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味覚と色彩【ライレフ】

味覚と色彩【ライレフ】
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即興二次でNL書いたらその反動かほもが書きたくなったので毎度の如く30mでライレフ。少し修正したけど納得いかないからあとで書き直す。
葵壱へのお題は『大切にしたいと傷付けたいをいったりきたり』です。 http://shindanmaker.com/392860

 ソファに座る弟を見る。相変わらず何か本を読んでいるようだ。見た目より好奇心旺盛な彼は純文学からジャンルも分からないような怪しいものまで何でも読むのだ。
 今度は何だろうか、と好奇心の赴くままにソファの背越しに彼の首に腕を絡め抱き付く。ひくりと驚いたようにその肩が揺れたが、すぐに疎ましげな視線が投げかけられた。最初の頃はかなり驚いていたのだがもう慣れてしまったらしい。やっと触れるのに慣れたことを喜んでいいのやら、初々しさがなくなって寂しいやら。複雑だ、と身勝手なことを考える。
「何の本?」
「料理雑誌ですよ。そろそろレパートリーが尽きてきた気がしますので」
 肩越しに見えるページは色鮮やかで食欲をそそるものばかりだ。優等生な彼はこういうことまで勉強熱心のようだ。烈風刀の作るものなら何でも美味しいのに、と呟くとそういう問題ではないのです、と不服そうな声が返ってきた。すぐ隣にある耳がほんのり色付いていることは指摘しないでおこう。きっと敏い彼も気付いているだろう。
 更に視線を落とす。寒さも和らいだ今では二人とも家の中では薄着になっていた。首元も夏のそれほどではないが肌は露出されている。日に焼けていないそこは、彼の身体の中でも一際白く輝いているように見えた。
 ふと、この白を汚したいと思った。
 この白に口を寄せたら、思い切り噛みついたらどのようになるだろう。白に赤はよく映えるのだからきっと美しい。己の手でこの白に痕を残すのは、きっと支配欲を満たしてくれるだろう。
 けれども、同時に本来の美しさを汚すのはいけないことだと頭の片隅でなにかが主張する。この美しい色に別の何かをぶちまけ壊すことは冒涜にも似た行為だ。美しい者は美しいままが一番であり、それを汚すのは無粋以外の何物でもない。
 昔、一度だけ行為中に首筋に思い切り噛みついたことがある。彼は痛みと驚きに顔を歪め、酷く怯えた悲鳴を上げた。その翌日には今までで一番と言っていいほど怒り、しばらくの間接触を禁止された。それ以来そういう類のことはしていないが、時折欲は湧いてくる。男なのだから仕方ないという言い訳は彼に全く通用しないけれど。
 さてどうするかな、としばし考えて。
 その首筋をべろりと舐めた。
「――っ、ぃ!」
 声にならない悲鳴を上げ、びくりと烈風刀の身体が大きく跳ねる。その拍子に雑誌が彼の手から滑り落ち、音を立てて床に叩きつけられた。
「何するんですか!」
「いやぁ、美味しそうだなーって」
 実際は汗のしょっぱさしかなかった。あんなに美味しそうな色と艶なのだから他の味があるべきではないかなどと思うが、人体にそれを求めるのは無茶だろう。――そのすぐ下を流れる血液ならば話は別だろうが。
「ふざけるのも大概にしてください」
 烈風刀は射殺さんばかりにこちらを睨んだ。この行為はもちろん、読書の邪魔をされたのも腹が立ったのだろう。ごめんごめんと笑って謝るが、その瞳から怒りの色はまだ消える様子がない。
「邪魔をするなら離れてください」
 腕を掴まれ無理矢理引きはがされる。これ以上機嫌を損ねては明日以降が怖い。大人しく引き下がることにしよう。
 自室に向かおうと彼に背を向ける。なんとなく舌を出し、舐めるようにその上に自身の指を滑らせる。先ほどの味はもう残っていない。
 まぁ、あの白を汚すか否かは今晩考えよう。
 そう考えて、彼に気付かれぬよう一人笑った。

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#ライレフ #腐向け

SDVX

献身【神十字】

献身【神十字】
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KACバムのcroiX曲コメにたぎったのでそんな感じの突発的な神十字。
支配者で神様大好きな十字の話。

 この一帯を支配する塔、その最上階の片隅にひっそり存在する一室。倉庫のようなそこに一人の男がいた。
 巨万の富を得て人々を統べる男には不釣り合いなほど汚らしくみすぼらしいこの部屋だが、男にとっては何よりも重要な、己の命と等しく大切な部屋であった。
 男はこれまた彼に似合わぬ朽ちかけたぼろぼろの椅子に座り、穴と言われても差し支えないような壁にぽっかりと開いた窓から星のない月しか存在しない黒い世界をその翠玉にも似た冷たい碧の双眸でじっと見つめていた。
 不意に窓から注ぐ冷えた光が消え、室内が本来の闇に近付く。風など吹いていないのに、草原にも海にも似た色をした男の髪がさらりと揺れた。
 窓の真ん前、白く冷たい月を背負って一人の男が部屋に降り立った。突然現れた燃えるような赤が暗い闇を彩り、その闇に溶けるような黒のブーツが床を叩く硬質な音が暗い部屋に響く。
(Gott)
 弾かれたように男は立ち上がり、月を背負う男――彼が言うところの『神』に駆け寄った。その表情は普段の冷徹で尊大な彼からは想像できないほど明るい。
 まるで生き別れの家族に会うような。
 まるで恋い焦がれる少女のような。
 まるで親に縋る子供のような。
 そんな様子で男は月を背負う男の元へと駆け、ごく自然な動きでその目の前に跪いた。彼を知る者が見れば己の目を疑うだろう。人を、物を、全てを支配せんとする、生きとし生けるものの頂点に立つ冷然な彼の行動とは到底思えない。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
 月を背負う男が口を開くと、男はすぐさま答えた。その瞳は熱に蕩け潤みさえしていた。ここ最近闇に浮かぶ赤の男――『神』は姿を見せておらず、本当に久方ぶりの邂逅であった。この時をどれほど待ち望んだのだろうか、喜びを表すように男の温度のない白い肌には仄かに朱が差していた。
「元気そうでなにより」
 そう言って『神』は男の頭を撫でる。普通の人間ならば指先一つ触れるだけで首が飛ぶほどの重罪だというのに、男はそんな素振りは一切見せず嬉しそうに目を細めた。ほぅ、と漏れる息はどこか熱を孕んでいる。
「長いこと来なくて悪かったな。いい子にしてたか?」
「お気になさらないでください。こうして再び貴方を拝見することができただけで、私は幸せなのです」
 『神』の言葉に男は勢いよく顔を上げ泣きそうな瞳で彼を見た。自身のような矮小で瑣末な存在が神の行いを妨げるのは、男にとって許しがたいことだった。
「私は神のものなのですから」
 男は幸福に浸るような瞳でふわりと笑った。誰にも見せることのない――目の前に存在する、彼にとって唯一の『神』にのみ捧げる幸せな笑みだった。
 そんな男を見て『神』は口角を上げた。笑みにも似たその表情からは彼の感情は読み取れない。けれども、その血のように赤く昏い瞳には温度など欠片も感じられず、全てを見下すような、世界を嘲るような色をしていた。その瞳を今この時だけは自身が独占しているという事実に男の身体は歓喜に震えた。
「分かってる」
 幾度も聞いた言葉に幾度も言った答えを返し、『神』は男の頬に指を滑らせる。ひくりと男の肩が跳ねるが、その視線が目の前の赤から外れる様子はない。その姿に『神』は愉快そうに笑みを浮かべた。
 瞼を、眦を、耳を、頬を、頤を、男の肌の上を指が踊る。最後に唇を親指で撫ぜると、小さく息を飲む音が部屋に零れた。気にせず『神』は幾度も赤く色付いたそれに指を這わせる。時折柔く押してみると、男の細い肩がふるりと震え翡翠のような瞳は今にも泣いてしまいそうなほど熱に潤んだ。もし『神』の指がなければ彼の口からは艶めかしい吐息が漏れていただろう。それでも『神』の行為を妨げないために唇を引き結ぶ様は酷く忠実で愚かで愛らしい。無意識に口角が釣り上がる。餌を目の前にした獣のようなその表情に男の背に甘い痺れが走った。そんな惨めな男の様は『神』の攻撃的な部分を強く刺激する。
「お前は俺のものなんだよな?」
 最後にさらりと一撫でし、『神』は男から指を離し問う。男は名残惜しさと自らに投げられた彼の言葉に緩やかに目を細め小さく頷いた。
「――この財も、民も、名誉も、身体も、魂も、全ては貴方だけのものです」
 好きなだけ喰らってください、と男は儚げな笑みを浮かべ『神』を見つめた。翡翠を熔かした瞳には、目の前の燃えるような赤しか映っていない。
 ハッ、と『神』は酷く愉快な様子で笑い、己の髪のように赤いその唇に噛み付いた。男の鼻にかかった甘い吐息すら喰らうその様は、捧げられた贄を貪る怪物そのものだ。
 月すら消えた暗闇の中、濁った紅と揺らめく碧が溶け合って消えた。

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#ライレフ #腐向け

SDVX

比重【咲霊】

比重【咲霊】
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咲霊書きたくなったので咲霊。重い話。
糖度調節間違った感が多少ある。

 さくや、と細い声で呼ぶと、なぁに、と柔らかな声が返ってくる。二人きりの時のいつもの甘ったるい色は欠片もなく、それがなんだか寂しい。それを察したのか、咲夜の白く細い指が霊夢の黒く艶のある長い髪を梳いた。慈しむようなその指は、屋敷全体の仕事を指揮し行っているということなど信じられないほど美しい。自分と違ってしっかり手入れをしているのだろうな、とぼんやり考える。
 二人きりで会うと約束した時、咲夜は必ずこちらに訪れる。決して霊夢を屋敷に呼ぶことはしない。こちらから向かおうにも先回りして逃がさないように神社に来るのだ。仕事はいいのかと尋ねると、事前にしっかりと許可と休みを貰っていると言われた。公認よ、と楽しげに笑う彼女の顔をまともに見ることができなかったのは記憶に新しい。
 けれど、少し不満だ。
 感情が顔に出ていたのか、髪を梳く手が止まる。視線を上げると柔らかに笑んだ彼女と目が合う。
「嫌?」
「ちがう」
 むしろ好きな部類だ。咲夜の手つきは優しく丁寧で安心する。それを直接言ったことはないが、彼女も分かっているようでそう、と短く返事して霊夢の頭を撫でた。
「咲夜」
「なぁに」
「……次は、あんたのとこじゃ駄目?」
 呟くように尋ね、逃げるように彼女の胸に顔を埋めた。
 彼女ばかりこちらに訪れるというのは少し面白くない。己の空間に彼女が様々な跡を残していくのは嫌ではない。でも、彼女が自分に跡を残すように、自分も彼女に跡を残したいのだ。
 忘れぬように。
 無くさぬように。
 逃がさぬように。
 彼女に、自分を刻み込みたい。
 重いなぁ、と自嘲する。霊夢は物に執着する人間ではないが、どうしても手放したくない物もある。咲夜はそれに該当する。同時に独占したいものにも属する。要は、好きなのだ。お茶やお酒とは別の、代替のきかない離したくない離れたくないものだ。
 そんな霊夢の考えを知ってかしらでか、咲夜はどこか困ったように笑った。
「ダメ」
「なんでよ」
 思わずふてくされたような声で問うと、小さく唸るような声が聞こえた。いつでも冷静で瀟洒に振る舞う彼女にしては珍しい。上目遣いになるような形で見上げると、ゆらゆらと揺れる赤と目が合う。所在なさ気だったそれは意を決したようにこちらを見据え、困ったように笑った。
「貴方が家に来ると、お嬢様が会いたがるでしょう? 二人きりになろうにも、お嬢様から貴方を引き剥がすわけにもいかないし」
 独り占めできないじゃない、と呟く声は拗ねた子供のようで、それでいて強い欲が滲み出ていた。
 あぁ、咲夜も同じなんだな。安堵して彼女の胸に額を擦りつける。何も言わず咲夜はその背を撫でる。あやすようなその感覚と触れる温かさにとろりと瞼が落ちてくる。
「寝る?」
「ん」
 肯定とも否定とも取れる返答をして霊夢は咲夜に身を寄せる。ふふ、と小さな笑い声が降ってきて、自身の背に彼女の両手が回った。そのままぎゅっと抱きしめられる。溶けて混じりあってしまいそうな温度なのに、安心感で胸がいっぱいになる。
 一杯のはずなのに、もっともっと欲しくて自らも彼女の背に手を回した。

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#咲霊 #百合

東方project

紅模様【さなれいむ】

紅模様【さなれいむ】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:早すぎた妻[1h]

 霊夢は縁側に腰掛けて、淹れたばかりのお茶に口をつける。博麗神社でよく見られる光景だが、今日は少し違う。
「やっぱり縁側っていいですねー。こうやってお茶飲むの、憧れてたんですよ」
 早苗はのほほんと笑う。霊夢は「そう」と小さく相槌を打って茶をすすった。
 今日は霊夢一人でなく、早苗と二人だ。お茶菓子も珍しく二人分ある。「里で新作の和菓子が出ていたから」と早苗が持ってきたのだ。霊夢の好物を把握している彼女が持ってくる菓子はどれも美味しい。霊夢は満足げに笑い、「せっかくだから」と茶を淹れた。そして早苗の希望で縁側に二人で腰かけたのだ。
 早苗がわざわざ似たものを探してきたこともあり、二人が手にしている湯呑は実質お揃いだ。そんなことをしなくてもいいのに、と霊夢は考えるが、早苗にとっては重要なことらしい。色合いが異なるため取り間違えるような不便はないので彼女の好きにさせておくことにした。
「あ、そういえば、これおすそわけです」
 がさり、と早苗が手にした薄い袋を持ち上げる。上から覗きこむと、中には数種類の野菜が入っていた。どれもとれたばかりのようで、所々土で覆われていた。その黒が野菜の色を引き立て、更に美味しそうに見えさせる。
「豊穣の神様に頂いたのですが、家だけでは食べきれなくて。神様に了承はもらったので、おすそ分けに来ました」
「それなら味は確かね。ありがとう」
 礼を言い、袋を部屋に押し入れる。立ち上がらず寝そべってぐいぐいと押しやる霊夢の姿に「行儀が悪いですよ」と早苗は言うが、彼女は聞く耳を持たないようだ。
「なんかもう、通い妻みたいですね」
 えへへ、と早苗は嬉しそうに笑う。反面、霊夢は渋そうな顔で「訳分かんないこと言ってんじゃないわよ」と切り捨てた。
「えー。だっていつもこうやってお菓子持ってきてますしー、ご飯も作りますしー、お掃除もしますしー。もう妻同然ですよ」
「お菓子については感謝してるけど、ご飯は二人で作ってるし、掃除も手分けしてるでしょ。ふつーよ、ふつー」
 指折り数える早苗の姿に霊夢は呆れたように溜め息を吐いた。「それはそれで夫婦の共同作業って感じでいいですね!」と目を輝かせる早苗の顔にベシリと札を張った。妖怪用のものなので人体に害はない。ただ、張り付いて息が苦しくなるだけだ。
「酷い」
「訳分かんないこと言うからよ」
 どうにか顔面から札を剥がしむくれる早苗を無視して、霊夢は残っていた饅頭を齧った。粒あんの甘さが口いっぱいに広がる。そうして甘ったるくなった口に渋いお茶を飲む。あぁ、なんと幸せだろうか。霊夢は顔を綻ばせた。
「関係的には霊夢さんが妻ですけど、行動的には私が妻ですよね?」
「だから妻も夫もないでしょ……」
 霊夢と早苗に性差はないのだ。妻や夫といった振り分けなどできないのだ。なのに彼女は何故拘るのだろう。霊夢には理解できそうにない。
「そもそも私達じゃ結婚もなにもないでしょ」
「外には『事実婚』という言葉があるんです」
「外は外、ここはここ」
 不満気な声を上げる早苗を、霊夢は膝の上に頬杖をついて見やる。下から覗きこむ形なので、早苗からは上目遣いをしているように見えた。まだ少し幼い霊夢のその姿はどこか妖艶で、早苗の心臓がどきりと跳ねた。
「『結婚』云々の前に、『恋人』らしいことした方がいいんじゃないの?」
 にやにやと愉快そうに笑いながら霊夢は言う。彼女らしからぬ言葉に、早苗の顔は驚きと羞恥と幸福感でだんだんと紅葉のように鮮やかな赤色で染まっていった。
「……霊夢さん、顔真っ赤ですよ」
「あんたに言われたくないわよ」
 それは霊夢も同じだったようで、彼女は顔を隠すようにうつむく。美しい黒髪から覗く頬は早苗同様鮮やかな赤で染まっていた。よく紅白と表現される彼女だが、今は紅紅といった感じだ。
 その顔を覗き込むように早苗は腰をかがめ、霊夢の頬を撫でる。寒さで冷えた手にとって、彼女の熱はとても心地よいものだった。冷たさと羞恥心で逃げるのではないかと思っていたのだが、霊夢はピクリと肩を震わせただけで動く気配はない。
「恋人らしいこと、ですよね?」
 ゆっくりと、『恋人』という部分を強調して問うと、霊夢は「ん」と短く返事する。肯定とも否定ともとれる言葉だが、肯定と思っておこうと早苗は彼女のなめらかな黒髪を掬い上げ、唇を寄せた。それが分かったのか、霊夢は小さく身体を震わせた。
「そんなとこにしてどうすんのよ」
 霊夢は横目で早苗を見やり、小さく呟く。早苗はその物足りなさそうな声に、わざと「何も分かりません」という風ににっこりと笑いかけた。
「自己満足です」
「へんたい」
 霊夢は不満げに呟いて、髪を掬う早苗の手に己の手を重ねる。それが現状の彼女にとっての精いっぱいだと知っている早苗は、にへらと幸せそうに笑った。 
「でも、恋人同士でできる事って大抵夫婦でもできますよねー」
「うっさい」
 緩みきった顔で言う早苗に、霊夢は小さく返す。その声はいつもの不機嫌なものでなく、どこか嬉しそうなものだった。

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#さなれいむ #百合

東方project

はんぎゃくの竹林【輝夜+永琳】

はんぎゃくの竹林【輝夜+永琳】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:反逆の父[1h]

 竹林の奥の奥、ひっそりと佇む家屋の庭はいつもより騒がしい。もこもことした桃色の塊が庭を跳ね回っている姿は普段と変わらないが、彼らは自身の体程ある大きさの看板を持っていた。
 そこに書かれたのは『ストライキ』の五文字。兎達の労働放棄を示していた。
「ストライキ……って、前にもあったわね」
 そんな兎達の姿を、輝夜は窓から眺めていた。気まぐれな兎達の遊びだろう。前回もすぐに収まった――というよりもそれどころではなくなった――のだから放っておけばいいだろう。きっとイナバが解決してくれる。
 目の前を跳ねていく兎達に呼びかけてみるが、皆少し悩んでから首を横に振り「はんぎゃくだー」と言ってどこかに跳んで行ってしまった。悩んでいたとはいえ、兎達が逃げていくほどのことは前回はなかったはずだ。今回の騒動は思ったより厄介なのかしら、と輝夜は外を眺めながら呟いた。
「輝夜」
 声のする方へ顔を向けると、いつものように腕を組んだ永琳が立っていた。いつの間に入ったのだろう。襖が開く音は聞こえなかったが、彼女なら音もなく現れることぐらい容易だろう。なにせ、永琳なのだから。
「ストライキ?」
「えぇ」
 輝夜の問いに返答し、永琳は座った。こっち、と自分の隣をポンポンと叩くと、すぐに隣に来てくれた。彼女も外を跳ねる兎を見ている。
「呼んでもイナバ達が逃げていくの。ちょっと寂しいわ」
「今回のはちょっと厄介でね」
「何があったの?」
「ウドンゲまでストライキに参加してるの」
 永琳の言葉に輝夜は目を丸くした。あのイナバが、真面目で永琳の言うことには必ず従っていたあのイナバが、他のイナバ達と同じく仕事を放棄しているなんて。明日は雪でも降るのではないか。
「なんで?」
「分からない。分からないけど『ごめんなさい』って叫んで兎達の中に飛び込んでいったわ」
 はぁ、と永琳は深く溜め息を吐いた。忠実だった彼女の裏切りに参っているのだろうか。どうしたのかしら、と呟いた声は真剣そのものだ。
「でも、楽しそうね。私もストライキしてみようかしら」
「やめてほしいわ」
「はんぎゃくだー」
「もう、どこでそんな言葉を覚えてくるの」
 笑顔でイナバの真似をする輝夜を見て、永琳は苦笑した。その様子を見て輝夜もまた笑う。冗談よ、分かってるわ、なんて言葉を交わし、二人で窓の外を眺める。あんなにたくさんいたイナバ達はいつの間にかいなくなっていた。
「私が永琳に本気で逆らえるわけないじゃない」
 遠い昔、落とされた自分を救ってくれたのは永琳だ。一人反逆し、一人その身で自身を迎えてくれたのは彼女だ。逆らえるわけがない。逆らおうなんて、考えたことなどない。
「反対じゃなくて?」
「どうかしら」
 どこか困った顔で返す永琳の姿に、ふふ、と輝夜は笑う。
 世界にとって反逆同然の身体である自分。世界を自らの意志で反逆した彼女。互いを背くことなどない。永い永い今までも。そして、永い永いこれからも。
「さて、イナバ達をどうしようかしら」
「話し合いで解決?」
「できたらいいのだけれど」
 そう言う永琳の目には疲れが見えた。助手や家事当番がいないのは負担なのだろう。最近は研究などで部屋にこもりきりだったはずだ、疲れているに決まっている。
 よし、と気合を入れて立ち上がる。永琳が不思議そうな顔でこちらを見た。そんな彼女に胸を張って言葉を紡ぐ。
「私が解決するわ」
「……できるの?」
「反逆者同士なら受け入れてくれるわよ」
「反逆者同士って、どういう――」
「反逆者のふりをしてあの子たちの中に入って、そこで反逆するの。反逆者の反逆者よ」
 名案だという風に両手を上げ広げると、永琳は困惑した様子で顎に手を当てていた。頭のいい彼女でも、疲れた頭では繰り返される言葉の意味を上手く理解できないようだ。なにより理論自体がめちゃくちゃだった。
「そうと決まればはんぎゃくだー」
 輝夜、と声を上げる永琳の隣を駆けていく。
 形から入る彼らのことだ、きっと竹林のどこかで会議の真似事をしているだろう。今回はイナバがいるからちょっとは会議らしくなっているかもしれない。その様子も見てみたい、だなんて考えながら庭へ出る。
 私もまずは形から。反逆者の真似事から、本当の反逆者へ。
 そんなことを考え、輝夜は竹林に向かう。青々と茂る竹は彼女をすぐに包み隠した。

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#蓬莱山輝夜 #八意永琳

東方project

人工的な雨の跡【咲夜+美鈴】

人工的な雨の跡【咲夜+美鈴】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:斬新な水たまり[30m]

 赤い赤い廊下を歩く。大きな仕事は済んだので、あとは優先順位が低いものを順に処理していくだけだ。
 庭につながる廊下から外へ目をやると、地面にはいくつもの水たまりができていた。不可解なその状態に眉をひそめる。この場所だ、原因は一つだろう。咲夜はわざとらしく溜め息を吐き庭へと歩みを進めた。
 犯人の追跡は簡単だった。なにせ水たまりは点々と続いているのだ。それを追って歩けばすぐにその姿が目に入った。
「何をしているの」
 しゃがんで地面を見つめている女の背中に冷たい言葉を浴びせる。ナイフのように鋭く冷たい声に女――美鈴はびくりと身体を震わせた。ぎこちなく振り返った彼女は気まずそうな表情をしていた。
「いえ、蛙がいたものですから……」
「子どもじゃあるまいし」
「でも花壇にいられると作業しにくくて困るんですよ。かといって触るわけにもないがしろにするわけにもいきませんし」
 神様は怖いんです、と呟いた。そういえばいつぞや新しくできた神社の神は蛙に関係しているといった話を耳にした覚えがある。しかし彼女がそこまで気にすることなのだろうか。咲夜は首を傾げた。
「で、それがこの水たまりとどう関係があるの?」
「触るわけにもいかないので水をかけて追い払ってたら変な方向に跳んでいっちゃいまして」
「追い掛け回してこうなった、と」
 丸っきり子供の行動ではないか。あまりのくだらなさに咲夜はわざとらしく溜め息を吐いた。仕方ないじゃないですか、と美鈴は恨みがまそうに呟く。何がどう仕方ないのだと問い詰めたいが、そんなことをしても意味はない。呆れた顔で腕を組み、しゃがみこんだままの彼女を見下ろす。
「これ、どうやって片付けるの」
「今日は天気がいいのですぐに乾きますよ。庭を歩くのは私と咲夜さんぐらいですし困らないでしょう?」
「私が困るじゃない」
 確かに雇っている妖精達は飛んで仕事をするし、仕事のほとんどは館内の雑事であり庭に行く者はほとんどいない。ここを通るのは飛ばずに行動する咲夜と庭を一任されている美鈴ぐらいだ。
「咲夜さんなら器用ですし大丈夫でしょう」
「そういう信頼入らないわ」
 はは、と誤魔化すように笑う美鈴を咲夜は睨みつける。彼女はそれから目を逸らすように立ち上がった。彼女よりも少しだけ身長が低い咲夜は、先ほどまでとは逆に自然と見上げる形になる。
「汚れたら私が水場まで運んで洗ってあげますよ」
「いらないわよ」
 それこそ子供じゃあるまいし、と咲夜は呆れたように呟いた。何故汚れた程度で彼女の世話にならなければいけないのか。そもそも彼女がこんな水たまりを作るのがすべて悪いのではないか。考える内に苛立ってきた。
「とにかく、早くどうにかしなさい」
「どうにもなりませんよ」
「なにかあるでしょ。全部汲み上げるとか」
「流石に無理ですよ」
 無茶振りそのものな提案に美鈴は眉をハの字に下げる。それが気に入らないようで、咲夜は目を細め彼女を見つめる。鋭く痛い視線だった。
「まぁまぁ。たまにはいいじゃないですか。ほら、水たまりに映った空が綺麗ですよ」
 美鈴は慌てた様子で近くの水たまりを指さす。確かに庭に点在する水たまりには晴れ渡った空が映し出されていた。
「こういう斬新な空の見方もあるんですよ。そう、そういうことです」
「誤魔化さないで」
 子供だましにもならない言い訳に咲夜の声音がだんだんと怒りで染まっていく。ふざけすぎたのは十分分かっているようで、美鈴はすみません、と消え入りそうな声で謝った。
「とにかく、早く何とかしなさい。できなきゃおかずを一品減らすから」
「そういうのはやめてくださいよ!」
 美鈴は泣き出しそうな声で叫んだ。肉体労働の多い彼女には堪える罰だ。なにより咲夜の料理はどれをとっても美味しい。たった一つとはいえ美味しいものを味わえなくなるのは辛いことなのだ。
 水たまりには困り果てて泣き出しそうな赤色が映っていた。

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#十六夜咲夜 #紅美鈴

東方project

信【霊夢】

信【霊夢】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:大きな信仰[30m]

 博麗神社の巫女といえば博麗霊夢だが、彼女自身は何故巫女をやっているのか、そもそも何故ここで暮らしているのかは全く知らない。
 ずるずると記憶の糸をたぐってみても、思い出せる一番古い記憶は『ここに居た』ということだけだ。生んでくれた両親の顔など思い浮かばないし、こんな辺鄙な神社で暮らすことになった経緯も覚えていない。妖怪やら里の者に世話になった覚えはあるが、何故このような状態にいることは誰も教えてくれなかった。自ら尋ねたことがないのだから当たり前かもしれない。一体何故なのだろうと不思議に思ってはいるが、そんなこと気にしても仕方のないことだと彼女は現状を受け入れていた。諦めていたともいえるかもしれない。
 そんな彼女は信仰心なんてものは持ち合わせていない。神がいることは自ら実証し知覚しているが、彼らを強く信じ敬っているわけではない。ただそこにいるということだけを認識し、その事実を否定しないだけだ。無論、ここ博麗神社におわすという神も例外ではない。巫女なんて役割を貰っているが、霊夢には神を信仰するなどという考えはなかった。
 信じる者は救われるなんて言うけれども、救われなかった者を霊夢は沢山見てきていた。彼らはその願いが叶えば神に感謝するが、叶わなくとも神を本気で恨んだりしない。『救われる』のは本人の気の持ちようでしかないというのが、この辺鄙な場所で願掛けをしていく者の行く末を見てきた霊夢の考えだ。
 そんなことを考え実質上蔑ろにしているのだから、自分は救われることはないだろう。そもそも救ってもらいたいと強く思うほどの状況に陥った覚えがないのだけれど。都合よく祈っても思いなど届かず、ただただ自分の無力さを痛感するばかりに決まっている。人にしろ神にしろ、いざというときだけ頼られても困るのは明白だ。自分だってそんな奴見捨てるに決まっている。
 けれど。
 けれど、もし本当に神様とやらが人を救う気があるのならば。


「……空っぽよねぇ」
 上の木枠を外し中を見る。大きな木の箱の中には枯葉すら入っておらず、すっからかんという表現がとても似合う状態だ。予想通りの光景に霊夢は深く溜め息を吐いた。


 神様。やる気があるならこのいっそ清々しいほど中身のない賽銭箱を満たしてください。

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#博麗霊夢

東方project

辿る幻【早苗】

辿る幻【早苗】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:100の幻想[30m]

 小さい頃は本を読むのが好きだった。
 小説はもちろんだが、図鑑を読むのが好きだった。現実でありながら未知の世界が広がっている光景は圧巻で、幼い知識欲が刺激された。動物、花、昆虫、鳥、どんなものでも読んで、それらが存在する世界に思いを馳せた。
 図鑑は実在しないものも教えてくれた。妖怪もその一つだ。雪女、のっぺらぼう、小豆研ぎ、猫叉。何百もの幻想の生き物をそこで見ることができた。小説の中で出てきたそれを調べたことも多々ある。
 様々な本の中で活躍する彼らは非常に楽しそうだった。人間を驚かせ、時には悪に立ち向かい、何物にも縛られず思うがままに日々を自由に過ごしている。それはルールでガチガチに縛られた人間から見れば羨ましいものだった。
 同時に彼らは苦しそうでもあった。人間に存在を否定され、姿を現せば疎まれ退治される。彼らは常に人間とともにあり、人間に虐げられていた。それを可哀想だと零したのは何時だっただろう。
 幻想は幻想である。そう簡単に認め受け入れられるものではない。
 そんなことを、同じく幻想の存在とされる神は語った。その表情はどこか寂しそうで、幼いながらも胸が苦しくなった。今思えば、彼女らは幼子を宥める為に自身で自身を否定したのだ。幼い子供が感じた程度では済まされないであろう辛さがあったはずだ。
 幻想の存在。見たことのない彼らは本当に存在するのだろうか。
 図鑑は何も答えてくれない。


 パタリ、と床に広げていた本を閉じる。フルカラー印刷に耐えうるしっかりした分厚い紙で作られた本は重く、成長した今でも閉じるのには力が必要だった。これを毎日開いて読んでいたのだから、子供の集中力と探求心は凄い。
 固い表紙を撫でる。大きく書かれた『妖怪大図鑑』という文字はどこか色褪せていて、時間の経過を物語っていた。
 押し入れの中のダンボールに眠っていたそれらを見つけ黙々と読んでいたが、どれも懐かしいものばかりだ。動物、花、昆虫、鳥、そして妖怪。幻想の存在。見たことのなかった者たち。それらは変わらずそこにいた。
 開け放たれた障子の外、鮮やかな青の空を見上げる。遠くにぽつりと浮かぶ黒い点は同じ山に住む天狗だろう。境内で神奈子と話している青い服の少女はおそらく河童だ。最近付き合いができた彼女らは度々ここを訪れ神――神奈子と話していた。
 図鑑の中の幻想の存在だった妖怪達。
 それが今ここにある。目の前で生きている。
「否定なんて、できませんよね」
 だって、この目で見ちゃいましたもの。
 そう考えて、くすりと笑みが漏れる。
 畳の上では色褪せた図鑑がいくつも寝転んでいた。

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#東風谷早苗

東方project

時と夢の比例【魔理沙】

時と夢の比例【魔理沙】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:大人の夢[15m]

 ぐ、と息を詰め足先に力を籠め腕を目一杯伸ばす。そうしても棚の上に積み上げられた本に指先すら届かない。
 何故届きもしないこんなところに片づけたのだ、と呆れたように溜め息を吐き、大人しく諦めて椅子を運ぶ。あれほど遠い位置にあったそれはすぐに手の内に収まった。なんだか負けたようで腑に落ちない。
 もっと身長が高ければ。そう思うことは多々あるが、身長が伸びる気配はない。徹夜する以外は健康的な生活を送っているというのに何故なのだ、とむくれる。見た目が小さいというのは生きる上で不便なのだ。
 もっと成長すればどんなところにも手が届くだろうか。
 もっと時が経てば今以上に魔法に近づけるだろうか。
 大人になれば。
 そう考えることはあるが、結局は机上の空論だ。たらればは物事のきっかけにはなれど、ただ囚われるだけではろくなことにならない。
 そもそも、だ。大人になれば身長が高くなるなんて保障はない。大人なんて夢に憧れて悪戯に時を過ごすだけで心身共に成長できるはずがない。大人になるということは、有限である時間が着実に減っていることを意味する。今ですら足りないというのに、これ以上減るなんてごめんだ。
 大きな夢を追うために、大人になるのはまだ早い。
 抱えた本を机の上に載せる。重いそれは音を立てて着地した。
 戻した椅子に座りその内の一冊を開く。遠い昔の大人達が残した知識を、夢を、願いを吸収し、幼い魔法使いは成長を遂げるのだ。

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#霧雨魔理沙

東方project

あまやどり【神奈子+早苗】

あまやどり【神奈子+早苗】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

お題:神の経験[15m]

「神様でもやったことないことってあるのでしょうか?」
「あるよ。いっぱいある」
 外は雨。神社の賽銭箱の前、雨宿りをするように座っている早苗が小さく呟く。隣に座った神奈子は同じく呟くように答えた。
「神様なのにですか?」
「神様だからだよ」
 神奈子の言葉に早苗は首をかしげる。何でもできる神奈子様にもできないことなんてあるのだろうか。小さな早苗には分からなかった。
「早苗みたいに学校に通ったことはないね」
「そうなのですか?」
 早苗は目を丸くする。こんなになんでもできる神奈子様が、学校に行ったことがないだなんて。
「だから、早苗が羨ましいよ」
「そんなこと、ないです」
 遊ぶのは楽しいけど勉強は嫌です、と早苗は口をとがらせる。子供らしいその姿に微笑んで、神奈子は彼女の頭を撫でた。
「勉強も楽しくなるさ」
「楽しくなりません」
「なるさ。興味があることが出てきたら、楽しくなる」
「……学校の勉強では、神様のことは出てくるのでしょうか?」
 小さな瞳が神奈子を見上げる。神と日々を過ごす彼女にとって、神は最大の関心事だった。彼女らが出てくる話はないかと図書館で本を読み漁った日々もあった。神奈子たちの話に耳を傾けることは日常と化している。彼女にとって神は別格の存在なのだ。それが学べるなら、どんなに楽しいのだろう。気になって仕方ないのだ。
「あー……、あるんじゃないかね」
「あるんですか?」
「学校に行ったことないから分からないや」
「ずるいです!」
 逃げるような神奈子の言葉に早苗は頬を膨らます。神奈子は申し訳なさそうに笑った。
「まぁ、頑張りなさいな」
「うー……」
 小さく唸る彼女の頭を優しく撫で、緑色の細い髪を梳く。少しだけ雨に濡れたその髪は、いつもより少し濃いように見える。
 雨はまだ止みそうにない。

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#八坂神奈子 #東風谷早苗

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