半ば諦めているようだが、アリサはそれが気に食わないのだろう。第一部隊長が一度いなくなったことも多少関係しているだろうが、仲間が自ら死ににいくような姿はアラガミによって家族を失った彼女にとっては耐え難い光景なのだろう。
「それにしても、あれだけ言ってもよく飽きないよなー」
手すりに寄りかかり、その光景を遠巻きに眺めているコウタが呟く。
「ありゃ直るまで続くだろうな。直るかどうか分からないけどな」
その言葉に、隣にいるタツミが笑いながら続く。
「私は直るとは思えないけどね。隊長さんも、アリサも」
缶コーヒーを手にしたジーナが、コウタの横にもたれかかって続く。
「『アリサも』ってどういうこと?」
「隊長さんは見ての通りだけど、万が一あの癖が直ったとしてもアリサもお説教は続くでしょうね」
「いや、流石にアリサもそこまでしつこい奴じゃないんだけど……」
困ったような顔で言うコウタに視線を投げ、ジーナは微笑んだような顔で続ける。
「別に彼女がしつこいとかそんなのじゃないわ。ただ、『あれ』は彼女たちにとっての一種の儀式みたいなものだと思うの」
「儀式ねえ」
あながち間違いではないかもしれない、とタツミは苦笑して呟く。
「『今日は生きて帰ってきました』『次も生きて帰りましょう』って感じかしら」
「その通りなら言ってることはリンドウさんと同じだけど、あれじゃあなあ」
「まあ、あのリーダーもアリサだからこそあれだけ大人しく叱られてるんじゃないか? 部下にあれだけ言われても反論すらしないのは一種の信頼の形だろ」
そんなことを言ってタツミはカラカラと笑った。ジーナもコーヒーを飲む手を休め、笑う。
信頼。
実際のところ、コウタもあの隊長の戦闘スタイルに言いたいことは山ほどある。無茶せず回復しろとか、無理に斬りにいくなとか、言いたいことは概ねアリサと同じである。
多分、コウタが言っても結果は同じだろう。しかし、アリサがあれだけ言っても改善しない辺り、もはや直す気すらないのではないのではないかと思ってしまう。
タツミの言う通りなら、彼女は自分たちを信頼してくれているのだろう。背を、命を預けられる仲間だからこそ、馬鹿のように一直線に敵に向かっていけるのかもしれない。
しかし、仲間にとってはその姿は心配を生み出すものだ。信頼はしていても、仲間が一人で強大な敵に突っ込んでいく様は心臓に良くない。頼られるのは嬉しいが、その前に自身を大切にするべきだ、と彼女の姿を見たものは思うだろう。
多分、彼女のことだろうから、それでも「自分より仲間のほうが大事だ」とか言うのだろう。「自分などどうでもいい」と言うような調子でそう言うのだろう。
そんなことを考えて、コウタは眉に皺を寄せた。
「あらあら、どうしたの?」
「……俺も、説教してこようかな」
「あらあら。部下二人からお説教されるなんて、隊長さんも大変ね」
ジーナはくすくすと笑った。
「二人で言えばなんとかなるかもな」
「リンドウさんに怒られても直らなかった子よ?」
「じゃあ駄目かもな」
タツミとジーナがそう言葉を交わしているのを背中で聞きつつ、コウタは未だ続く二人の元へと向かった。
「そうだそうだー! 無茶すんなよ、リーダー!」
怒号と反省の声に、楽しそうな声が加わった。

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#GOD EATER #アリサ・イリーニチナ・アミエーラ #うちの子

表【宗+善】

表【宗+善】
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表しかたは人それぞれなのです。
人が殺したいほど好きな結果(?)が殺人衝動なのになくなったらどうなるの、と思った結果がこれ。念のため腐向け。

「殺す、ということがこんなにくだらないなんてね」
 宗像形はそう呟く。湯飲みを満たす茶が揺れ、小さな波が広がった。
 地下二階、庭園の一角にある茶室。その一室には二つの人影がある。
「こういうのもなんですが、気付けてよかったんじゃないですか?」
 茶を一口飲み、人吉善吉はそう言う。
「結果的にですが、球磨川先輩は『大嘘憑き』で死をなかったことにしました。殺したことには変わりがありませんが、取り返しのつかないことにならずにすみました」
 そこでまた茶を一口含む。宗像もつられて飲んだ。
「なにより、先輩がずっと悩んでいた、苦しんできた異常(それ)がなくなったのは、喜ばしいことじゃないでしょうか」
 静寂が部屋を満たす。風のほとんどない庭園は、ただ静かだった。
「そうかもしれない。だけど」
 黙って下を向いていた宗像が口を開く。
「だけど、同時に僕は人を好きになることが分からなくなった。『殺したい』ということでしか表現できなかったそれを、どう言えば、どうやれば『好き』といえるか分からない」
 ゆっくりと顔を上げ、宗像は善吉の目をじっと見る。
「君に、なんと言えば、どうやって接すればいいか、分からない」
 宗像のその目は、今にも泣いてしまいそうな、不安定な色を湛えていた。
「カッ」
 その不安を吹き飛ばすように、善吉は笑い、言葉を続ける。
「なんにも考えなくていいんですよ。友達と一緒にいるのに、難しく考えることなんて何にもありません」
「特に俺とは」と善吉は冗談めかして笑った。つられたように、宗像も薄く笑う。
「そうか」
「そうですよ」
「――――でも、ごめん」
 言うが否や、刀が善吉の頬を掠めた。一拍遅れて――あまりのことに遅れたように感じた――背後の柱に刀が刺さり、鈍い音をたてる。
「僕には、この表現(これ)しか分からない」
 いつの間にか刀を手にした宗像は、静かに、どこか悲しそうに善吉を見つめていた。
「――君を、殺す」
「カッ! 俺は殺されたぐらいじゃ死にませんよ」
 善吉も立ち上がって宗像を見据える。
「先輩に、俺を殺させはしません」
 宗像は小さく頷いて、手に持った刀を善吉に向けた。

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#めだかボックス #宗像形 #人吉善吉 #腐向け

雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】

雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】
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パウンドケーキって美味しいけど酒の匂いがキツくて苦手。
急にさなれいむが書きたくなったので。三人称と一人称が混ざって訳分からん。

「霊夢さーん! れーいーむーさーん!」
雪の積もる境内に、上機嫌を通り越してハイになった声が響く。雪降る寒さにも負けず、早苗は霊夢がいるであろう社務所の方へと駆けていく。
その顔に、大きめの札がベシャリと貼付けられた。
「うるさい」
縁側に面した部屋の襖の隙間から霊夢が顔を出した。不機嫌さを隠すことなく、訪問者にもう一枚札を投げる。札は見事に早苗の顔に命中し、早苗はさらにもがもがともがいた。
やっと札を剥がし終えた早苗は、霊夢の顔を見てにへらと笑った。
「なにその顔」
「まあまあ。それよりも、霊夢さんに渡したいものがあるんです」
緩んだ顔のまま縁側に腰掛け、早苗は肩にかけた鞄を漁り、目的のものを取り出し掲げる。
「ハッピーメリークリスマース!」
「は? め……、なに?」
「なにって、クリスマスですよ。クリスマスプレゼントですよ」
互いの言っている事が分からないのか、二人とも不思議そうな顔をする。しばらくして、早苗は合点がいったようで、未だに状況を理解していない霊夢に説明をはじめた。
「私のいた外の世界では、今日は皆でご馳走を食べたりプレゼントを交換したりするんです」
「宴会する日ってこと?」
「そんなものです」
「本当は神様の誕生日なんですけどね」と続ける早苗を尻目に、霊夢は掲げられた箱に目を移す。寝そべった状態では見上げるのが辛く、途中で諦め起き上がる。
「ともかく、私から霊夢さんにクリスマスプレゼントを持ってきたのですよ」
満面の笑顔で手渡された箱は大きさに反して重い。中身は何なのだろうと考えていると、開けるよう促される。
「おぉ」
箱の中身はクッキーとパウンドケーキだった。クッキーは様々な形に型抜きされており、パウンドケーキの断面からは色とりどりのフルーツが顔を覗かせている。どちらも程よい焼き色で、仄かに甘い香りを漂わせていた。
「早苗が作ったの?」
「えぇ。フルーツは秋神様から頂いたものなので、味は保証できますよ」
「あんた、こんなのも作れるのねぇ」
神妙そうな顔をしてクッキーを一つかじる。サクリとした食感と期待通りの甘さが口の中に広がった。
「ん、美味しい」
「作った甲斐がありました」
もしゃもしゃとクッキーを食べる霊夢の横で、早苗は幸せそうに笑う。しかし、それは通り抜けた北風に掻き消され、早苗は寒さにぶるりと身を震わせた。
「あー、寒いし中に入りなさいよ」
「お邪魔します」
早苗は冷たい腕で自らを抱きながら部屋に入る。促されるままに霊夢の隣に座り、炬燵に足を潜り込ませる。冷たい足先に暖かさがじんわりと染み込んだ。
因みに霊夢は早苗との会話中、下半身は炬燵に潜り込ませたままだった。道理で寒さに文句を言わなかったわけである。
「大きい方のクッキーは後で分けましょうか」
「霊夢さん、それケーキです」
「? ケーキってあれでしょ、ふわふわした黄色いのにクリーム塗ったやつでしょ? たまに赤いけど」
「ケーキにも種類があるんですよ。それは固めのケーキなんです」
「へぇ」
まじまじとパウンドケーキを見つめる霊夢を眺めながら、今度はとびきり大きいホールケーキを持ってきてやろうと早苗は固く誓った。同時に、その『ふわふわした黄色いのにクリーム塗った』ケーキを霊夢に食べさせた誰かに嫉妬する。
たまに赤い、おそらく苺などのフルーツを混ぜこんだものが出てくるあたり、相手は腕の立つ者なのだろう。強い相手だろうが、恋人の胃袋を掌握させてたまるものか。
見知らぬ誰かに闘士を燃やす早苗を無視して、霊夢は早苗が持ってきたクッキーを頬張る。無言でどんどんと食べていくあたり、気に入ったのだろう。
「美味しいですか?」
「美味しい」
霊夢の素直な返答にえへへと笑う早苗だが、その笑みに少し黒いものが混じる。
「ねぇ、霊夢さん」
「あに」
「霊夢さんは私に何をくれますか?」
「はぁ?」
思いっきり怪訝で不機嫌な声と視線が早苗に向けられた。早苗は気にせず話を続ける。
「さっき言ったじゃないですか。今日は『プレゼントを交換したりする日』だ、って。私は霊夢さんにお菓子を送りました。つまり、私は霊夢さんにプレゼントをもらう権利があります!」
ビシィ、と霊夢を指差す。霊夢は眉間にシワを寄せて早苗を睨み、溜息をついた。
「みかんぐらいしかないんだけど」
「そのみかん、前におすそ分けしたものですよね?」
「じゃあこれ返す」
「クッキー、くずしか残ってないじゃないですか」
「じゃあどうしろってんのよ」
早苗はふふふと不敵に笑い、霊夢の方へ身を寄せた。
「別に物品である必要はないんです。例えば、キスしてくれたりとか、甘えてくれたり甘えさせてくれたりとかでいいんですよぅ」
霊夢の眉間にシワがさらに深く刻まれる。なまはげのような顔をした霊夢に屈することなく、早苗は辛抱強く返答を待った。
しばらくして、諦めたかのような溜息とともに寄っていたシワが緩んだ。ちょいちょい、と小さく手招きされて早苗はさらに霊夢の方へに寄る。まだ足りないのか手はなかなか下りない。ついに痺れを切らしたのか、霊夢は立ち上がり、早苗のすぐ隣、肩が触れ合うような場所に座った。
「早苗、こっち向きなさい」
声に誘われ霊夢の方を向く。視界から霊夢が消え、身体に温かな重みがかかる。しばらくして、霊夢が早苗に抱きついたのだと理解した。
早苗はいきなりの出来事に軽くパニック状態になっていた。
あの霊夢が、あの霊夢が自分に抱きついているのである。普段なら自ら抱きついても邪険に扱うような霊夢が、原因はどうであれ自発的に抱きついてきたのだ。嬉しさやらなんやらで早苗の頭は処理が追いつかない状態になっていた。
霊夢は霊夢でパニック状態になっていた。
普段なら恥ずかしさやら照れ臭さで抱きつかれても邪険に扱ってしまうというのに、自分から抱きついたのだ。こんなこと初めてだ。恥ずかしさやら照れ臭さやら抱きついたのはいいがこのあとどうすればいいのやらで頭がオーバーヒートしかけていた。
「……肩、冷たい」
「そ、そのまま出てきちゃいましたから」
霊夢は少しだけむくれる。
実際はどうかは知らないが、見た目だけで言うなら早苗の方が年上に見える。だが、その行動は魔理沙とどっこいどっこいなくらい子供っぽい。夢中になれば自身を顧みず行動する早苗の姿は、霊夢には少し面白くなかった。恥ずかしくも照れ臭くも、早苗は霊夢のもので霊夢は早苗のものなのだ。自分の与り知らぬところで傷つかれるのは嫌だ。
口には決して出さないが、霊夢は霊夢で早苗のことが心配で、心配するくらい好きなのだ。
「あんた、もっと考えて行動しなさいよ」
「善処します」
「あほ」
回す腕に力を込める。顔には冷たい肌が、身体には温かな柔らかさが伝わってきた。
するり、と腕を解き、霊夢は炬燵に突っ伏した。恥ずかしさと照れ臭さと幸福感で顔が大変なことになっているのが分かる。こんな恥ずかしい顔をあげることは到底無理だ。
「霊夢さーん」
同じく幸福感で頬が緩まった早苗が霊夢を呼ぶ。返事が返ってこないことは分かっているのだが、何だか名前を呼びたくて堪らないのだ。
「霊夢さん」
「……腕、寒いし、疲れたから」
霊夢は炬燵に手を入れたまま、早苗のスカートの端を少し握る。早苗がこちらを向いたのが分かり、霊夢は顔を反対側へと向けた。
「みかん、皮剥いて」
「なんなら食べさせてあげましょうか?」
「あほ」
霊夢はぺし、と早苗の膝を軽く叩く。早速早苗はカゴからみかんを取り出し、鼻歌を歌いながら皮を剥きはじめた。

外では雪、内ではみかんの皮がゆっくりと積もっていった。

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#さなれいむ #百合

東方project

辿る水【ゆかれいむ】

辿る水【ゆかれいむ】
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ほも書いたら反動で百合書きたくなったのでゆかれいむ。毎度の如く30m。

ゆかれいむへのお題は『君の涙の味』です。http://shindanmaker.com/392860

 くぁ、と大きく口を開けると間の抜けた声と大きく息が吐き出される。口を閉じる頃には目の端にはじわりと涙がにじんだ。
「あくびばっかりねぇ」
 隣に座る紫が呆れたように言った。自身の前に置かれた湯呑には手を付ける様子はなく、ただ机に両肘をつき指を組み、そこに顎を乗せてこちらを見ていた。うるさいな、という目で彼女を見る。
「仕方ないじゃない、眠いのよ」
「あら、冬眠でもする?」
「しないわよ。あんたじゃないんだから」
 くすくすと笑う紫が気に入らなくて、目を眇め睨む。膨大な時間を過ごしてきた彼女には小娘のそんな視線は痛くもかゆくもないようだ。それがまた気に入らない。
 す、と紫の指がこちらに伸ばされた。なんだ、と身を固くする。白く細い指は自身の目元をなぞり、目の端ですくいあげるかのように指を曲げた。す、と離れた彼女の指先は仄かに濡れていた。わざわざ涙を拭ってくれたらしい。
「なによ」
「何でもないわ。ただ、気になっただけ」
 ふふ、と彼女は微笑み、その指を――すくいあげた霊夢の涙をぺろりと舐めた。訳の分からない行動にぞくりと肌が泡立つ。
「うん、しょっぱいわね」
「な、に……やってんのよ! 馬鹿!」
 ありったけの札を懐から取り出し力いっぱい投げつける。幾多の札が彼女の肌に張り付くが、特に効果はないらしい。妖怪退治用の札でも大妖には効かないようだ。それが悔しくて、先ほどの行為がいまさらになって恥ずかしくなって、わなわなと震える。そんな霊夢に構うことなく紫は再度指を舐める。まるで指についた涙を全て舐めとるように。
「なによ、なんなのよ、訳分かんないわよ」
「貴女の涙ってどんな味かと思って」
 最近お茶ばかりでちゃんとご飯を食べてないでしょう、と紫は言う。確かに最近は眠さに負けてろくに食事を取っていなかった。おにぎりなどで必要最低限は食べているはずだが、三食一汁一菜しっかり食べない姿が気に入らなかったようだ。紫は微笑んだ。その眼はどこか怖い。
 彼女の腕がこちらに伸びる。細い指が頬を撫で、その手のひらで顔を上に向かせる。決して強い力ではないのに、それに抗うことはできなかった。それは妖怪故か、それとも紫だからなのか、彼女に意識を支配されたこの状況では分からない。
 彼女の顔が近づく。普段ならば『そういうこと』をする時はしっかりと目を閉じるのだが、今は瞼すら動かせないように錯覚する。人外めいた美しさを持つ彼女の顔を間近で見るのは久しぶりで、柄にもなく心臓がどきりと大きく音を立てた。
 紫は大きく口を開いた。食われる、と錯覚したのは相手が妖怪だからだろう。動けなかった身体がようやく言うことを聞くようになったのか、反射的にぎゅっと目を閉じた。
 べろり、と赤い舌が霊夢の肌を――目元を這う。初めて味わうその感覚に体が大きく跳ねた。
「ゆか、り」
 名前を呼ぶが普段ならばすぐに返事をする彼女は黙ったままだ。口を開け、霊夢の肌を舐めているのだから当たり前だ。
 涙の溜まった目元を、瞼を赤い舌が這う。終わると瞼に小さくキスを落として、もう片方へと向かう。全てを舐めつくすようなその動きは恐ろしかった。
 どれほど経っただろうか。紫の手が頬から離れる。ゆっくりと目を開くと、そこには微笑んだ紫がいた。距離が近く、また舐められる、食われるのではないかと身体が硬直した。
「やっぱりしょっぱいだけね。お茶の味がすると思ったのだけれど」
「……なんなのよ、ばか、へんたい」
 じわりと涙がにじむ。また舐められるのではないか、と抑えようとするがどうにもならない。久しぶりに味わった妖怪の恐怖と、目を舐められるという初めての感覚に脳がついていけなかった。
 ごめんなさいね、と紫はまた涙を拭った。その指はそのまま霊夢の口元に持っていかれる。舐めろ、ということなのだろうか。
 恐る恐る小さく口を開き、彼女の指を舐める。仄かな塩気が舌の上に広がった。
「……しょっぱい」
「でしょ?」
 紫はくすくす笑った。へんたい、と呟くが彼女は依然笑うだけだ。それが悔しかった。

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#ゆかれいむ #百合

東方project

菓子と貴方【神十字】

菓子と貴方【神十字】
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夜中にTL見てぶわっと熱がきたので、朝45mで書いた神十字。投稿ついでに少し修正。
見切り発車なんで設定とか色々ふわっとしてていつも以上にやまもおちもいみもない感じ。

 がさがさと草をかき分け道なき道を進む。草原をかき分けて進むのは最初は抵抗があったが、今では慣れてしまった。慣れてしまうほどここに通っているという事実は受け入れがたいが、諦めるしかない。
 ほどなくして一つの建物が目に入る。崩れかけといった言葉がとても似合うこの教会が目的の場所だ。こんな古びて朽ち果て機能を果たさなくなった教会がまだ壊されずに残っているのだと常々疑問に思うが答えは見えない。おそらく、彼がなにかをしているのだろう。それくらいのことなど造作なくできる男なのだ。
 壊れて役目を放棄したドアが散らばる玄関を潜り抜ける。かつん、と固い音が壊れた長椅子ばかりが並ぶ広い空間に響く。最前列、まだ椅子と判断がつくそこから起き上がる影があった。赤い髪がふわりと舞い、真紅の瞳がこちらを捉え弧を描いた。
「おかえり」
「……また寝ていたのですか」
「だってやることねーし」
 けだるげにに答え、ぐっと背伸びする男を見つめる。
 『神』と名乗ったこの男と出会ったのはどれほど昔だろうか。最初はそんな馬鹿げた言葉は信じられなかったのだが、時折見せる『力』とやらは彼が人ならぬ高位の存在であることを如実に示していた。疑わしいが、信じざるを得ないのだ。
「んで、今日は何持ってきてくれた?」
「クッキーですよ。子供達に配る為に焼いたものです」
「ふぅん」
 長椅子の背もたれから身を乗り出した彼はつまらなそうに目を細めた。どうも自身をついで扱いされたのが気に食わないらしい。見慣れたその姿に呆れながらも言葉を続ける。
「貴方の分は別に焼きましたよ。子供達と同じような動物型のものでは嫌でしょう?」
「別に? お前のなら何でも美味しいし、見た目とかどうでもいい」
 ストレートなその言葉に思わず息が詰まる。彼に褒められるのは嬉しいのだけれど、どうもこそばゆい。焦る気持ちを抑えようと鞄からクッキーが詰められた袋を取り出し、彼に手渡した。しかし、いつもならばすぐに食べ始める彼が動く様子がない。どうしたのだろうか、と顔を覗き込むと、にぃといたずらめいた笑みが返ってきた。
「食べさせて」
「は?」
 なんでそんなことを、と問うとなんとなく、とやる気のない声が返ってきた。しかしいつもならば明るく透き通った赤い瞳はどこか暗い血のような色に移り変わっており、彼の機嫌の悪さを明確に表している。やはり、先ほどの言葉が気に入らなかったらしい。このまま放置して妙なことをされては自分が困る。はぁ、とわざとらしくため息をつき、彼の手にある袋を開ける。丸いクッキーを一つ取り出し、彼の口元に運んだ。茶色のそれが赤い口内へと消えていく。嬉しそうに咀嚼しごくりと飲み込むと、彼はまた口を開いた。一枚だけでは済まさないつもりらしい。気が済むまで付き合うしかないようだ。
 彼の手から袋を取り、クッキーを次々と食べさせていく。まるで親鳥が雛に餌をやっているようだ、と考えて小さく笑みが漏れた。閉じられていた瞳がふわりと開き、一対の赤が不思議そうな色でこちらを見つめた。
「どした?」
「なんでもありませんよ」
 はい、と誤魔化すようにまた一枚。促されるまま彼はクッキーを頬張る。子供のようだ、といつも思う。こうやって美味そうに食べてもらえるのだから、作り甲斐があるというものだ。そんな彼だからこそ、長年ここに通い『神への供え物』と称した食べ物を持ってくるようになってしまったのかもしれない。一人で作ってただ食べるよりは、他者のために作って喜んでもらいたい。彼のために見えるこの行為だが、自身のためであるのも事実だ。
 そんなことを考えていると、指先に違和感を感じる。驚いて彼の方を見ると、自身の白い指に彼の赤い舌が這わされていた。赤くぬめったそれが自身の白い指を這う。その生暖かい感触と味わったことのない感覚にぞくりと背が震えた。
「な、に、してるんですか!」
 急いで手を引く。反応の意味がよく分からないのか、彼はこちらを見て不思議そうに首を傾げた。
「なにって、手に粉いっぱいついててもったいないなーって」
 だから舐めた、と言う彼の表情は普段と変わらないものだ。本当にそれだけらしい。付き合いは長い部類に入るが、未だに彼の行動はよく分からない。
「……みっともないからやめてください。ほら、まだありますから」
 先ほどの失態を誤魔化すように溜め息をついて、そのまま彼に袋を手渡す。渡されたそれをガサガサと音を立てて開け、食事を続ける。いくらか頬張ったところでこちらを見上げ、嬉しそうに笑った。その顔は子供のそれと一緒だ。
「ん、やっぱ美味い」
「そうですか」
 その屈託のない表情にこちらも笑みが零れる。彼が食事をしているときの顔はとても幸せそうで、それを見るのが好きだった。相手がどうであれ――人であれ、神であれ、喜んでもらえるのはやはり嬉しい。
「食べるか?」
 ほら、と彼は一枚差し出した。少し悩んだ末、彼と同じく口で受け取る。ふわりと砂糖の甘さが口の中に広がった。
「美味しい?」
「貴方が美味しいというなら、美味しいのでしょう?」
 そうだな、と彼は笑う。
 壊れた屋根や窓の隙間から差し込む光は柔らかく、二人だけの広い教会を照らしていた。

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#ライレフ #腐向け

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例えばのお話【ライレフ】

例えばのお話【ライレフ】
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そろそろなんか書かないとなーということで診断メーカーからお題拝借。140字SSのだけど気にしない。
30mで終わらせるつもりが足りず。追加10mで合計40mSS。

貴方はライレフで『たとえばの話』をお題にして140文字SSを書いてください。 http://shindanmaker.com/375517



「例えば、さ」
 背もたれによしかかり、椅子の足を浮かせギコギコと揺らしていた雷刀が口を開く。烈風刀は作業する手を止める様子はない。どうせろくでもない話だ、真面目に聞いても仕方がない。
「オレが頭良かったらどうする?」
「どうもしないでしょう」
 ありもしないことを、と烈風刀は続ける。冷たい言葉に雷刀はやる気なく声を上げた。酷くつまらなそうだ。
「例えばだって」
「ありえないことを例えてどうするのです」
「あり得ないことだから例えるんだよ。夢がないなー」
 笑う雷刀を不機嫌そうに見る烈風刀。雷刀は気にする様子なく、そのまま天井を指すように指を立てた。
「例えば、冷音がずっと雨降った時の性格だったら」
「……赤志君が苦労しそうですね」
「灯色がキレそうだな。『眠れない』って」
「彼ならどれだけうるさくても眠れるでしょう」
 授業中はもちろん、野外でもどこでも眠っている灯色だ。確かに睡眠の邪魔をされた時の彼は酷く不機嫌だが、その程度で起きるほど彼の眠りは浅くない。
「例えば」
「例えば?」
「レイシスが妹だったら」
 雷刀の言葉に烈風刀の手がぴたりと止まる。どうしたのだろうと顔を窺うと真剣な表情で自身の指先を見つめていた。声をかけるのもはばかられ、彼が口を開くまで待つことになる。
「…………今も、妹みたいなものでしょう。変わりませんよ」
 ようやく答えた声は妙に平坦だ。先ほどの表情と相まって本気で考え導き出した答え――いや、その上でぼかしたような答えにしか聞こえない。それがなんだか面白くなくて、雷刀はからかうように問うた。
「そんなに真剣に考える事か?」
「真剣になんて考えていませんよ。ただ想像してみただけです」
「やらしー」
「何がですか」
 烈風刀の声に怒りの色が混じる。少し潔癖症の気がある彼をからかうにはどうも悪かったようだ。ごめんごめん、と謝って雷刀は言葉を続ける。
「例えば」
「……例えば」
「オレたちが双子じゃなかったら」
 再び烈風刀の手が止まった。どういう意味だ、と訝しげに雷刀を見るが、彼は普段通りの表情でこちらを見ていた。しばらく彼を見つめた後、烈風刀は机の上の書類に目を戻り言葉を紡ぐ。
「きっと、関わることはなかったでしょうね」
「そうか?」
「貴方と私は成績も性格も真逆でしょう。話す機会はあまりないと思いますし、進路も違っていたでしょう」
 雷刀の学力と烈風刀の学力には随分と差がある。この学園は雷刀の学力では難しい部類だったが、兄弟である烈風刀と同じ進学先にしたいと努力した結果入学することができた。もし烈風刀がいなければ、雷刀が自身の学力に見合わないこの学園を選ぶことはなかっただろう。
 烈風刀の答えに雷刀は首を傾げ、彼の顔を見る。
「そうか? なんかかんか出会ってそうだけど」
「出会っても、こうやってずっと一緒にいるなんてことはありませんよ」
 ただのクラスメイトで終わりです、と烈風刀は言う。雷刀は相変わらず不思議そうな表情でいたが、すぐにいつもの明るい表情に切り替わった。
「双子じゃなけりゃこんなことなってなかったと」
「……こんなことって」
 どんなことですか、と問おうとして烈風刀は口を閉ざした。きっと茶化すような答えしか返ってこないだろう――もし行動で示されれば、困るのは自分だ。幸い、雷刀は楽しげに笑うばかりで追及する様子はない。
「やっぱ双子でよかったな」
「そうですね」
 補色のように正反対の二人。それを繋ぐのは血縁という名の硬い糸。
 その他に彼らを繋げるものはあったのだろうかなんて考えても仕方ないのだ。そう結論付けて雷刀は天井を仰いだ。
 ふと、ペンを動かす烈風刀の手が止まった。教室に響いていた音がぱたりと止まり、どうしたのだろうとそちらに目をやると積み重ねられた書類を揃える烈風刀姿があった。
「終わりました。早く提出して帰りましょう」
「おう」
 雷刀は反動をつけて椅子から立ち上がる。危ないですよ、と諌める烈風刀の声は聞こえていないようだ。
 教室を出ようとする烈風刀の手を雷刀が握る。びくりと烈風刀の体が小さく震えた。
「いこうぜ」
 雷刀は楽しげに笑って、握った手を引き廊下を駆けだす。突然のことに烈風刀は声を上げる暇もない。ただただ、彼の速度に合わせて足を動かすばかりだ。
 こんなことも、双子でなければやることはなかったのだろうな。そもそも、手を握るなんてこともなかったのだろう。
 双子だから。兄弟だから。こうやって繋がっているのだ。
 そんなことを考えて烈風刀は小さく笑った。
 夕暮れ茜色に染まる廊下に繋がった影が走っていく。

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#嬬武器雷刀 #嬬武器烈風刀

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感情論【ライ→レフ→レイ】

感情論【ライ→レフ→レイ】
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ぐわっとライ→レフ書きたいのとレフレイ熱が来たのとが合わさった結果。
オニイチャンしか出てこない。



 烈風刀がレイシスを好いていること――恋していることを、雷刀は知っている。
 彼女に対する弟の態度は明らかに恋をしているそれで、言葉の端々にもよく表れている。何時でも冷静で顔色一つ変えない彼故に他者は気付かないかもしれないが、兄である雷刀にはすぐに分かった。そんな弟の姿を、幼い頃から何度も何度も見ていたのだから嫌でも気付く。
 そんな彼が彼女に想いを伝えることはないだろう、と雷刀は確信している。
 彼はああ見えて臆病で、きっと関係を壊すのを恐れている。堅実な彼が大きな賭けに出ることはまず無い。だから、ずっとこのままだ。
 諦めればいいのに、と雷刀は常々考えている。
 恋い焦がれながらも現状維持を望む弟のいじらしい姿は見ていられない、というのもある。けれども、そんなものはただの建前だ。本音は『烈風刀とレイシスが恋仲になること』を恐れているのだ。三人の関係が変わると言うこともあるが、何より烈風刀が好きなのだ。烈風刀がレイシスを好いているように、雷刀も烈風刀を好いていた――もちろん、恋愛感情として、だ。
 彼と同じように、自分がこの想いを伝えることはない。血の繋がった弟にそんな感情を抱く兄なんて、気持ち悪くて堪らないだろう。現在の関係も壊れ、彼との繋がりもなくなってしまう。そんなことになるぐらいなら、この想いなど殺してしまえばいい。なのに、殺しきれない。一度芽生えた感情は、そう簡単に消すことなど出来なかった。
 自分も大概臆病だ、と雷刀は自嘲した。何て女々しいのだろう。自分らしくもない。
 彼が自分とそういう仲になることは絶対にない。けれども、他者に彼を奪われるのは嫌だ。弟が叶える気のない恋をすることすら嫌だった。なんて我が儘なんだろう。
 けれども、この醜い考えが消えることはないのだろう。きっと彼が恋をする度こいつは顔を覗かせる。愛する人の不幸を願う、醜く汚ならしい感情が。
 『恋』なんてものがなければ。そう考えても仕方がないのに、頭にはそんなことばかり浮かぶ。彼が恋をしなければ。自分が恋をしなければ。
 はぁ、と誰にも気づかれぬよう雷刀は嘆息する。
 実らない想いは募るばかりで、胸を苛む。
 彼がいる限り、この痛みが消えることなどない。

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#ライレフ #腐向け

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